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第七話 古代兵器《オルト=マシーナ》との戦い ①

―ギ…ギギ…ギギギギ…


「おい…ウソだろう」


 思わず、胸の内が口をつく。


 無理もない。例えこの場にいたのが万夫不当ばんぶふとうたる伝説の勇者だったとしても、同じ言葉を漏らさずにはいられまい。


 彼の目の前では、今まで決して動くことはないと思われていたそれが、今まで誰も動いている姿を見たことがなかったそれが、鈍く耳にこびりつくような音を立てて動こうとしていた。


―ギギギギ…ギギギギギギ…ヴォォォオン…


『戦闘システム、再起動。A.M.R.A、急速展開』


 無機質で、無感情な男性の声。


 六つ脚をぎこちなく動かし、アルのたった十歩かそこそこ先で古代兵器《オルト=マシーナ》が身を起こす。


 光を失っていた一つ目が燃えるように赤く輝き、ギュィィインと聞きなれない音をあげてアルを見据える。


 体のあちこちからギシギシ、ミシミシと嫌な音を鳴らしながら立ち上がったそいつは、しかしボロボロの脚では自重を支えられなかったのか、唐突に姿勢を崩すとガコォン!と巨大な音を立てて胴を地面に打ち付けた。


 衝撃で脚の一本がバギャリと折れ転がる。古代兵器はその場から動けない様子となるものの、痛みを感じる様子は全く見せずにアルを睨みつけている。


『目標ヲ補足、戦闘開始。推奨:周辺ノ全非戦闘員ノ退避』


 刹那。


 古代兵器の胴の上にちょこんと一本生えていた黒い触角のような部位が僅かに動き、アルの方向を向いたと思いきや、


―バガガガガガガガガガ!


 今まで聞いたこともないような炸裂音とともに、激しく炎を吐き出した。


「く…!」


 咄嗟に右手を広げ、魔導障壁を展開。


 だが古代兵器が放った攻撃が飛来すると同時に、アルが展開した障壁は一瞬にして切り裂かれる。


 それなりに自信のあった障壁が為すすべもなく破られた現実に驚くアルのすぐ横を、風切り音とともに何かが連続で駆け抜けていく。


 瞬間、アルの背後の床が続けざまに火花をあげ、穴だらけとなった。


 かなりの威力である。今は運よく外れたようであるが、もし命中していたらタダでは済まなかったことだろう。


 ……この手ごたえ…物理攻撃!


 弓射とも投石とも違う、未知の高威力物理攻撃。


 かつて古代人が使っていたという、魔導銃の原型になった武器…”火薬が爆発する衝撃により鉄の礫を飛ばす武器”、銃の存在を思い出す。


 遠距離からこれだけの威力の物理攻撃を連続でぶつけることができるとは、魔導士にとって相性最悪である。


『FCSエラー。照準ニ深刻ナ誤差』


 古代兵器が何かを言いながら、触角と赤い単眼を再び動かしてこちらを狙ってくる。


「っ!」


 幸いなことに、先程の身体強化魔法の効果がまだ残っていた


 防御ができないのならば回避するしか手段はない。アルは思いっきり地面を蹴り、その場から横へと大きく跳ぶ。


―バガガガガガガガッ!


 間を置かず、再び触角が火を噴く。瞬き一つ分ほど前まで自身がいた空間に鉄の礫が降り注ぎ、派手な火花を散らしていった。


 ……これだけ状態の良い遺物…壊すには忍びないが、止むを得ん!


 このままでは金儲けどころではない。自分が殺されてしまう。

 辺境の遺跡の中で訳も分からず襲われて命を落とすなど、まっぴらごめんである。


 着地と同時に魔導銃を構え、アルは遠慮なく引き金を引いた。


―バララララララッ!


 軽快な発射音と、連続する紅い閃光。


 連射型アタッチメントにより最適化された細かな魔力の塊が銃口から無数に吐き出され、魔弾の嵐となって標的に襲い掛かる。


―カカカカカカカカコォン!


「む…!」


 が、結果はアルにとって予想外のものだった。


 放った攻撃は全て狙い通りに着弾したが、そのすべてが敵の装甲上で青い光を放って弾け、反らされてしまったのだ。


『魔導生物カラノ攻撃ヲ検知。A.M.R.A、有効。作戦行動ニ支障ナシ』


 しかも古代兵器はなんの痛痒も感じていない様子で、お返しとばかりに触角から火を噴いて反撃してくる。


 舌打ちをしながらも再び横っ跳びして回避し、もう一度連射型による攻撃を放つが…結果は同じだった。


 ……命中した瞬間、魔力同士が衝突したとき特有の発光反応が出ている。魔導障壁か…!


 忌々しげに唇を噛み、アルは古代兵器を睨みつける。


 どうやら、相手は装甲上に強固な魔導障壁を張っているらしい。


 確かに連射型は手数で圧倒できるぶん単発の威力は控えめではあるが、それでもゼロ・ダメージで弾き返されるとは思っていなかった。


 そう、”弾き返された”のだ。”消滅させられた”のではなく。


 アルたち現代の魔導士の障壁は、敵の魔法攻撃を”弾く”のではなく”消滅させる”。敵の攻撃魔法が障壁に触れた際、こちらの魔力を干渉させて流れをかき乱し、”攻撃魔法としての形”を維持できなくさせるのだ。


 弾かない理由は単純で、防御時の魔力消費の効率が悪いからである。


 ……魔法が使えないはずの古代人の兵器が障壁を張ってきたことには驚いたが…やはり魔導技術はこちらが上か。ならば!


 連射型がダメなら、より単発威力・貫徹力に優れたアタッチメントで攻めるまでだ。効率の悪い魔力の使い方をしている以上、つけ入る隙はあるはずである。


 古代兵器の触角からの攻撃が止んだ今が好機と、アルは素早く銃口の部品を取り外し、ポーチに入っていた収束型アタッチメントに切り替えた。


 が。


 そんな彼に向け、古代兵器は六本の脚に支えられた胴の部分を僅かに旋回させると、長大な角を微細に上下させて狙いを定めて、


『警告:120㎜レールカノン使用。推奨:周辺全要員ノ耐衝撃姿勢』


「!」


 とたんに、アルの背中にぞわりと悪寒が走り、全身から冷たい汗が吹き出し始める。古代兵器が何を言っているのかは分からないが…死線を何度も潜り抜けるうちにいつの間にか身についていた、即死攻撃を察知する第六感が警告を発しているのだ。


―…チィィィィイイイイン…!


 古代兵器の角から耳鳴りのような音が聞こえ、角の根元から先端に向けて光が走る。 

 ……こいつは、絶対にまずい!


 脳内で鳴り響く警報に従うままに、アルは咄嗟にその身を大きく左へ投げ出した。


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