優秀であるが故に婚約破棄された公爵令嬢
思いついたので書いてみました。
「ローズ、お前との婚約を破棄する」
卒業パーティーの最中、この国の第一王子が突然宣言した。
いきなりの出来事に周囲にざわめきが広がる。
第一王子の婚約はこの国の将来に関わるので、当然の話である。
「一体、どういうことでしょうか?」
婚約破棄を告げられたローズ様は冷静に質問する。
普通はもっと慌てるのだろうが、彼女は非常に落ち着いていた。
よく言えば冷静だが、悪く言えば冷たい雰囲気である。
「お前のそういう態度のせいだ」
「私のせいですか?」
理由を告げられ、ローズ様は驚く。
身に覚えがないのだろう。
彼女としては当たり前の行動をしていたに過ぎないのだから──
「自分が優秀だからといって、俺のことをずっと馬鹿にしてきただろ」
「別に私は特段優秀なわけじゃないです。殿下の努力が足りないだけです」
悪気はないのだろうが、ローズ様の発言はまずい。
いくら事実でも、言ってはならないこともあるのだ。
現に、第一王子も怒りに体を震わせる。
「俺のやること全てを否定しやがって」
「とんでもないことをしようとするからです」
「自分の思い通りに物事を進めようとする」
「殿下が考え足らずなだけです」
第一王子の文句にローズ様は次々と反論する。
まったくの正論である。
だが、正論ですべてが丸く収まるわけではない。
「まあ、俺がお前より劣っているのは認めるよ」
「認めるのなら、もっと努力をしてください」
「うるさい。だが、今日俺はお前を言い負かしてやるよ」
「・・・・・・そんなことができるのですか?」
自信満々な第一王子の言葉にローズ様は怪訝そうな表情になる。
とても信じていない様子である。
「リサ、来い」
「はい」
第一王子に呼ばれ、一人の令嬢が現れた。
可愛らしいがどこか気弱そうな雰囲気で、男性からすれば庇護欲が湧き上がってくる。
「殿下と仲が良い令嬢ですよね。彼女がどうかなさいましたか?」
突然の登場に驚きながらも、ローズ様は冷静に問いかける。
その理由を聞こうとしていた。
「白を切るつもりか」
「どういうことでしょうか?」
意味が分からず、ローズ様は首を傾げる。
白を切るもなにも、まったく意味が分かっていないのだろう。
そんな彼女に第一王子は怒りの表情で責め立てる。
「お前が彼女に嫌がらせをしていることはわかっているんだぞ」
「は?」
ローズ様は呆けた声を漏らす。
そんな彼女の反応を気にせず、第一王子は話を続ける。
「お前はいつも彼女に対して強く当たっていたよな。公衆の面前で叱責して、恥を掻かせていた」
「彼女のマナーがなっていなかったからです。貴族令嬢としてふさわしくなるように指導しただけです」
「お前の近くで彼女が倒れ込んでいたこともあったな。お前が突き飛ばしたんだろう」
「体調不良で彼女が倒れただけです。私は何もしていません」
「取り巻きに命じて、彼女の私物を壊したりしただろ」
「まったく身に覚えがないです」
「すでに自供しているんだよ。お前の命令でした、ってな」
「なんですって」
最初は冷静に反論していたが、徐々に彼女は焦っていた。
嘘か本当かわからないが、周囲が彼女を疑い始める。
「お前にとって、リナは邪魔な存在だもんな。俺の心が彼女に移ったら、お前は婚約者から外れることになる」
「たかがそれだけの理由で私が嫌がらせをした、と?」
第一王子の説明にローズ様は言い返す。
自分がそんなことをしたと思われていることが心外なのだろう。
だが、第一王子はそんなことを気にしない。
「お前以外、彼女に嫌がらせをする理由がない」
「だからといって、私がした理由にはならないでしょう」
二人の話は平行線である。
犯人を決めつけている第一王子と自分は違うと確信するローズ様。
このまま二人が納得する結論に落ち着くことはないだろう。
それを第一王子もわかっていたのだろう。
突然、大胆な行動に移す。
「おい、衛兵。この女を追い出せ」
周囲の衛兵を呼び寄せ、命令を出した。
衛兵達はどうすべきか悩んでいる様子だが、第一王子の命令を聞かないわけにもいかない。
恐る恐るローズ様に近づいていく。
(ツー)
ローズ様の目から涙が流れた。
【氷の美女】とまで呼ばれている彼女から涙が流れるのを見た人は何人いるのだろうか。
自分の言葉が信じられないことが悲しかったのだろう。
そんな彼女を見て、私は我慢できなくなった。
「大丈夫ですか、ローズ様」
「え?」
いきなり話しかけられたローズ様は驚いた。
私──リナに話しかけられたのだから当然だろう。
「何をしている、リナ」
第一王子も驚いている様子だ。
何が怒っているのか、分かっていない様子である。
まあ、こいつにはどれだけ説明してもわからないだろう。
「こういうことよ」
私は一枚の書類を衛兵に渡す。
最初は怪訝そうな表情だった衛兵だったが、中身を見て驚いた。
そのままこちらに顔を向けたので、私は頷いた。
そして、他の衛兵達に命令し、第一王子を取り囲んだ。
「貴様達、なにをするっ!」
取り囲まれた第一王子はどうにか逃げようとする。
だが、屈強な衛兵達から逃れられるわけもなく、捕まえられて連れて行かれた。
「え?」
そんな光景にローズ様は理解できず、呆けた声を漏らしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数日後、私はローズ様とお茶をしていた。
助けたお礼に誘われたのだ。
「まさかあなたが彼に刃向かうなんてね」
「別に私はあいつのことが好きでも何でもなかったですからね。いつもベタベタ触れてきて、気持ち悪かったですよ」
思わず嫌な顔を浮かべてしまう。
あの男から馴れ馴れしく絡まれ、体に触れられるだけで鳥肌が立っていた。
「でも、よく衛兵達も彼を捕まえられましたね。腐っても王族なのに」
「あの時点で王族ではなかったですよ」
「どういうことですか?」
ローズ様は質問してくる。
私は自信満々に説明する。
「私があの男からいろんなプレゼントをされていたのを知っていますか?」
「ええ、もちろん。私には花の一つも送ってくれなかったのにね」
少しトラウマを刺激してしまったようだ。
申し訳ない気持ちになってしまう。
だが、この説明は必要なのだ。
「いろいろと高価な物が送られていたんですが、明らかに第一王子が使える金額を超えていることに気がついたんです。だから、私はいろんな伝手を使って、王妃様にお会いしたんです」
「なんで?」
突然の展開にローズ様は驚く。
どうしてここに王妃様が出てくるのか、まったく意味が分からないのだろう。
「私のことを息子をたぶらかす悪女だと思っていたらしいですが、事情を説明すると協力してくださいました」
「協力?」
「あの男が国庫の金を無断で使っていたことが判明しました。いわゆる横領ですね」
「そんなことをしていたんですね」
彼女は軽蔑したような表情になる。
正しいことが好きな彼女にとって、犯罪は軽蔑すべきことなのだ。
「ですが、王妃様にとってあの男は可愛い息子です。それだけを理由に廃嫡することはできませんでした」
「まあ、そうでしょうね。王妃様は優しい方ですから」
「なので、とんでもないやらかしをしたら、廃嫡することを約束してもらいました」
「やらかし?」
ローズ様は首を傾げる。
流石に想像つかないようだ。
「婚約破棄ですよ」
「それがやらかしですか?」
「もちろんですよ。あの男とローズ様の婚約は家同士の繋がり──あの男の一存で破棄できるものじゃありません」
「それをしたからやらかしというわけですか?」
「そういうことです。あの男の行動は王家と公爵家の仲に亀裂を作りかねないやらかしであり、王妃様も流石に庇えないレベルです」
「まあ、そうでしょうね」
ようやく事情がわかったのか、ローズ様も納得してくれる。
やはり彼女は優秀である。
あの男なら、全てを説明しても理解できるかどうか──
「まあ、あの男が何かやらかすのはわかっていたので、王妃様に提案したんです。「次に何かやらかしたら、廃嫡をしましょう」って」
「凄いことを提案するわね。もしかして、あの紙が?」
「はい、陛下の勅命ですね。やらかしたことで第一王子を勘当する、という内容でした」
「だから、衛兵達が捕まえることができたのね」
流石に罪を犯したとしても、ただの衛兵が王族を捕まえるわけにもいかない。
だが、すでに王族でなければ問題はない。
婚約破棄をした時点であの男は王族ではなくなったのだ。
「でも、どうして私を助けてくれたの? 彼も言っていたけど、私のしてきたことは貴女は嫌じゃなかったの?」
ローズ様は不安げな表情で聞いてくる。
あの男が言ったことを真に受けているのだろう。
相当気にしている様子だ。
そんな彼女を私はまっすぐ見つめる。
「私、ローズ様のことが好きなんです」
「へっ⁉」
いきなりの宣言に呆けた声を漏らす。
普段のクールな雰囲気からは想像できない反応だ。
とても可愛らしい。
「容姿端麗、文武両道。クールな雰囲気で格好いいのに、他人を気にかける優しさを持っている。まさに理想の女性なんです」
「そ、そうなの・・・・・・」
ローズ様は少し引いている様子だ。
だが、私は自分の気持ちを止めることが出来なかった。
「私は一生ローズ様の側で過ごしたいと思ったんです。だからこそ、王妃様に頼み事をしたんです」
「何を頼んだの?」
「ローズ様の専属メイドにしてください、って」
「な、何を言ってるの?」
突然の展開にローズ様は焦る。
まさか私がそんな頼みをしたとは思っていなかったのだろう。
だが、私にとっては大事なことである。
今までの私はローズ様の側にいることすらできなかった。
だからこそ、千載一遇のチャンスにかけたのだ。
「私じゃ駄目ですか?」
「え?」
「私は決して貴女を裏切りません。貴女のためならなんでもします」
「う・・・・・・」
真剣な表情で思いを伝える。
気まずそうに彼女は顔を逸らす。
耳まで真っ赤になっている。
「わ、わかったわ」
「やった」
ローズ様から受け入れられ、私はガッツポーズをした。
こうして私は彼女の専属メイドになり、一生側で過ごすことになった。
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