24.永遠の向こう側
「メグミさん、ご無沙汰しています。今日はどうしてもメグミさんにお伝えしたいことがあってメールを送らせていただきました。
ついに私は祖母の研究を完成させることができました。あんなに必死に悩んでいた頃には叶えることができなかった願いが、ついに叶う日がやってきたのです。まさかリュウの死後30年経ってから、このような結果が待ち受けているとは思いも寄りませんでした。あなたのビジネスにとってもこれは朗報になるのではないでしょうか。ぜひ詳細をお伝えしたいので連絡をいただけないでしょうか」
それはエステルから姉に送られたメールだった。
僕の死後30年後か…。僕が考え込んでいると、ニアは次のメールを提示した。
「返信いただきありがとうございます。まさか、お返事いただけるとは思っていなかったので、とても感謝しています。
メグミさんはアイオンの過去についてどこまでご存知でしょうか。彼は生まれつきの不老不死であり、もう数千年を生き続けています。不老不死であることが、周囲から恐れ疎まれ、故郷を離れ、放浪の旅に出ました。その間、いく度か恋をし、結婚をしたのですが、彼の遺伝子のせいか、いくら子どもを授かっても、その子どもはうまく育たず、生後間もなく死亡してしまっていました。そのことで、彼はひとところに居続けることができず、さらに旅を続け、ある戦場で出会った先代のトレム侯爵の養子となりました。トレム侯爵は、実の息子のようにアイオンをかわいがり、彼が不老不死であることも受け入れてくれたのです。
そして、やっと、アイオンの人生に平穏が訪れたと思ったその矢先、私の先祖であるエレンと恋に落ちたのです。しかしながら、やはり不滅者であることが周囲に知れてしまうのではないか、そうなったらエレンやその家族にも迷惑をかけてしまう、そう考え、自らエレンのもとを去りました。エレンは他の男性と結婚し、平凡で幸せな生活を送ることができたのですが、死期を悟って、トレム庭園を訪れました。そこにはほとぼりが冷めたころを見計らって、ひっそりと戻ってきていたアイオンが暮らしており、ふたりは再会しました。そしてアイオンはエレンの最期をみとることになったのです。
そうして、そのままトレム庭園で過ごしていたところで、私の祖母、ソフィアと出会ってしまいました。祖母は不老不死であるアイオンに興味を持ち、研究材料として、無理やりに子どもを作りました。しかし、やはり遺伝子の関係で生まれてすぐ、子どもはあっという間に老化し、亡くなってしまったのです。
私がリュウと共同研究していたのもアイオンの不老不死にかかわるものでした。そのことでリュウとは仲たがいする結果になってしまったのですが…」
ここまで読んで僕は吐き気がした。エステルにとって、僕の存在はいったい何だったのだろう。共同研究だって?勝手に僕の研究を盗用して、自分のために利用していただけじゃなかったのか?結局、エステルにとっては「アイオンがすべて」なのだ。
僕は大きく息を吸って、先を読んだ。
「前置きが長くなりました。
実は、アイオンとの間に子どもができたのです。今までのアイオンの子どもとは違い、この子は普通の子どもと同じように成長し、何ら健康にも問題なく育っています。
ところが、不可解なことが起きました。一度大きな怪我をして、生死をさまよったにも関わらず、ほんの数時間で快復し、何事もなかったように起き上がったのです。
今までアイオンの子どもは男の子ばかりだったそうです。私たちの子どもは女の子でした。そのことが遺伝子に何らかの影響を与えたと思われます。娘の遺伝子を調べたところ、アイオンの遺伝子を受け継いでいました。
ふたりの遺伝子の共通点から、私はついに人類を不老不死にする方法を発見することができたのです」
エステルはついに、見つけてしまったのだ。永遠の向こう側へ行く方法を。




