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タレント  作者: E78
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アンダーサイド

ーーー2178年5月19日、人間社会に大きな変革が起きる事となりました。

『才能精査システム(Talent Scrutiny System)』、TSSが主要国間協議の末、その効果が認められた。ここで認められたTSSの効果とは、ある個人の特定のデータとアンケート、そしてその人物の直近1年間のうち、3ヶ月分の行動記録を映像として入力することでその人物の持つ『才能』を判別できるというものある。

法治国家においてこのシステムは迅速に法整備され、活用されることとなった。日本では、男女問わずアンケートに対し、意思表示を問題なく行える。と審議が下された4歳になる年にTSSによる診断を受けることとなった。そして、その診断結果によってその後の歩むべき人生を与えられることとなりました。まだ平仮名も覚束無い少年が書家として生きる事や、自己主張のあまり無い少女が役者として子役登録をされる事が当然の事となりました。

稲妻が降り注いだかのごとく制度の整備に慌てふためく人達の姿(表2)。素質のある人物がその素質に気付くことなく生涯を終える事が無くなり、その能力を発揮する機会を平等に与えられる新時代が到来しました。

イヒ、イヒイヒヒヒ

端末が児童向けの歴史書の音声再生を終了したと同時に品の無い引き笑いが起こった。同時に、隣で歩いている大男がその笑いに対して、すっかり夜更けだというのに認識できるほど眉間に刻まれた皺をさらに深くし、露骨に嫌悪感を示した。

「クニミツ、その笑い方辞めてくれ、品が無い。」

半ば諦めつつのようであったが、隣で笑う男の頭上から文字通り言葉を浴びせた。

「笑い方なんかそんな簡単に変えらんねぇし変える予定もねぇ、それに品がどうこうなんてオメェに言われたくねぇなぁ。」

クニマサは大男の頬をジョリジョリと撫でたが、肩で軽く手を払われた。眉間の皺の本数は明らかに減っていたが、代わりに夜道に立ち込める鉄や油の匂いは濃くなっていった。

「俺のはゲン担ぎで意図的にやっている事だ。」

「あらやだそうだったのね、10年バディ組んでるのにデクトちゃんの知らない事出てきてお兄さん嬉しいわ♡」

「クニミツ、お前のその軽薄さはいつか身を滅ぼすことになるぞ。」

「俺たちみたいなのが無事に天寿を全う出来たら神様は居ないね、そんな夢の無いこと俺は信じたくないね〜。」

クニマサはそう言うと端末を操作し、再び音声を再生しようとしたため、デクトと呼ばれた大男が端末を取り上げレザートレンチコートの懐にしまった。

「あ!お前取り上げることはねぇだろ!俺の買ったU-podsだぞ!」

「お前もうこれ3回も聴いただろ!隣でなにも面白くない教材を歩きながら流されるの嫌なんだよ!」

「笑えるだろうが、『上』のガキが鼻水垂らしながら大嘘教えられて何も知らずに『下』に対する優越感を持ち、『下』のガキが何も知らずに死んでいく。そんな現実と照らし合わせたらこんなクソみたいなもん笑うしかねぇだろ。」

「なら聞かなければいいだろそんな胸糞の悪いもの。」

「いや、俺はこれ暗記したいんだよ、だから嫌でも聞いてんの。」

「意外だな、仕事以外でお前に目的意識がある行動するなんて思ってもみなかったぞ。」

「俺の事なんだと思ってんだお前。ま、着いちまったし途中で止めなきゃなんねぇのも気持ちわりぃしかけなくて正解だったな。」

後ろから見ると親子程も身長差のある2人は消えかかったネオン灯がぶら下がっている「みたらし」というバーに入っていった。店内は狭く、カウンター席しかない店であった。

「アンタらが最後だよ。」

黒のタンクトップにダメージジーンズという酒を出すママが着そうにないセットを着た40代(多分)の美人がそう言ってカウンターの下のレバーを引くと床が開き、下に続く階段が現れた。

「あいよ〜いつもありがとねママ〜。」

「いつもお世話になります。」

クニマサでさえ狭いと感じる店内にデクトが体を斜めにして体をねじ込むようにして階段に向かっていく。

「デクちゃん毎度毎度狭くてゴメンね〜。クニ、うちの店何とかして広くしな。」

「何とかって無茶言わんで下さいよ〜なんか前から思ってたけどママって俺がデクトと二人の時俺にだけ当たりキツくない?」

「そりゃデクちゃんは色男だからねぇ、色男はヤる気、ブ男は金持ってきな」

「まぁ今度のが上手くいきゃ金も多分入ってくるからそれで何とかしてくれ〜。あとそんなブ男じゃねぇからな俺!」

「確かに、そこまでブ男では無いと俺も思うぞ。」

「世の中相対評価なんだよ。」

クニミツとデクトは仲間の待つ部屋を目指し、狭い店のかび臭い狭い階段を降る。人の権利を取り戻す強い決意を胸に。

ママは2人を見送ると店の外で一服した。今日の空模様はもう何十年も前からない。頭上から溢れる『上』の人間たちの営む光が今日も星のようにギラギラとしている。


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