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新宿と秋葉原

灰色の空は、まだ夜の眠りを引きずっているかのようだった。

東京という巨大な街は動き続けているのに、どこか夢の中にいるような静けさが漂っていた。

その広い街の中で、春人と望美――二人の時間は別々に流れている。

けれど、不思議な糸が見えないところで結ばれていることを、彼らはまだ知らない。

空はまだ灰色のまま。まるで東京がまだ完全には目を覚ましていないかのようだった。





【新宿 ― 春人】

ホームは人であふれていた。

春人は電車を降り、人の波に紛れ込む。東口の上には光る看板がちらつき、空気は濡れたアスファルトとファストフードの匂いに満ちていた。

時計を見ると、友人との待ち合わせまでまだ二十分あった。





【秋葉原 ― 望美】

電車は静かに停まり、望美はホームに降りてエスカレーターを上った。

景色は一変する。光り輝く看板、セールを呼びかける声、街の至るところに並ぶアニメのポスター。

彼女は携帯を取り出しメッセージを確認しようとしたが、結局はショーウィンドウに並んだフィギュアを眺めていた。





【新宿 ― 春人】

細長いカフェに身を寄せる。会話のざわめきとコーヒーの香りが、少しの安らぎを与えてくれる。

ラテを頼み、窓際の席に座った。外では、人々が雨など存在しないかのように交差点を渡っていく。





【秋葉原 ― 望美】

電器店の並ぶ通りを横切る。鼻先に一滴の雨が落ち、思わず小さく笑った。

そのとき、赤い制服を着た店員が声をかけてきた。

「何かお探しですか?」

望美は声の方へ顔を向けた。





【新宿 ― 春人】

街の別の場所で、春人の友人がカフェの入口から呼びかけた。

「おーい、春人!」

彼もまた顔を向けた――まるで望美と同じ方向に、距離を超えて。





【秋葉原 ― 望美】

「えっと…ただ見てるだけです」

店員にそう答え、にこりと微笑んだ。そして再び歩き出す。なぜか右を向いたその一瞬が、大事な意味を持つような気がした。





【新宿 ― 春人】

友人がレコード店に行こうと提案し、春人はうなずいた。

だが道すがら、自販機の前でなぜか足を止める。理由もなく、冷たい飲み物を一本買った。





【秋葉原 ― 望美】

その瞬間、音楽ショップの前で望美は一枚のディスクに目を留めた。

ジャケットには灰色の空と濡れた街が描かれている。

なぜか口をついて出た言葉は――

「まるで…昨日みたい。」





【新宿 ― 春人】

レコードの棚を眺めながら、春人もまた小さく呟いた。

「まるで…昨日みたいだ。」

友人が怪訝そうにこちらを見たが、春人はほとんど気づかなかった。





【秋葉原 ― 望美】

たい焼きを片手に、信号が点滅する横断歩道を渡る。





【新宿 ― 春人】

未開封のドリンクをポケットに入れ、同じように信号が点滅する大通りを渡る。



---


その日、東京は二つに分かれていた。

一方は新宿に、もう一方は秋葉原に。

だが時折、目に見えない刹那の重なりが、二人を同じ通りに立たせているように思えた。

新宿と秋葉原。

二つの駅に分かれて過ごした一日は、交わることなく終わった。

それでも、同じ言葉を口にし、同じ灰色の空を見上げた瞬間が確かにあった。

まるで誰かが見えない地図を描き、二人の足跡を静かに重ね合わせているかのように。

東京のどこかで、次の出会いの時を待ちながら――。


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