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その5

 母さんが「和泉さんごめんなさい和泉さんごめんなさい」と虚ろに繰り返す父さんと一緒に運んできた晩ご飯(ちなみに献立は、鯛の塩焼き、肉じゃが、たまごのスープ、きんぴらごぼうにお赤飯だった)を食べ終えた。

 郷華は基本的に無言だったが、父さんと母さんに話しかけられた時にはしっかりと反応を見せていた。

「ふぅ……」

 そして食後の片付けは母さんと父さんに任せ、俺は早々に自分の部屋へと引き返し、一つため息を吐く。そしてとりあえずベッドに寝転ぶ。

「……こんな感じでいいのかな」

 電灯を見つめながら、呟く。

(いきなり馴染めって言うのも無理な話だから別として……だ。俺の言葉は郷華を傷つけたりしなかったかな……)

 話題の選択や、話し方などに関しては細心の注意は払ったつもりだ。だから多分、きっと大丈夫……なんだろうけど、それでも少し不安になる。

「うーん、難しいなぁ……」

 どんな力かは知らないが、芽生えてしまった能力に関してなら俺も迷うことなく話が出来る。それは俺も同じように通った道だから。

 でも……。

(親に捨てられる気持ち、か……)

 それは、そのつらい現実に直面した気持ちは分からない。

 なんとなく、左手を電灯にかざしてみる。手首にはまだ色の新しいプロミスリングが巻かれている。ついこの間の、ちょっとした事件の際に付け替えたばっかりの物だ。

(俺の場合は……)

 ただ、本当に恵まれていたとしか言いようがない。誰にも見捨てられず、誰にも拒絶されなかったから。

(そんな俺に、何か出来るのか……?)

 何度も通った思考の迷路をまたなぞる。その出口は見当たらず、今日はずっと同じ事を考えているような気がする。

「考えるのはやめるか」

 同じ事を何回も考えていたってしょうがないので、そうしておく。案ずるより産むが易し。何事もなるようにしかならないと思うし。

 ひとまずそう結論づけて、俺はベッドから立ち上がる。

「とりあえずトイレ」

 そう呟き、部屋のドアを開けて廊下に出た。

「……あ……」

「ん?」

 すると、廊下には郷華が立ち呆けていた。

「どうかした?」

「え、その……」

 郷華は言葉を探すように視線を彷徨わせる。俺はただ、郷華が喋りだすのを待つ。

「部屋……」

「部屋?」

「……私の部屋が、二階の突き当たりにあるって言われて……」

「あー……」そういえば、前から母さんがドタバタと掃除してる部屋があったな。「こっちだな」

 俺はトイレに行くのを我慢して、郷華を部屋に案内することにした。

(まぁ案内するもなにも、俺の部屋の隣なんだけど)

 つか母さんもちゃんと案内しろよな、と思いつつ、目的の部屋の方へ歩き出す。後ろから小さな足音が着いて来る。

「ん、ここ」

 俺の部屋の扉から、右に歩くこと五歩半。今日から郷華のものになる部屋の扉の前に到着。そして俺はドアノブに手をかけ、扉を開く。

 室内にはベッド、背の低い丸テーブル、タンスが置かれていて、そのどれもが白基調の落ち着いたデザインをしていた。北側に備えられた窓には、淡い水色をしたカーテン。そして何より重要な事が一つ。この部屋は、俺の部屋より二畳ほど広かった。

(いいなぁ、広い部屋……)

 そう思ったが口にしない。なんだかこれから俺の立場が低くなりそうな予感がしたが、気にしない。どうせ一番下は今日の件で父さんになるだろうし。

「ここが今日から郷華の部屋だな」

「…………」

 俺の後について部屋に入ってきた郷華は、ポカンとしたような表情をしている。

(……なんでだろ)

 その表情に多少の疑問を覚えた俺は、今の自分の発言に不備とかがあったかを考える。

「……ハッ!?」

 そして気付く。自分が犯してしまった事に。

『ここが今日から郷華の部屋だな』

 つまり。

『ここがキョウカらキョウカの部屋だな』……!!

 意図せずオヤジギャグ――というかつまらぬダジャレを発していた事に。

 マズイ、この様子だと「何てつまらない事を言うんだこの男は。こんなのが今日から私の兄? うわ、やだなぁ。人前で今みたいなギャグというのもおごがましい事この上ない発するだけ地球上の酸素を無駄に消費して二酸化炭素を増やし地球温暖化に協力するような発言をされると私まで変な目で見られることになっちゃうよ。はぁ……不出来な兄を持つと苦労するわね」とか思われちゃってるんじゃ……!? そんなのは嫌だ!

「いや……違うぞ?」

「……?」

「今のは違うんだ。不可抗力なんだ。ワザとじゃない。偶然の産物なんだ」

「え?」

「いや本当なんです。俺は確かにギャグセンスがあるかと問われれば断じて否なんだけど、でもさっきのはたまたまだったんです。だってそんな事言ってたら、『今日から郷華は』って言えなくなっちゃうじゃないですか」

「いや、あの……」

「だから今のは決して、ダジャレとかそういうんじゃないのです。信じてください」

「…………」

 一気にまくしたてた俺の言葉に、郷華は少し考える仕草をする。

「……あ」

 そして何事かに気付いた模様。

「ダジャレ?」

「いやだから違うんです。本当に違うんです。だからそんな不可解なモノを見る目をしないでください」

 そんな俺の割りと必死な説得にも、郷華は首を横に振る。それはつまり、「今さらそんな事を言っても遅いわよ。もうアナタにはお笑いセンスの一欠けらもない笑えないつまらないどうしようもない人間だというレッテルが瞬間接着剤で貼り付けられているの。でも安心してまたギャグ(笑)を言ってもいいわよ、そんなアナタのギャグセンスで周りの気温を下げてくれれば地球温暖化の抑止効果が期待できそうだから」と言われたようなものだ。

「ぐはっ……終わった……何かが俺の中で確かな終わりを告げた……」

 ステータスが更新されました。

 矢城功司の特徴

 主人公である

 胡散臭い超能力を使える

 出会ったばかりの可愛い女の子にオヤジギャグを放つ←NEW!!

「や、そうじゃなくて……」新しい特徴にショックを受けている俺に、郷華は何かフォローをする感じで話しかけてくる。「その、私は部屋が広いことに驚いてただけだから……」

 …………。

「……え?」

「ダジャレとか、普通は思わないから……」

「…………」

 ステータスが更新されました。

 矢城功司の特徴

 鬼畜系主人公である

 幼馴染にご主人様と呼ばせている

 勘違いして色々と先走る←NEW!!

「…………」

 NEWでもなく、割りとよくある事のような気がした。ていうか一つ目と二つ目、なんかおかしいだろ。そして先走ってかなり恥ずかしい。

 その気持ちをごまかすために、何となく部屋の中を見回す。今までに家の中で見たことがない、基調を白で統一された家具はすべて新調されたものなんだろう。

「うん……?」

 と、部屋の隅に、二つほどダンボールが積まれているのを発見した。多分郷華の私物なんだろう。

「荷物出すの、手伝おうか?」

 その提案を口にしてから思う。女の子の私物は男の子があんまり触れてはいけないものだと。

「……えと」

 その提案を聞いた郷華も少し困惑気味。ですよね。

「いや、手伝うわけにはいかないよねゴメンナサイ」

 これ以上ここにいるとまた何か変なことを口走りそうだと思った俺は、素直に退散することにした。忘れてたけどトイレに行きたいし。

「じゃあまぁ、何か困ったことがあったら言ってほしい。あとさっきの事は忘れてくださいお願いします」

 後半は小さく素早く呟いて、廊下に出ようと踵を返す。

「あ、」

「ん?」

 そのまま部屋の敷居を跨ごうとした時、郷華が小さな声を上げた。

「どうかした?」

「その……ありがとう」

 再び室内へと振り返った俺にかけられる、感謝の言葉。ぎこちなく、顔も明後日の方向を向いていたけれど、それでもその言葉を聞いて嬉しくなった。

「ん、どういたしまして」

 俺は照れとか嬉しさとかのハニカミ成分で緩みそうな頬を隠すため、郷華に背を向けてそう言う。そしてそのまま廊下へと出て、トイレへ。少し廊下を歩いたところで、静かにドアを閉じる音が聞こえた。

「……こんな感じで、少しずつやっていけばいいのかな……」

 トイレの扉を開きながら、そんな事をつぶやく。

 まだまだ妹が出来た実感とかはないけれど、でも今みたいに頼られるというか、感謝をされるのは確かに嬉しいと感じた。

(いつかは些細なわがままでも言ってくれるようになればな……)

 ズボンのファスナーに手をかけつつ、郷華がわがままを言う姿を思い浮かべてみる俺だった。


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