滅亡ホテル
※この物語は全てフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
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天国が何処かと問われると、きっとここだと誰もが指差すであろうところ。雲の国と呼べる場所に立つ懐古主義的なホテル。その名は『滅亡ホテル』だ。
緑と青の惑星が回転する内に、気候変動や自然淘汰の末に滅亡した動物たちがホテルで暮らしている。
フロントから抜けたロビーに豪華で大きなシャンデリアが吊るされ、そこに宙を浮かび泳ぐ三葉虫の子供たちが遊んでいる、食堂では珈琲を啜るティラノサウルスとサーベルタイガー。大きさは違うが、向かい合って器用に足を組んで椅子に座り背広を着ている様は紳士だ。
ティラノサウルスが問い掛ける
「ここは楽園ですな」
「そうですな、ティラノさんは長いですかね」
「ええ、あの隕石さえなければねえ。もうかれこれ六千五百万年は長居していますよ」
「はは、それは凄い」
「サーベルさんは一万年でしたね」
「ええ、一万と千年ほど。あのニンゲンとやらが来なければもう少し……いやこんな楽園に来られたのは幸運ですな」
「確かに」
「そういえば新しいお客さんが来るそうで、また隕石だそうですよ」
「いやですねえ……おや、噂をすれば」
ホテルの入口から一人、また一人、また一人、一人、一人……大勢の人間がフロントへ詰めかけた。フロントの背中に羽の生えた存在が慌てふためく。
「一度に来られますと困ります、うわあ、これはどうなっているんだ!」
そこへホテルの奥から一人の老人が歩いてきた。どうやら支配人だ。
「どれ、ワシが何とかしよう。責任者は、お主じゃな」
老人が指先を振ると一人の背広の中年男性がふわりと浮いて前に出た。男性がぽかんとして老人を指差す。
「あなたは……」
「いや、言わんで結構。大統領。隕石の対応に失敗したと。そうじゃな」
大統領は無言で頷く。老人は渋い顔をしたが笑顔を見せる。
「生憎ながらここではこの人数は受け入れられん。しかし、ワシの力で時間を巻き戻し隕石はどうにかしてやろう。但し、今回限りじゃぞ」
老人が手を叩くと人間たちは一瞬で消えた。
「もう来るんじゃないぞ」
――数年後、再び人類は大挙して訪れた。
老人は怒りの表情を見せた。
「次は自分たちで超兵器戦争か。ワシの手には負えん、宇宙船でこの惑星から出ていって何処かに行くんじゃな」
こうして滅亡ホテルには人間以外の動物のみがやってくるようになった。