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19.ロボット工場

 「リュウト、おはよう。よく眠れた?」

 母が僕に微笑みかける。母の話によれば、僕はありふれたウィルスに感染し、高熱を出し、何日も眠っていたらしい。その昔、猛威を振るって人類の危機とまで言われた時代のウィルスだったが、それから300年余りの時が流れて、特効薬も開発された。おかげで僕は感染したからと言って命に別状はなかったのだが、ごくまれに発症するという高熱に見舞われた。しかし、なかなかその熱が下がらず、意識が戻るのに時間がかかったと言うことだった。

 母はとても優しい。いつも僕のことを微笑みながら見つめている。

「そういえば、明日はあなたの誕生日よ。よかったわ、誕生日までに快復して」

 誕生日、という母の言葉に、頭の奥が少し痛んだ。

「僕って、いくつになるんだっけ」

 母は一瞬目を丸くしたが、そのあとにっこりと笑って答えた。

「やあねえ、自分が何歳になるか忘れちゃったの?明日はあなたの10歳の誕生日じゃない」

 僕の中に何か違和感があった。じっと手を見ると、それは10歳の少年にふさわしい手だ。

「誕生日のお祝いは何がいい?って聞いたら、私の工場見学をしたいって言ったのはあなたじゃない」

 母は微笑みながら言う。

「お母さんの工場…?」

「そうよ、今研究している薬とアンドロイドの製造工場をどうしても見たいって」

 僕は自分の記憶を呼び起こそうと試みた。けれど、思い出しかけては靄がかかったようになって、肝心なことを思い出せない。

「リュウト、あなたは今や世界でトップクラスのキリシマロボティクス財団の後継者なのよ。そんなあなたが私の事業に興味を持ってくれるのは、本当に嬉しいわ」

 母は誇らしげな表情でそういうと僕を抱きしめた。

 僕はどうしてもぬぐえない違和感を感じながらも、母の話を信じるしかなかった。


 翌日、母に連れられ、僕は母の会社の工場へ向かった。工場に着いた僕は驚いた。そこはごくわずかな人間と、多数のロボットによって運営されていた。

 初めて見る光景に僕の胸は躍った。目を輝かせて食い入るように作業風景を見ている僕を母は満足そうに見つめていた。

 僕たちが見学していると、通路の向こうから一体のアンドロイドが近づいてきた。

「ニア!調子はどう?」

 ニアと呼ばれたアンドロイドは小首をかしげながら僕たちを見て、一瞬考えこむようなしぐさをした。

「ミズ・キリシマ、順調です」

 ニアは答えると、僕をじっと見た。

「ニア、リュウトよ。あなたも会いたがっていたでしょう?私の息子よ」

 母が僕を紹介するとニアはまた小首をかしげて、何かを確かめるような表情を浮かべた。

「はじめまして、リュウト。以前どこかでお会いしましたか」

 ニアがそう言って僕の顔をじっと見つめるのを見て、母は顔をこわばらせた。

「何を言っているの。リュウトをここに連れてきたのは初めてよ」

 ニアは母の言葉を受け、しばらく僕を見つめていたが、やがて彼なりに納得したように言った。

「なるほど、同じ遺伝子を持っているのですね」

「そうよ、だって私たち親子なんですもの。似ていて当たり前でしょ」

 母はそういうと、いつもの笑顔に戻った。僕はまた違和感を感じたが、それよりも作業ロボットたちの動きが物珍しく、その時のニアの言葉の意図を深く考えることはしなかった。

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