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その8

「はぁ……」

 昨日から自分の物となったらしい部屋に入ると、私は溜め息を吐く。そして考える。

(昨日のアレは、私も少し言い過ぎたかと思ったけど……)

 今までは自宅で同じ年頃の異性と暮らす事なんてなかったのだろうから、自分の家でノックをする習慣がない事や、お風呂に私がいたりする可能性っていうのを考慮しなかったのもしょうがないのかもしれない。着替えを見られた事はもう覆せない事実だし、私もかなり恥ずかしい思いをしたのだけれど、少し言い過ぎたんじゃないかと反省していた。しかし……

(まさか、図星をつかれたからって慌ててあんな事を口走るなんて……)

 先ほどのダイニングでのやり取りを思い出す。失言をした瞬間、ものすごい勢いで家を出ていった、矢城功司という兄となった人。

(おヘソって……)

 見られた事を意識すると、顔が熱くなる。しかも下着とかなら定番(?)だとしても、地肌だ。かなり恥ずかしかった。お風呂でものぼせかけた。

「…………」

 首を振って、その事を頭から追い出す。今、私が考えたいのは、矢城功司の人となりだ。

 ……多分、だけど。あの人は色々と天然なんだろう。

 私の事を気にかけて、色々話しかけてくれたり、何かと力になってくれようとするのも、自然な優しさ。

 最初は少し――ほんの少しだけ頼もしく見えた。だけど、実際に話してみると情けない……というよりも、どこか抜けてる感じがした。

(それにしても……あんな大きな声で喋ったのは久しぶり……)

 久しぶりに自分の言葉を思いっきり出した、昨日の言い合いを思い出す。

 私の中にあの妙な能力が芽生えてしまってから。私は口数も少なく、あまり人とは関わらなくなった。……いや、関われなくなった。

「……精神感応」

 他人の精神に勝手に触れて、他人の心を勝手に読み取る……いわゆるテレパシー。

 望んでいなくとも、自身の身にその能力が芽生えてしまった時は本当に酷かった。

 ただ、雑踏にいるだけで、聞いてもいないのに色んな声が頭の中で反響する。

 耳をふさいでも、どんなに大きな声でそれをかき消そうとしても。

 一方的に、その『声』は私に押し付けられた。

 しばらくしたら、私の能力も少しだけ落ち着いた。私から三メートルくらいの距離にいる人の声しか聞こえなくなった。

 でも……

(学校には、行きたくなくなったな……)

 その能力が芽生えてしまったのは、学校にいる時だった。何の、本当に何の前触れも突拍子もなく、今までそれが自然であったかのように、その不自然に侵食された。

 声。

 仲良くしている友達。何かと言い合うことが多い友達。あんまり仲が良くない人。チャラけている男子。何を考えているのか分からないクラスメート。いつも笑顔な先生。

 その人たちの心の声が、私に押し付けられた。見た目通りの事を考えている人や、何も考えてない人。そして、普段からは信じられない事を考えている人。その全ての声が。

 最初は訳の分からなかった私も、すぐにその意味を理解して、一気に気分が悪くなった。吐きそうになった。

 人の心なんて、読めない方が幸せなんだ。

 友達と喧嘩した時や、好きな人の事を考える時なんかは、『相手の心が読めればいいのに』なんて思った。だけど、実際に読めてしまうと……

「…………」

 首を横に振る。嫌な事を、知りたくもない事を知らされたトラウマを頭の中から追い出そうとする。

 ともかく、普段仲良くしているクラスメートの気持ちを勝手に覗いてしまった私は、もう学校へは行く気になれなかった。それ以来、あまり人とも話さなくなった。

「……あ」

 暗くなった気持ちを紛らわそうと、窓のところまで歩いていき、外を眺めてみた。すると、妙に困り顔なあの人と、遠めにも可愛いと思える女の子が並んで歩いている姿が目に映った。

「…………」

 この家の人はみんな優しい。名義上は家族でも、昨日までは他人だった私を温かく受け入れてくれた。当然、あの人も私を気にかけて優しく接してくれた。

 ……それでも、私と同じようで全く違ったあの人の事が、妬ましく思えた。



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