廊下の明かり
いつもと変わらない朝、ハルトの日常は繰り返される。遅刻、祖母の穏やかなため息、友人の小言。すべてが予測可能で、色を失った風景のようだ。しかし、そのありふれた日常に、一つの小さな光が差し込む。長い廊下の向こうで、金色の髪を持つ少女との一瞬の出会いが、ハルトの世界にさざ波を立て始める。これは、停滞していた時間が動き出し、何かが始まる物語の始まりだ。
ハルトの朝はいつもと同じように始まった。目覚ましが7時ちょうどに鳴り響く、彼にとってはほとんど聞こえない甲高いメロディーだ。手を伸ばしてアラームを止めると、起き上がらずに天井を見つめた。部屋は畳まれていない服の匂いがして、隅には本やノート、開けっ放しのリュックサックが山積みになっていて、まるで何もかもが何日も動いていないかのようだ。
「あと5分…」とつぶやいたが、それが15分になることを彼は知っていた。
ようやく起き上がったとき、時計はすでに7時半を指していた。着替えるのにあまり力は要らなかった。しわの寄った白い制服のシャツ、濃いグレーのズボン、きちんと締められていないネクタイ。足を引きずりながら階段を降り、まだ髪はぼさぼさだった。
キッチンは味噌汁とトーストの香りで満ちていた。いつもの青いエプロンをつけた祖母が、歳月だけが与えることができる穏やかさで野菜を切っていた。
「また遅刻かい?」祖母は振り返らずに尋ねたが、その口元には疲れた笑みが浮かんでいた。
「うん…」ハルトは皿からトーストを一枚取りながら答えた。「でも昨日ほどじゃないよ」
祖母は横目で彼を見た。何も言わず、ただため息をそっとついた。叱る気力もないという感じだった。ハルトはトーストを一口かじると、ドアを閉めて出て行った。空は曇っていて、空気は湿った土の匂いがした。今にも雨が降り出しそうだった。
学校はいつものように活気に満ちていた。生徒たちが教室を出入りし、小さな子たちは廊下を走り回り、上級生たちは一時間目の試験の前に教科書を確認していた。ハルトはゆっくりと歩き、リュックサックは半開きで、制服もだらしなかった。
「おい、ハルト!」目の下にクマがある少年が自動販売機にもたれかかりながら叫んだ。「また遅刻か?」
ハルトは立ち止まらずに、手を挙げて挨拶を返した。
「少なくとも来たからな」と、半分の笑みを浮かべて答えた。
もう一人の、より真面目そうな友人が腕を組みながら近づいてきた。彼の制服は完璧で、髪もきれいに整えられており、ハルトとはひどい対照をなしていた。
「もう何回遅刻してるんだ? 報告書を出されるぞ、わかってるのか?」
ハルトは肩をすくめた。彼らが正しいことはわかっていたが、どうでもいいふりをする方が簡単だった。彼は、古い校舎と新しい校舎を結ぶ、学校で一番長い中央の廊下を歩き続けた。窓からは鈍い灰色の光が差し込んでいた。
その時、それは起こった。
角を曲がると、一人の少女が教室から出てくるのが見えた。彼女は腕にノートの束を抱え、廊下の騒がしさに影響されないかのように落ち着いた足取りで歩いていた。ハルトが最初に気づいたのは、彼女のブロンドの髪だった。それは柔らかい房になって背中の真ん中あたりまで垂れていて、鈍い光の中でも輝いていた。次に、その瞳。雲一つない夏空のように澄んだ青色をしていた。
ハルトはわずかに視線をそらしたが、その瞬間、きちんと閉まっていなかったリュックサックが完全に開いてしまった。ノートが二冊、乾いた音を立てて床に落ちた。
「最悪…」とつぶやき、彼はかがんで拾い上げた。
少女は立ち止まった。何も言わずに、彼女もかがみ込み、ノートの一冊をそっと手に取った。彼女の声は澄んでいて、穏やかだった。
「落とし物だよ」
ハルトは顔を上げた。一瞬だけ、本当に一瞬だけ、彼は黙り込んだ。彼女の瞳には何かがあった。何も見返りを求めない、ただ助けているだけという何か。
「あ…ありがとう」と、彼はとうとうぎこちなく言って、うなじをかいた。
彼女はわずかに、しかし心からの小さな微笑みを浮かべ、ノートを彼に渡した。そして立ち上がり、腕の中の本を整えると、人混みの中に消えていった。
ハルトはしばらくの間、彼女が遠ざかっていくのを見つめて立ち尽くしていた。彼女の名前すら知らなかった。しかし、彼の胸の中の何かがいつもと違うように感じられた。まるで窓が開き、新鮮な空気が流れ込んできたかのようだった。
その日の午後、自分の部屋で、ハルトはベッドに身を投げた。天井、古いポスター、ゆっくりと回る扇風機を見つめた。目を閉じると、そのシーンが頭の中で繰り返された。金色の髪、青い瞳、そして小さな微笑み。
それはまだ恋ではなかった。ただの「何か」だった。
ずっと感じていなかった「何か」。
彼は静かに、その「何か」が胸の中でゆっくりと脈打つのを感じながら、それを理解することも、完全に理解したいと思うこともなく、ただそこにいた。
その日の午後、ハルトの心には、ささやかな変化が芽生えていた。それはまだ恋と呼ぶには幼い、名もなき感情だったが、彼の灰色の日常に鮮やかな色をもたらした。床に落ちたノート、差し出された手、そして青い瞳と小さな微笑み。その一つ一つの瞬間が、彼の心を温かく灯していく。ハルトはまだ、この新しい感情が何なのか、これからどこへ向かうのかを知らない。しかし、彼はもう、かつての無関心な自分ではない。彼の物語は、今、静かに幕を開けたばかりなのだ。