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その1

「そんな訳で、今夜『義妹いもうと』が出来る事になりました」

 明るい喧騒に包まれる、お昼休みの秋葉学園二年C組の教室。そこかしこで仲の良い者同士、グループを作っては自前のお弁当やらコンビニなどで買ったおにぎり、またはカップラーメンなんかを食べつつ、それぞれがそれぞれの話題に華を咲かせていた。

 かくいう俺も、いつものメンバーで机をくっつけてお食事タイムだ。そして、いつも通りに下らない話なんかをしつつ和気藹々(わきあいあい)としていた――のだが。

「…………」

 何故だろう、さっきの発言をした途端にみんなは硬直、そして俺の事をそれぞれの意味あり気な目で見つめだした。薫以外。

「え? なんでみんなそんな反応をするんだ?」

「や、えっと……功司君。妹が出来るって、産まれるって事?」

 そんな微妙に気まずげな雰囲気をはらんだ空気の中、東が俺に尋ねてくる。

「ああいや、そうじゃなくて……だな」

 えーと、なんて説明したらいいものか……。

 俺がそうして悩んでいる間にも、東は不思議そうな目で、桐垣は興味深そうに、龍鵺は唖然としたように、天笠は興味なさそうに俺の事を見つめている。その中で薫だけはコンビニのおにぎりと悪戦苦闘をしている。きっと開封するためのテープが上手くはがせないんだろう。

「えーと、端的に言うと……俺の家柄関係の事で親戚の家庭が妙にこんがらがって、そこの一人娘が本家に……その、まぁ……預けられてだな、それを我が家のお父様が勝手に引き取ってきちゃったんだ」

 それで今日の夜、家に連れてくるんだってさ。そう締めくくった言葉に、一番早く反応したのは龍鵺だった。

「なぁ功司。込み入った話になるのは重々承知の上であえて尋ねたいんだが」

「何をだ?」

「その義妹ってのは、一体何歳なんだ?」

「はぁ? 歳? なんでそんなのが気になるんだ?」

「いいから、いくつなんだ」

 龍鵺の妙な迫力に押され、俺は頭をひねって義妹に関する情報を脳内検索にかける。

「確か……父さんが俺の一つ年下って言ってたから――」

「にぃょあぉ―――――!!!」

 十五歳、という俺の言葉を遮り、龍鵺はいきなり訳の分からない奇声をシャウト。それにビビる俺。

「な、なんなんだ、お前は?」

「うるさい! なんなんだはお前の方だ、矢城功司ィ!!」

 椅子を蹴って勢いよく立ちあがった龍鵺は俺をズビシッと指差す。

「お前には浬亜ちゃんという美少女幼馴染がいて、しかも家がお隣同士&親も仲良し同士の両親公認お付き合いが出来るという立場にある!! それだけでも天誅ものなのに、今度は血の繋がらない一歳年下の妹と一つ屋根の下だと!?」

 その大声に、クラスのそこかしこでヒソヒソ話が巻き起こる。具体的には「また矢城か……」「あのロリコンめ」「浬亜ちゃんを誑かしたんだな」「ち、ちち血のつな、繋がらない妹と一つ屋根の下ブフゥッ!!」「矢城君て妹萌えだったんだ……」「どうしよう、私お兄ちゃんいるよ……」「あー、終ったわね。新月の夜は背後に気を配りなさい」「なんで矢城ばっかりそんな目にあうんだよ、世の中不公平すぎるだろ……」「分かった、僕は矢城の弟になるよ」などなど――ていうか最後の誰のセリフだ!? 弟ってなんだ、兄貴になってくれって事か!? これはそんなギャグな話じゃなくて結構シリアスな話のはずなのに!?

「なんなんだお前は! 妹になんて呼ばせる気だ!? お兄ちゃんか!? 兄さんか!? 兄君か兄さまかご主人様か!?」

「ねぇだろ、最後のは絶対にねぇだろ!!」

「黙れ鬼畜系!」

「俺がいつ鬼畜な面を見せたよ!?」

「……私を無理矢理にしていきなり抱いたろ」

 おにぎりのテープがようやくはがせたのか、おにぎりを特有の食べ方(この際だからハモハモ食いとでも名付けてやろう)で頬張った薫が話に加わってくる。

「お前はまだそのネタを引っ張るのか!?」

「ああ。一生モノのトラウマだ」

「そういえば、お化け屋敷で私も調教されかけたっけ」

 その話に便乗するかのように、天笠まで話しに加わる。まずい、もう収拾つかなくなってきてる……。

「違うだろ、あれはそういうのじゃないだろ!?」

「だが矢城の所持していた十八歳未満の購入は禁止されているコレクションの中にはそういう本も混じっていたぞ?」

「なにぃ!? 桐垣、お前俺の秘蔵コレクションの在り処をどこで知ったんだ!? ていうかいつ見た!? 灯台下暗しに乗っ取ってベッドの下のカーペットの下のフローリングの一部を取り外し出来るようにして隠していたというのに!!」

「ほぅ、そこに隠してあるのか。今度矢城の家に行く時が楽しみだ」

 と、妙に澄ました顔で桐垣が放った言葉に、俺は顔面の血の気が下がる音を聞いた。

「……き、貴様、もしや……」

「ああ、カマをかけた」

『…………』

 ああ痛い!! クラスのみんなの視線がすっごく痛い!!

「まさか本当にそういうジャンルのものも持ってるとはな。お前の友達やってて一番驚いたのは今かもしれん」

「ち、違う……違うんだみんな……!!」

「……言い訳はいいよ、功司君? 男の子だもんね、そういうの持ってても何もおかしくないよ……?」

「や、やめてくれ東!! そういう優しい反応されると逆に傷付く!!」

 しかも幼馴染に言われてダメージ倍増という罠!

「まぁ……なんだ。個人の趣味趣向にこれ以上突っ込むのもアレだからな」

 そう言って桐垣は何事もなかったかのように、いつもの重箱に箸を伸ばす。それに倣ってクラスの面々も何事もなかったかのように、それぞれの話題やお弁当に戻っていく。

「……優しいよ……みんな優しすぎるよ……!!」

 その優しさに心をえぐられた俺は、明日からどうやって生きていけばいいんだろうか。だれか教えろ……。


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