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その11

 来宮さんとの妙な戯れ合いをした後、教室では見事におにぎりのテープを一発ではがしてみせて薫に対する優越感を感じた昼休みをこえ、室見先生のやる気のない五時間目の授業をもこえ、時計の短針が三の数字を指す頃。秋葉学園二年C組の教室は英語の授業の真っ直中だった。

(……それはいいけど)

 英語の担当教員である副中先生。ちょうど俺の秘密がどうとか言って薫と学園内を駆け巡った日に第一子が誕生なされたようで、最近の授業には色々と偏りが生じている。

 その偏りを簡単に説明すると、やたらと「赤ちゃんは可愛い」だの「名前は何にしよう」だのいう意味合いを持つ例文を多用したり、教科書の終わりの方へと一気にワープして「Our new baby!」というタイトルの章を解説しだしたり、さらにはその章の文章が所々改竄されていたりする。

(まぁいいけど)

 そのおかげで、期末テストは簡単に範囲が絞れそうだし。

「でな、うちの子がな、俺の事を見て嬉しそうに笑うんだよ~。その笑顔が可愛いのなんのって!」

 もはや授業などどこかへ投げ飛ばして子供自慢をする副中先生。その声を聞き流しつつ、俺はぼんやりと郷華の事を考える。

(郷華、今頃どうしてるかな……)

 まだ家の外に出るって事はなさそうだけど、そうなると家の中で何をしてるんだろう。

「……う~ん」

 母さんと楽しそうに談笑する郷華の姿を想像してみようとしたが、無理な笑顔を浮かべている郷華の姿しか思い浮かばなかった。

(まぁ、多分部屋の荷物を整理したりしてるんだろうな)

 それはそれで、なぜか真っ暗な部屋の中で淡々と、寂しそうに作業をしている郷華の姿が脳裏に浮かんだ。

「…………」

 非常に胸が締め付けられた。

「うはー、きっと愛しの我が娘も、俺の帰りを待っているに違いないぜ!」

 ……郷華は誰かの帰りを待ちわびるのかな。

 副中先生の声を聞き、そんな事を考え出したところで、六時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「そう言えば、功司」

「ん?」

 すごくいい笑顔で教室を去っていった副中先生と入れ替わりで入ってきた室見先生の最速HRが終わり、掃除当番が面倒くさそうに箒を手にする頃、龍鵺が俺に話しかけてきた。

「何か用か?」

「ああ。これ意外と重要な用事で、もしかしたらお前の事を兄と呼ぶようになるかもしれん」

「はぁ?」

 兄って。

「俺はお前みたいな弟、いらないんだが」

「せめてそこはオブラートに欲しくないって言えよ! ……と普段の俺なら言っていただろう」龍鵺は妙なテンションで続ける。「本題だが……妹ってどんな子だった?」

「……それかよ」

 俺は自分のカバンを肩にかけながら、どう答えるかを考える。はて、この微妙な問題をなんて表現しようか。

「あー……まぁ、可愛い女の子だった」

 判断しかねたので、なんだか微妙な発言になってしまった。

「なん……だと……!?」

 その俺の発言に、なぜかタツヤのみならず、教室の掃除をしていた野郎共まで反応する。

「功司……いや、お兄さん」

「兄とかお前が言うな」

「お兄さん」

 郷華に関する話は少し避けたいのと、龍鵺に兄と呼ばれる事をけっこう本気でやめて欲しかったのだが、龍鵺は構わず言葉を続ける。

「妹さんを僕にください!」

「断る」

 一度も顔を合わせてすらいないのに、いきなりの結婚させてください発言。とりあえず最速で断っておく。

「そんな、お兄さん!」

「うるさい黙れ。そもそも、何でいきなりそんな事を言いだすんだお前は」

「いやだって、なぁ?」

 教室中に問いかけるような龍鵺の言葉に、「うんうん」とうなずく掃除当番の野郎連中。

「何だその一体感は?」

「説明しよう!」

「のわっ!?」

 と、誰ともなしに疑問を投げかけた俺の背後から、いきなりニュルッと現れる桐垣。いつからそこにいたんだよ。

「細かい事は気にするな」桐垣は澄まし顔で続ける。「で、何故にこの教室にいる皆の衆の意志が統一されていたり、見てもいない女の子に対して氷室が求婚を申し立てるような発言をしたかというと――」

「めったに女の子の事を可愛いって言わない矢城君が可愛いって言うなら、その妹になった女の子はものすごく可愛い子なんだろうって、みんな思ったのよ」

 と、桐垣の言葉を遮り、今まで淡々と黒板を綺麗にしていた天笠が答える。

「……そうなのか?」

 言葉を遮られて妙に不服そうな桐垣に聞いてみた。

「ぬ……まぁそうだな」

 力なくそう答えられた。ていうか元気がない桐垣とかめちゃくちゃ新鮮だなぁ――なんて考えは置いといて。

「いや、俺だってちゃんと、可愛い女の子には可愛いって言うぞ?」

「でも矢城君ってツンデレじゃない?」

「誰がツンデレだ。ていうかまだ俺にはツンデレ疑惑がかけられてるのか」

「だから、タレントとか有名な女の人は可愛いって言っても、身近な人には全然言わない」

「そんな功司が可愛いと言う子ならぁ、それ即ち理亜ちゃんレベルの可愛い子ちゃんに決まってるぅ!」

 その龍鵺の言葉に、再び「うんうん」と頷く男連中。

「いや、東は俺の嫁だから、あいつレベルの可愛い女の子なんて存在しないぞ?」

 なんて事をのたまったのは当然俺ではなく、俺の声真似をした天笠である。

「……おい」

「不服?」

 ものすごく不思議そうな顔をする天笠。

「不服に決まってるだろ!」

 俺はそんな事言わない。

「ああ、確かに。矢城君ツンデレだもんね」

「だからそれも違うと!」

 だいたい、東だって確かに可愛いと言えると思うけど、それと俺の嫁発言は色々と違うだろ? あいつと俺はただの幼なじみだっつの。

「噂をすれば影が立つ……」

 と、そう言って天笠が教室の扉を指さす。

「おーい、功司くーん。一緒に帰ろー」

 同時に、今日は日直で、日誌を職員室に返しに行っていた東が天笠の指さした扉を開く。

「…………」

 あまりにも出来すぎたタイミングに、俺は言葉を失う。

「? どうかしたの?」

 東は東で、教室の扉を開いて状態のままきょとんとしている。

「ああいや……うん、帰ろう……」

 俺は「ジェラシィィィ!!」とか叫んでいる龍鵺などを無視し、東のところまで歩いていく。

「……余計なお世話だったかしら?」

「ん?」

 その途中。天笠とすれ違う瞬間、彼女がそんな事を呟いた。

「話。微妙な顔してたから逸らしたけど」

「え……」

「……何でもないわ。忘れてちょうだい」

 それきり、黒板を綺麗にする作業に戻る天笠。

「……まぁ」

 とりあえず東の元へ着いてから、ケータイを開く。

「忘れがちだけど、世話焼きな奴だよな……」

 そして新規メール作成の画面へ。

「どうかしたの、功司?」

 本文には、『サンクス。けっこう助かった』と打ち、宛先には天笠のケータイアドレスを。

「いや、なんでも」

 そう言いつつ送信ボタンを押して、俺はケータイをポケットにしまった。


 ……家路を辿っている最中、『何の事かしら。それより、教室であんな事を言っておいて、即行で東さんと二人っきりで帰るのね。ラブ×2ね』という返信が来たので、『いやほら、俺と帰る方向が一緒なのは東だけだからだし、特にお前らと寄り道をする予定もないからそうなっただけだから。勘違いすんなよ』とメールを送っておいた。


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