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第二十話 帝国技研、襲来 ②

「なァぜそんなものが貰えると考えているのデス?下賤な冒険者ごときが」

「…なんだと?」

 これにはさすがのアルも面食らい、軽く目を見開いて絶句した。

 遺跡から持ち帰った遺物の取引は、ギルドが、ひいては帝国政府が冒険者に認めた正当な権利だ。遺跡から持ち出した時点で、その遺物の所有権は持ち出した冒険者のモノとなる。それを第三者が手に入れたいと願うのならば、所有権を有する冒険者に相応の報酬を支払う必要があるのだ。

 その前提が崩れてしまっては、もはや遺跡冒険者ルインズエクスプローラーなどという稼業は成り立たなくなってしまう。ただでさえ危険な遺跡探索に赴く冒険者はいなくなり、遺跡は盗掘者と魔物だらけになって、遺物の発掘は滞ることになる。そうなって困るのは、他でもない帝国政府のはずなのだ。

 だというのに、このゲフィスという男は平気な顔で宣った。

「アナタたち冒険者が、帝国の発展に寄与するのは当然ではあァりませんか。金を寄こせなどと、傲慢にも程がありマス」

「…」

「なぁんデスか、その目は。そもそも、古代人オルトニアの娘第一発見者の栄誉ですらも、冒険者風情が手にして良いものではないのデス。そう、それは我々帝国技研にこそふさわしい…!」

 何やらクネクネした動きで悦に入り始めたゲフィスを横目に、アルはハルニアにわずかに顔を寄せて、

(ハルニア)

(なに?)

(…少し時間を稼ぐ。やれるか?)

 金がもらえないと分かった時点で、アルの中からは「ユキを渡す」という選択肢が完全に消えていた。それを察したハルニアの顔に、にやりと不敵な笑みが浮かぶ。

(とーぜん!3分…いや、2分で良いわ。奴らの注意を惹きつけなさい)

(…やってみよう)

(任せたわよ)

「こォら冒険者ども!なにをコソコソ話しているのデス?」

 そんな二人の様子に気づいたゲフィスが、アルを指さすと唾を飛ばして喚き散らした。

「さっさと古代人オルトニアの娘を引き渡しなサイ!無駄に痛い目は見たくないでショウ!?」

 ゲフィスがバッと右手を横に振って、控えていた兵士たちが一斉に身構える。ある者は短く真新しい魔導銃を構え、ある者は剣を抜きはらい、ある者は手をかざして術を放つ構えをとった。

 ユキがひゅっと息をのんで身を硬くして、その頭をハルニアがそっと撫でる。

「大丈夫、あなたは渡さないわ。安心して」

「おやァ?その娘を渡さないと?今、そう言いましたカ?」

「あぁ、そうだ」

「ヌヒョ?」

 堂々と言い切ったアルに、ゲフィス、一瞬目を丸くする。

 そんなゲフィスとユキの間に割って入るように、アルが数歩前に出て、

「だが1つ、確認したいことがある」

「な、なんでショウ」

 銃や剣を向けられているにも関わらず平然と冷めた目をして進み出るアルを見て、ゲフィスはわずかに気圧されたようだった。その隙をつき、アルはさらに言葉を続ける。

「お前たちの装備についてだ。その魔導銃、セレソル工房製の魔導短銃、SEL-32のK型だな?」

「え、エェ、そのようデスね。しかしそれが、何だと言うのデス?」

「…K型は隠密特化だ。射撃時の音や魔力光が抑えられている代わりに、威力が低い。なぜそんな装備で来た?剣にしてもそうだ。わざわざ短く、目立たないものを選んでいる。俺たちを脅して要求を通すことが目的なら、どちらももっと大きく、威力が出るものを選ぶはずだ」

 アルの紅い瞳が、ゲフィスを静かに睨みつける。

「その装備では、まるでハナから俺たちを暗殺することが目的のように見えるが…違うか?」

「…」

 僅かな間、ゲフィスは沈黙する。だがやがて、再びヌヒョヌヒョと気味の悪い笑い声を上げ始めた。

「ヌッヒョヒョ、なるほどなるほど、中々にカンの良い男のようデスね。ワタシの嫌いなタイプですヨ」

「…認めるのか」

「当然デス!先程も言ったでショウ?古代人オルトニアの娘第一発見者の栄誉は、我々帝国技研にこそふさわしい。卑しい冒険者ごときが、手にして良いものではないのデスヨ!」

 血走った目でヒステリックに喚くゲフィスを前に、アルはこれ見よがしにため息をついて、

「…それで俺を暗殺か。そこらの強盗と発想が変わらんな」

「んな!?賊だと!?我らを侮辱するカ!」

「…侮辱するつもりはない。だが、誰かが欲しいものを持っていれば殺して奪う。金はびた一文も払わない。これで賊とどこが違う?」

「ヌヌヌゥ、キサマ、言わせておけば……ああ、そうデス。いいことを教えてあげまショウ」

 何やら相手に衝撃を与えられそうな情報を思い出したらしく、ゲフィスは勝ち誇ったような面持ちでアルを見た。

「実はデスね、我々がここにいること、古代人オルトニアの娘を見つけた冒険者がいることは、帝国のどの部隊にも、ワタシの上官にすらも知らせていまセン。加えて、ワタシの部下には優秀な精神魔導士メンタリストがいましてネ、今、この家の敷地内で何が起こっても、周囲には感知できないようにしてありマス」

「…」

「これがどういうことか、アナタには分かりますカ?」

 問いかけに対し、アルは何も答えない。ただ、感情を感じさせない紅眼で相手を見据えているだけだ。

 そんな彼の態度を、ゲフィスは「恐怖のあまり言葉が出ない」ものと考えたらしい。

「ヌッヒョヒョヒョッ、どうやら理解できたようデスねぇ。つまりはそう、アナタがどれだけ騒ごうとも、ここには誰も助けにこない。アナタが死んでも、誰もそれに気づかない。我々はここにはいないことになっているのデスから、ワタシたちがここで何をしようと、誰にも咎められない。そういうことなのデスよ!」

「…そうか」

 だが、アルの反応は至極あっさりとしたものだった。

 彼は一瞬だけ、背後のハルニアに目線を送る。視線に気づいたハルニアが無言でこくりと頷いて、準備が終わったことを告げた。

「それは確かに、いい情報だったな」

「ヌヒョ?」

 予想と違い全く動揺した様子のないアルを不気味に思ったか、ゲフィスの表情が僅かに歪む。

「ずぅいぶんと落ち着いているようデスが、強がりですカ?ヌヒョヒョ、そのような無意味なことは止めて、命乞いの一つでもしてみてはいかがデス?」

「…いや、そんなことをするつもりはない」

「ヌヒョヒョ、では、どうするつもりだと?」

 その答えと言わんばかりに、アルは身体の左右に垂らした両手の先に、魔力の刃を生成した。

 魔導障壁を応用して形作られた、紅く透き通った刃が二つ。フォンッと風を切るような音とともに、伸びて出る。

「ヌッヒョ!?」

 驚き、仰け反るゲフィスに感情を感じさせない眼を向けて、アルは静かに告げた。

「…お前たちを、排除する」

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