プロローグ
オルトニア。
それは、今より遥か昔、この世界の支配者だった者たちの名だ。
その者らは、強力無比なる機械の兵たちを従え、仇なす輩のすべてを打ち払った。
その者らは、山々より高き塔を無数に築き、己が住まいとした。
その者らは、宙の彼方にまで飛べる翼を造り、大空すら支配した。
その者らは―…しかし、繁栄は無限には続かず、やがて滅びを迎えた。
歴史から消えてしまったその者たちがどこに行ったのか、誰も知らない。
今はただ、彼ら・彼女らが確かに存在した証として、各地に遺跡が残るのみである。
――オルトニアたちは、なぜ滅んだのか。どこに行ったのか。
多くの歴史家が日々研究を続けており、その謎に多くの人々は魅了され……。
魅了され…?
…。
否ッ!
後の世のほとんどの人々は、そんな歴史のロマンになど、ぜんっぜん興味を惹かれていなかった!!
皆が注目したのは、古代人の遺跡に眠るお宝たち。
”燃える水”
”羽のように軽い金属”
”雷の力を蓄えられる容器”
”太陽の力を蓄え、光る筒’
等々…。
古代遺跡には、世にも珍しい品々が溢れていたのだ。それらを上手く持ち帰ることができれば、一攫千金も夢ではない!
さらに、遺跡から発掘された遺物の中には、魔力を使って機構を再現できるものも多く…新技術、特に軍事転用可能な技術の獲得のために、各国は競うようにして調査隊を派遣。遺跡の発掘を進めていた。
世はまさに、大発掘時代へと突入していたのである!!
…しかし、古代遺跡とは、遥か昔から狂暴な魔物が棲み付きやすい場所だ。
さらにお宝を求めて無許可で違法な発掘を目論む盗掘者たちや、その他凶悪な犯罪者どもの根城となることも多く、探索は危険を極めた。
各国が発掘権を認めた冒険者ギルドからは、実力の如何に関わらず多くの者たちが次々と名乗りを上げ、遺跡探索に挑んだが…。
その多くが未帰還となり、冒険者たちの犠牲は日に日に増えるばかりであった。
あまりの犠牲者数にたまりかねた冒険者ギルドは、やがて、”一定以上の実力を持つ冒険者にしか、遺跡探索の依頼を出さない”ことを絶対のルールと定めるようになる。
…ギルドからその実力を認められ、遺跡の探索を許された冒険者たち。
身に降りかかる危険を恐れず、万難を排して遺跡にもぐり、時に価値あるお宝を持ち帰る者たち。
心無い人間たちは、彼らを盗掘者と大差のないならず者と蔑んだが…。
冒険者たちの多くは、羨望と敬意を込めて、彼ら・彼女らをこう呼んだ。
―…遺跡冒険者、と。
これは、そんな遺跡冒険者の男と、この世界にただ一人生き残ってしまった古代人の少女との、数奇な出会いから始まる物語である。