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その2

「で、実際どうすればいいと思う?」

 みんなのヤサシサで身を刻まれた昼休みを乗り切った、放課後の帰り道。なんだか変に温かな友人たちにリトルディスタンスを置かれた俺は、唯一腫れ物を扱うように接してきてくれた東とともにいつもの通学路をテクテクと歩いていた。

「なにが?」

「いやだから、義妹がどうのって話」

 と、俺の口からその言葉がでた途端、その場に足を止めてしまう東。

「……功司君。その、ね。すごく言いづらいんだけど、血の繋がらない妹なんていうのは、実在しないんだよ……?」

 そして、ものすごく不快な慈愛の目で見つめられてそんな事を言われてしまった。

「うっさい。そんな事言ったってしょうがないだろ、実在しちゃったんだから……」昼休みのアレがまだ微妙に引きずってる俺は、力なくそう返す。「それにこの作品はフィクションだ」

「……病院にはお見舞いに行くからね?」

 さらに異次元的な事を言ったら病人扱いされてしまった。

「ああ……相談を持ちかけようとした俺がバカだった……」

 住みづらい世界になったもんだ……。

「大丈夫だよ、功司君。みんなが大きく距離を置いても、私は一歩ぐらいしか引かないから」

「その優しさが傷口に沁みるよ……」

 優しさも、時には人を傷つけると知った今日この頃。

「まぁそう気を落とさずに……」

 東はそんな意気消沈な俺をなだめるようにそう言ったあと、止めていた歩みを再開させる。俺もそれについていく感じで歩き出して、隣に並ぶ。

「それで、義妹どうのって言ってたけど……何か不都合でもあるの?」

「ああ、ここでその話に戻るんだ……」

 てっきり信じられずに明日から変態扱いされるのかと思ってたけど。

「当たり前だよ。私は功司君の言う事の五十~七十%くらいは無条件で信じるよ?」

「ああ、なんてぬるい感じのパーセンテージ……。心に沁み入る……」優しさに傷つけられても、やっぱり人は優しさを求めるんだと知った今日この頃。「で、やっと本題に入るけどさ」

「うん」

「アレだよ、その、なんて言うんだろ、あー……」

 と、ようやく相談できるような状態になったが、今度は上手い言葉が見つからないという状態に。

「妹が出来るのが嫌、とか?」

「いやそういうんじゃなくて……」

「妹にご主人様って呼ばれたい、とか?」

「俺を変態にしないでくれないか?」

「とりあえず私がご主人様って呼ぼうか?」

「いや、ことわ――らないこともないかもしれない」

「ご主人様」

「…………」

 うわぁ。

 幼馴染にご主人様とか呼ばせるって。

 しかも若干ときめきそうな自分って。

「……色々と新鮮な印象がありました」

「ふふ……」

 そんな俺の感想に、なんだかおかしそうに笑う東。ええい、何がおかしいか。

「だって、また話逸れてるし……あと功司君、なんか面白い顔してる」

「お、面白いだと?」

「うん。なんだろう、嬉しさと自己嫌悪とが混ざった複雑な顔」

「ぬ……」

 それってどんな顔だ? と思わなくもないが、確かに俺はそういう呼ばれ方をした事を嬉しく思って、そう思った自分を「それはないだろ……」とか思った。や、それから一応弁解しておくけど、別に俺は幼馴染の口からご主人様とかいう単語が出た事が嬉しいんじゃないんだよ? だってさ、お前、ただの幼馴染だぜ? ちょっと小さいころから馴染みがあって、親同士が仲良くて、東の容姿も、そりゃまぁ可愛い部類に入るだろうけどさ、こう、世間的に? でもそれだけの女の子だぜ? つまり別に俺は女の子にご主人様~なんて呼ばれるのは好きじゃないんだって。だってほら、考えてもみようぜ? メイドとご主人様ってさ、実際さ、雇用主と従業員の関係だぜ? 店長と店員だぜ? ほら。そう考えてみればさ、そこにときめきなんて……まぁまったくないとは言い切れないけどさ、あんまりないだろ? だから、今しがた東の口からご主人様という単語が矢城功司宛てに出されて、それに少し、ほんの少しだけときめいちゃったのはさ、なんていうの? アレだよ、傷ついた心に優しさが沁み入った結果だよ。……まぁ、だからといって別に嫌な訳じゃないから、呼んでくれたって構わない訳だけどさっ。

「……随分と真面目な顔で考えごとしてるね」

「ん、ああ……ちょっと人の優しさについて、な」

「ふーん……。まぁ、何を考えていようと、個人の自由だよね……」

「……なんか含みがありそうなセリフだな……」

 もしかして、考えが読まれてる?

「…………」

 いやそんな訳がない。この世に人の心が読める人間などいないはずだ。……まぁ、力使えば俺は一応読めるけど。

「いや功司君の場合、考えが顔に出過ぎなんだと思うよ?」

「馬鹿な、読まれているだと……?」

「うん。だって功司君、すごく分かりやすいもん」

「……うーむ」

 そうなのか? いや確かに、過去幾度となく皆に読心されまくりだった気がするが……てっきり主人公補正か何かだと思ってた。

「だから、功司君の悩んでる事も大体分かるよ?」

「え、マジで?」

「うん」東はそう言うと立ち止り、俺の顔をまじまじと覗き込んだ。「そうだね、多分……新しく家族が出来るのは別にいいけど、妹とか言われてもどう接すればいいか分からない……って感じ?」

「……ん、まぁ……そんな感じ?」

 そんな感じなのはよろしいのですが、そんなに顔を近づけられると照れてしまうのですが?

「……やっぱり功司君って可愛いよね」

 そう思って顔をそらし、東から一歩距離を取った俺に下される可愛い判定。

「いつも思うんだが俺のどこが可愛いと……?」

「んー、雰囲気とか、仕草とか」

「…………」

 腑に落ちなかった。

「ていうか何度となく言ったと思うけど、男が可愛いって言われたって嬉しくないんだが」

「そうやって反発するところもまた可愛い……」

「じゃあ反発しない。わー可愛いって言われてすげー嬉しー」

「こうやって簡単に手に取れるところもまた可愛い……」

「……どうすりゃいいんだよ……」

「どうもしなくていいと思うよ」東はそう言うと、再び歩き出す。「功司君は功司君のままでいれば、それでいいと思うよ」

「……そういうもんかね」

 俺は東を追いかけ、またその隣に並ぶ。

「うん。別に妹だからどうこうって考えないで、自然体でいるのが一番……だと私は思うけど?」

「その自然体っていうのがまた難しいと思うんだけど」

「難しくて、でも自然体でいようとして、というかそう考える事自体が自然体じゃないんじゃないか……そうやって考えてる功司君が自然体」

「……なんでそう、俺は心を読まれやすいんだ?」

 思考パターンが筒抜けだ。ていうかエスパーか、俺の幼馴染は?

「あ、やっぱり功司君はそう考えるんだ」そんな俺の言葉に、おかしそうに笑う東。「うーん、本当に功司君は裏表がないね~」

「いやあるぞ。そう、皆の前では普通だが、ある一定条件を満たすともう一人の俺が現れて暴れ出すんだぞ?」

 裏表がない=分かりやす過ぎると言われたような気がした俺は、ちょっとした抵抗の意を示してみた。

「ベッドの下のカーペットの下のフローリングの一部を取り外したところに隠してある本みたいに?」

 が、見事にカウンターされた。

「……ちょっと弁解のお時間をいただいてよろしいですか?」

「だめ」

 そして即答された。

「ちくしょう、なんだこの敗北感は……?」

「……ふふ」

 どうしようもない敗北感に打ちひしがれている俺をみて、やっぱり東はおかしそうに笑っていた。

(……まぁ、東とかくらいになら、心が読まれてもいいような気がしないでもないかな)

 その笑顔を見て、なんとなく俺はそんな事を考えていた。


 ――その後方五十メートル。

「……アレを見て、どう思う?」

 電柱の陰に隠れつつ、双眼鏡を片手に持った桐垣秀智と、

「いや、アレで付き合ってないとか嘘だろ」

 彼の背後で同じように双眼鏡を片手に持った坂上薫と、

「そういうプレイ」

 そのすぐ前にある看板に身を隠す天笠楓と、

「んふふふふ~、今日の獲物はどいつだい?」

 同じ場所に隠れつつ、変な風に出来あがった氷室龍鵺がいた。

「ふーむ、やはり幼馴染というのは、みんなああいう付き合いをするのだろうか?」

「うーん、どうだろうなぁ。私自身、幼馴染というやつがいないし……」

「とにかく見ていてカップルにしか思えない事は確か」

「ふふふ~、本当に可愛いねぇ……」

「まぁ確かに、あれはカップルだな」

「というかもうバカップルの領域だな」

「首を落とせば、命の輝きに脅かされる事もない~」

「ふぅ、見ていてなんだか馬鹿らしくなったな。私はそろそろ帰るよ」

「そうね。私もそこまで暇じゃないし、坂上さんと帰ろうかしらね」

「ん、そうか。それならば俺もそろそろお暇を告げるとしよう」

「ああ、桐垣君。帰る前にその変な感じにアガッちゃった氷室君の処理、お願いできる?」

「私はまだ遊び足りないぞ~?」

「了解した」

「それじゃあ、また明日」

「ああ、お気を付けて」

「桐垣君もね」

「さ、氷室。そろそろ俺たちも帰るぞ」

「私はまだ帰らない。あそこにいる男にギロチンの鈴の音を聞かせるまでは……!!」

「矢城だって宇宙に出た新人類じゃないんだから、聞こえないだろう。……いや、案外聞こえるのかもしれないか……」

 そしてそんな会話していたとかしていなかったとか。


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