同じ照明の下で
エスカレーターに乗って二人はコンコースへと上がっていった。人の流れは途切れることなく続いていたが、ハルトの目に映っていたのは前に立つノゾミだけだった。
彼女はふと振り返り、まるで本当にそこにいるのか確かめるように彼を見た。
「じゃあ……あなたも、この辺に住んでるの?」
ハルトは少し緊張しながらうなずいた。
「うん。偶然かと思ったけど、そうでもないみたいだ。」
二人は北口へと並んで歩き出した。外では街灯がすでに灯り、雨の残した水たまりがネオンの光を映していた。
角の信号が赤に変わり、足を止める。
ハルトは折りたたみ傘に目をやりながら、ぽつりとつぶやいた。
「今日はそんなに降らなかったね。」声は思ったより小さく漏れた。
ノゾミはそれを聞いて、わずかに微笑んだ。
「雨のあとに残る匂い、好きなんだ。」
信号が青になり、肩を並べたまま人波に混ざって歩き出す。
「いつもこの出口から帰るの?」と彼女が尋ねる。
「だいたいね。」ハルトは答えた。その言葉が自然に口から出ることに、自分でも少し驚いていた。
通り沿いのパン屋から焼きたての香りが漂ってきた。ノゾミはショーウィンドウに目を向け、立ち止まる。
「おいしそう……」と小さくつぶやく。
考えるより先に、ハルトの口から言葉が出た。
「今度、学校帰りに寄ってみようか。」
彼女は驚いたように彼を見つめ、それから視線を落とした。まるで真に受けすぎてしまったかのように。
「……かもね。」
二人の道が分かれる角までは、あっという間だった。ハルトにとってはあまりにも短い時間に感じられた。着いたところで、ノゾミは脇道を指差した。
「私はここから。」
言葉よりも重い沈黙が流れる。ハルトは何か言おうと口を開いたが、出てきたのはただ一言だけだった。
「じゃあ……また明日。」
ノゾミは軽く手を上げて別れの合図をする。
「明日ね。」
街灯の光を受けて揺れる金色の髪を見送りながら、ハルトはその場に立ち尽くした。広いはずのこの街が、二人のために少しずつ狭まっていく――そんな気がしていた。