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助けの求め方がわからない少年

お読みいただきありがとうございます!


第2話では、ハルトの「助けを求められない気持ち」に少しずつ迫っていきます。


家族との会話、特に祖母と兄レン、そして妹アオイとのやり取りを通して、

彼の心の中のモヤモヤが見えてくる回です。


何気ない日常の中で、彼の弱さや、まだ言葉にならない孤独を描きました。

窓の外から聞こえる鳥の声は、今の俺の気分にはあまりにも陽気すぎた。


片目を開けた瞬間、後悔した。

朝日がまるで俺を敵だと思っているかのように顔を刺してきたからだ。


「ハルト! 朝ごはんできてるわよ!」


台所から祖母の声が聞こえた。

温かくて、優しい声。

……優しすぎるくらいに。


俺は呻き声をあげながら布団の中で転がり、枕に顔を埋めた。

あと5分……あと5分だけ……。


ドンッ! と音を立ててドアが開いた。


「……くさっ。」


妹――家族の真ん中、そしてカオスの使者――が腕を組んで立っていた。


「枕と喧嘩して負けたみたいな匂いするよ。」


俺はボサボサの髪の隙間から彼女をちらっと見た。

「おはよう、アオイ。」


彼女は鼻をしかめて、ズカズカと窓まで歩いていくと、勢いよく窓を開けた。

冷たい空気がなだれ込んできた。


「起きて。今すぐ。今週もう2回も学校サボってるでしょ。おばあちゃん、また泣くよ?」


俺は髪をぼさぼさのまま起き上がった。

「言っただろ、体調悪かったんだ。」


「ウソ。夜中の3時までゲームしてただけでしょ。」


……彼女の言う通りだ。

でも、そんな言い方しなくてもいいだろ。


重い体を引きずって階段を下りると、

味噌汁と焼き魚の匂いが迎えてくれた。


祖母はコンロの前に立ち、手を動かしていた。

だが、その動きは昔よりずっと遅くなっていた。


かつて、祖母は止まらない人だった。

俺より重い荷物を平気で持ち上げ、それでも「もっと野菜を食べなさい」と説教してくるような人だった。


でも今は……弱々しく見えた。


「おはよう、ハルト。」

祖母は振り返らずに柔らかく言った。

「また遅くまで起きてたんでしょ。」


俺は「おはよう」と言ったつもりだったが、

ため息みたいにしか聞こえなかった。


一瞬だけ、胸がちくりと痛んだ。

でも、その気持ちをすぐに押し殺した。


「ただいまー。」


玄関のドアがギイッと音を立てて開いた。


兄のレンが作業服のまま入ってきた。

バッグをドサッと床に落とし、大きく伸びをする。


「トラックにでも轢かれたみたいな顔してるな。」


俺が言うと、レンは半笑いでつぶやいた。

「褒め言葉として受け取っておくよ。」


レンは昔、俺のヒーローだった。

バスケをして、友達も多く、彼女までいた。


だけど、あの彼女に心を壊されてから、何かが…止まった。


今ではほとんど誰とも話さない。

仕事から帰ってきて、飯を食って、寝るだけの毎日。


時々思う。

――俺も、ああなっていくんじゃないかって。


祖母がレンの朝ごはんを用意する横で、俺の頭に嫌な記憶が浮かんだ。


忘れたいのに、忘れられない記憶だ。


鏡の前に立つ、昔の俺。

深夜のトレーニングで汗だくになっていた。


1か月間、必死に走って、筋トレして、

ジャンクフードをやめて――痩せるためだけに頑張った。


「かっこよく」なるために。


……自分のためじゃない。


彼女のために。


あの頃、彼女は俺を見て笑った。

「なんか変わったね」って言った。

「いい匂いがするね」って言った。


――それが“意味のあること”だと思った。


本当にそうだと信じてたんだ。


今、俺はちゃぶ台の前に座って、茶碗のご飯を見つめている。


アオイはポップソングを鼻歌で歌っていた。

レンはスマホをスクロールしていた。

祖母の手は、少し震えながらお茶を注いでいた。


俺は笑った。けど、その笑みは空っぽだった。


「みんなにはアドバイスするくせに……」

声にならないくらい小さく、呟いた。


「……俺にアドバイスしてくれる人は、誰なんだろう。」


ご飯の味は、何もしなかった。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


ハルトの中にある “自分でもわからない弱さ” を、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。


彼はまだ誰にも「助けて」と言えないけれど――

それでも、少しずつ変わろうとしています。


次回も、ぜひ読みに来てください!

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