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7.ニアと僕

 ニアを助手に迎え、僕の研究はぐんと捗るようになった。大まかな指示をするだけであとは自分で判断し、作業を行ってくれる。デバイスと接続しておけば、都度都度データをやり取りできるから、エラーの対処もスピーディ、かつ正確になる。

 あらかじめ設定された実験に対する予想データをもとに、実際のデータとの齟齬を見つけてくれるため、うっかりミスによる失敗などというものは皆無と言えた。

 僕が以前やっていたように、ニアは僕の身の回りの世話もこなしてくれた。あまりにも完璧すぎると息が詰まるので、時には失敗もするような人間味のある設定も忘れなかった。ロボットの持つ機械的なイメージを払拭したいと思ったのだ。遠くない将来、人が生活のパートナーとしてもっと身近にロボットを取り入れるときに、より人間らしさがあるほうが好ましいのではないか、と僕は思ったからだ。

 ニアとの毎日は、まるで自分がもう一人いるような錯覚を覚えるほどで、まさに僕の手足となって働いてくれていた。


 僕は、今一度、コールドスリープの可能性をニアに考えてもらった。

「人体を冷凍したときに考えられるリスクについてどう思う?」

 ニアは迷うことなく答え始めた。

「人体を冷凍すると、細胞が破壊されたり損傷を受けることが考えられます。具体的には冷凍過程で細胞内の水分が失われ、細胞が萎縮してしまう可能性があります。そのことから何よりも、蘇生技術が重要になりますし、冷凍された体を安全に解凍し、生理機能を回復させる技術も必要です。また、長期間の冷凍保存によって、臓器の機能が低下している可能性があるため、機能回復のための治療も必要になります」

 単純に、冷凍食品を解凍したところを思い浮かべれば、言わずもがななことばかりだ。

「では、それらを踏まえて、コールドスリープを実現するために何かいいアイディアはないだろうか」

「人体に無害な不凍液が開発されれば可能性は見えてきます」

「不凍液か...」

 エステルがエレンを育てていた人口羊水が思い浮かんだ。

 液体に浮かぶエレン。

 それを見守る僕。

 エレンは僕に話しかける。

「あなたがうらやましい」

 あの時、エレンは溶液の中で漂いながら何を考えていたのだろう。外の世界へのあこがれだったのだろうか。それとも恐怖だったのだろうか。

「キリシマ博士?どうかしましたか」

 じっと考え込む僕にニアが問いかけてきた。僕は現段階では不可能なことを尋ねてみた。

「僕がもし、コールドスリープをしたとしたら、ニア、君は僕を無事に蘇生してくれるだろうか」

 ニアは小首をかしげると言った。

「キリシマ博士、あなたがコールドスリープを体験する時は、あなたの研究が完成したときです。研究の完成は、無事蘇生することができる技術が開発されていることも含みます」

「なるほど。確かにそうだね。僕は優秀な助手に恵まれたようだ」

 僕が言うとニアはいつもよりも複雑な表情を浮かべ、押し黙ってしまった。

「ニア、君には感謝しているし、これからも活躍してもらうつもりだ。よろしく頼むよ」

 するとニアは初めて僕の研究室に来た時のように、小首をかしげ微笑みながら言った。

「こちらこそよろしくお願いします」


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