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30.胡蝶の夢

 アリシアを見送って、僕は屋敷に入りソファに横になると、疲れた体を休めていた。

 僕はアリシアと違い、もともとが不老不死ではない。途中姉によって何度も体を再生されたため、普通よりは長生きできるし、外見も変わらずにいられるけれど、いずれ寿命が来る。

 アイオンの命を終わらせるための処置を施してから、僕はアリシアを養女に迎え入れた。アイオンにはアリシアの記憶から自分の存在を消してしまって構わない、と言われていたが、僕はアイオンの存在を消すことはできないと思った。アリシアの中の遺伝子は、アイオンから受け継いだものだし、彼の存在なくしては、今の新しい世界はあり得なかっただろう。

 人類が進化した先が、『永遠の子ども』たちならば。自然発生的にいつかはそうなっていたのだとしても、エステルや僕が携わってきた不老不死へのアプローチが、それを後押ししたといえるだろう。それならば、その研究のきっかけとなったアイオンの存在を、消してしまうのは間違いではないだろうか。ましてや、彼の初めての実子であるアリシアの記憶から消すのは、間違っているだろう。

 エステルの記憶も完全に消し去ることはせず、愛されていた記憶とともに『生ける屍』になる前の美しい記憶を残すようにした。

 そうして、愛されて育ったという記憶だけは失くさずに成長したアリシアは、健やかに美しく育った。

 時折、悪夢にうなされることがあったが、それは記憶の断片が出すノイズによるものだろう。記憶操作を受けているものは誰しも経験していることだった。

 こうして、永遠に近い年月を生きてくると、過去にあった様々なことが、些末なものに感じられる。あんなに憎かったエステルのことも今ではただの愛しい存在として記憶にあり、あんなに苦しかった日々も長い夢だったような気もしている。今や自分がかつてAIロボットだったということすら夢だったのではないかと思える。

 姉から受け継いだ財団も後継者のめどもついているし、何よりニアが僕の思考そのままに運営をしてくれている。そろそろ引退をしてもいいころなのかもしれない。そうしたら、僕もここでアリシアとのんびり暮らすのも悪くないかもしれない。

 それにしても、今日はやけに眠い。意識が遠のいていく。

「ニア、アリシアのことを頼んだよ」

 僕が言うとニアは、僕をそっと見つめた。

「リュウト、あなたは幸せでしたか」

 ニア、君の選択は、間違っていなかったよ。君は僕にとって、最適な選択をしてきてくれたんだ。

 そう、答えようと思ったが、僕はもう意識を保つのが難しくなっていた。

「ニア、少し、眠らせて…」

「リュウト、あなたの記憶は私が受け継ぎます。元に戻るだけですから。安心しておやすみなさい」

 

 ああ、永遠の向こう側に何があるのか、僕はやっとたどり着けそうだ。


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