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4.出会い

 姉のメグミは大学在学中に留学した。きっかけは後から知って驚いたが、当時付き合っていた恋人と別れたことが原因だった。そんなことぐらいで人生を変えるかもしれない選択をする心理が僕には全く理解できなかったが、それは僕の情緒の問題ばかりではなかったようだ。

 ごく普通の女子大生の姉が、唐突に海外に行くことになったので、母はたいそう心配したが、父は見識が広がるから、と賛成した。そして、そのことが後々の僕の人生にも影響を持つことになるとは当時は思いもしなかった。

 姉は留学から帰ってくると、精神的に自立をした女性として成長していた。卒業後はITベンチャー企業のスタートアップ社員としてキャリアを積んでいき、のちにロボット産業で世界的に有名な会社を立ち上げることになった。留学せずにそのまま普通に就職していたら決して選ばなかったようなキャリアデザインだったから、留学したことは彼女にとって意味のある選択だったのだろう。

 そんな彼女が留学先で知り合った友人が訪ねてくることになった。古くから続く侯爵家の子孫だという女性で、医師として勤務する傍ら、不老不死について研究をしているらしい。弟の僕が再生医療を学んでいるという話をしたら、興味を持ったらしく、ぜひ会ってみたいという話になったらしい。

「とても美人なのよ。頭もいいし、話が合うんじゃない?」

 姉に連れられて家を訪れたその人を見た瞬間、僕は驚きのあまり声を失った。

「どうしたの?あんまり美人だから驚いちゃった?残念だけど、もう彼女は結婚して子どももいるのよ」

「メグ、やめて、弟さん困ってるじゃない」

 からかう姉をたしなめるその人の姿は、僕の良く知っている人にそっくりだった。束ねられた髪は金色に輝き、淡いブルーの瞳は好奇心で輝き、笑うと浮かぶえくぼ…。予想はしていたけれど、まさかここまで似ているとは。

「はじめまして。ソフィア・ド・メルセンヌ・ハーストです。あなたのことはメグから聞いていました。自慢の弟さんだって」

 微笑みながら差し出された手にそっと触れると、激しい動悸がした。

「再生医療を研究しているんですって?私も不老不死について研究していて、あなたの研究にはとても興味があるの」

 僕はどう話せばいいのか、口ごもっていると、母がタイミングよく声をかけてくれた。

「さあ、お食事の準備ができたわ。ゆっくり召し上がってくださいね。お話はそれからでもいいでしょ」

 僕はその時出された料理の味がわからなかった。話も上の空で、何も覚えていない。目の前に現れたこの人に対してどう接すればよいのか。

 もうすでに不老不死の研究をしているということは、彼女はアイオンに出会っているのだろう。けれど、そのことに触れることはできない。

「どうして不老不死について研究を?」

 さりげなく質問をすると、ソフィアは一瞬動きを止めた。

「それは、人類の夢だからよ。人生100年と言われて久しいけれど、100年でできることはたかが知れているわ。それに、健康寿命だって限られていて、その100年丸まるすべてが健康でいられるわけじゃないでしょう。それなら、老化しなければいい。そして永遠に生き続けることができたら、悲しい別れを経験することも減るじゃない?」

 ソフィアの言うことは、一見もっともらしく聞こえたが、違和感を感じた。訝し気に見る僕の視線に気づいたのか、ソフィアは話題を変えようとするかのように、僕に尋ねた。

「そういうあなたは、なぜ再生医療を研究しているの?」

 僕はこんな時のために、用意している答えを話し始める。

「僕は、自分が大けがをしたときに、自分の腕や体を部品を替えるように取り替えられたら、と思ったんです。今の医療技術では、けがや病気で損傷した体を健康な状態に戻すためには自然治癒力に頼らざるを得ない面も残されているけれど、それでは長期間QOLが下がってしまう。そうならないためにも、再生医療をうまく活かしていけたらと考えたからです」

 ソフィアは僕の答えを聞きながら、何か考え込んでいた。

「とても興味深いわ。私の研究に活かせるかもしれない。よかったら、もっと詳しく聞かせてもらえないかしら」

「いいですよ。僕もあなたの研究に興味があります。永遠に生き続ける先に何が待っているのか知りたいですね」

 ソフィアの瞳が一瞬陰ったのに僕は気づいた。

「そうね、永遠の向こう側に何があるのか。私も見てみたい」

 こうして僕はソフィアと出会った。だが、今彼女の研究を成功させるわけにはいかないのだ。なぜなら、ソフィアの研究が完成してしまったら、僕はエステルに出会うことができなくなるのだから。


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