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その16

 暗い部屋でベッドに横たわりながら、私は先ほどの晩ご飯の事を思い出す。

(東理亜さん……か)

 今日の晩ご飯の食卓を一緒に囲んだ女の人。朝、窓から見送ったあの人と一緒に学校へと行っていた人。

「…………」

 その時に遠目で見たのと同じように、東さんはとても可愛らしい顔立ちをしていて、なんだか優しそうな笑顔を浮かべていた。さっき初めて会ったばかりだけれど、何となく親しみを感じたというか、雰囲気に惹かれたというか。

(そういえば、あの人が妙に怯えてたな……)

 晩ご飯になってからすぐの事、あの人の様子は何かおかしかった。東さんの一挙一動に対してやけに大きな反応を示していた。それも時が過ぎていくにつれ、だんだんと自然な反応に戻っていったが。

(まぁ、多分あの人が何かをやらかしたんだろう)

 勝手な偏見だけれど、東さんは自分から怒ったりする人には見えなかった。だからきっと、あの人の様子がおかしかった原因は、あの人自身が蒔いた種なんだろうと思う。これはきっと偏見じゃない。

(だって……着替えとか覗くし……変な事を口走るし……)

 と、その事に関してはなるべく早く忘れ去りたい事なので考えを逸らす事にする。逸らした思考の矛先は、あの人と東さんの関係へと向かった。

(あの二人は……恋人同士なのかな……)

 正直、そうとしか思えないような気がする。晩ご飯の時とか朝の通学の様子を見ていると、あれで付き合っていないとするなら、何かそういう遊びでもやってるんじゃないかと思う。

 という事は、十中八九、あの二人は交際をしているのだろう。それも両親公認の。

「…………」

 普段なら、そういう系の話に色々な興味が湧いたと思う。だけど、今の状態だと暗い気持ちをさらに助長させる要因にしかならない。

(恋人と、親が同席している明るい食卓……。そんな幸せな空間に、私なんかがいていいのかな……)

 水入らずな団欒の席。そこに、ほとんど部外者な私が入っていってしまった事で、みんなに気を遣わせてしまってはいないだろうか。

 常套な世界だったのなら、それを知るすべはない。しかし私は常套ではなく、それを知るすべを持っている。持ってしまっている。

「…………」

 ……なんで、私はこんな思いをしているのだろうか。

 ふと、そんな事を考えてしまった。

 確かに私は、聖人君子のように清廉潔白な人間じゃない。しかし、物を盗んだり人を殺めたりするような人間でもなかったのに。

 ただ、普通に生きていたのに。

 なのに、どうして私はこんな目に遭ってしまっているんだろう。

 慣れ親しんだ生まれ故郷から離れ、実の両親の元からも離れ……今はほとんど他人な親戚の家で悶々と悩み続けている。

 なんでなんだろう。

 どうしてなんだろう。

 例えばあの人――矢城功司という人。

 あの人は、私と似たような境遇だったらしい。その事はおばあちゃんに少しだけ聞いた。

 それでも、あの人は今、平然と笑って過ごしている。幸せそうに、実の親の元で、可愛い彼女まで作って暮らしている。

「…………」

 あの人と私。似たようで、全く違う二人。

「なんで……」

 なんでこんなにも、違うんだろうか。

 あの人の運が良かったから? 恵まれていたから?

 それとも私が弱かったから? 間違っていたから?

「……違う」

 私は、弱くなんかない。一人で実家を出て、自分の能力をどうにかするために、遠い親戚のおばあちゃんの家にまで行った。そしてそこでおばあちゃんに能力の事を教えてもらい、この家へ自分をやり直すためにやって来たのだ。

 その行動は私が弱かったら出来なかった事だし、その選択は間違ってなんかいない。そのハズなんだ。

「なのに……」

 私は一人で、色んな事をしてきた。それでもまだ、心は晴れていないし、笑えてもいない。

「それなのに……」

 あの人は、常に誰かに守られて、温かいところで過ごしてきた。そして今も笑えている。

「なんで私は……」

 ふつふつと。

 黒い感情が心に根を張っていく。

 そんな自分が嫌になった。この家の人からだけでなく、東さんからも、私は嫌な人間に見られているかもしれない。

 でも、それでも。

「なんであの人は……」

 黒い負の感情。

 なんで私だけこんな目に遭わなくちゃいけないのか。

 なんであの人は笑えてるんだろうか。

 なんで私だけ悲しまなきゃいけないんだろうか。

 なんで私だけ苦しまなきゃいけないんだろうか。

 黒く濁った汚い気持ち。

 なんで私だけ駄目で、あの人はいいのか。

 なんであの人は一人じゃないのか。

 なんで私だけ……独りぼっちなのか。

 なんで、なんで、なんで……

 ――自分が嫌いになるほど、あの人に対する暗くて黒い気持ちが膨らんでいく。こんな事を思っては駄目なのに、自制心を振り切って少しずつ大きくなっていく。

「なんで私は……」

 ……こんなに、醜いんだろうか……。


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