踏んだり蹴ったりお正月!
最初から最後まで私の苦労話です。
今回は私史上初の「やる気ないんか!」と怒られるレベルの文章です。書き殴ったというレベルを遥かに超えており、もはやメモ書きのようです。なので読まなくてもいいです。
正月のある日の夕方、私は暗い道を歩いていた。
完全歩合制の営業の仕事があまりにも儲からなかったためまた転職をしたのだが、この日私は終業後に買い物をしなければならなかった。
私はチビなので丁度フィット(同じ意味じゃね?)する制服がなかったらしく、オーダーメイドで作ることとなったのだが、そのせいでしばらくは制服なしということになり、代わりに目立たない黒系の上着を手に入れなければならなくなったのだ。
去年の暮れ、私はあまりにもお金がなく、自動車を売ってしまっていた。そのためその日は電車通勤をしていたのだが、駅から行ける服屋が少なすぎて泣きそうになっていた。
行ってみていい感じのものがなかったら最悪なので、上司に許可を取り、仕事中に駅から行けそうな服屋に片っ端から電話をかけて商品を調べた。
その結果、帰り道にある駅から15分くらい歩いたところの服屋で取り置きをしてもらえることになった。
その店が午後6時までの営業だったので5時半に上がらせてもらい、すぐに電車に乗った。ここから7分ほど電車に揺られ、早歩きで服屋に向かえばなんとか間に合うはずだ。そんなことを思いながら座っていた。
実はこの日は転職して初めての出勤だったので、とても疲れていた。整備士の仕事なのだが、この日はなにを着ていけばいいか分からずスーツで行ってしまったため思うように体を動かせず、普通に働くより疲れてしまっていたのだった。
なのでめちゃくちゃ眠い!
でも乗り過ごしたら死が確定する! そんなのダメだ! 明日またスーツで出勤したら何を言われるか分からない!
絶対に眠らないように、でもウトウトしながら座っていると、何個目かの駅に着いてドアが開いた。時計を見ると目的駅到着時刻。
Stand Up!
Let's go!!!!
大急ぎで車両から出ると、目の前に『なんちゃら公園前』の文字があった。
手前の駅だった。
そうか、電車が少し遅れていたのか。しまった。どうしよう⋯⋯
地図を見てみると、走れば行けそうな気がしたので、私はすぐに腹を決めて駅を出た。
真っ暗な道をスーツで走る。
細長い革靴ででこぼこの道を走る。
おそらく今この日記を読んでいる諸君は「取り置きしてもらってるんだし、ちょっとくらい遅れても待ってくれるやろ」と思っていることだろう。確かにそうかもしれない。
でも! 今日はそれだけじゃないんだよ(´;ω;`)何時間も先まで予定が決まってるんだよ!
先述の通り、私はお金がとてもなかった。
本当に、死ぬほどなかった。
なので、今から服を買うと食費はおろか、次の日からの電車代すらなくなってしまうのだ。
そこで私は祖母を頼った。
走りながら電話をかけた。
祖母はご飯を食べて風呂に入るとすぐに寝てしまう人だというのは知っていたので、8時までには必ず行くと伝えて私は電話を切った。
祖母に金を借りようとしているのは誰にも内緒だった。殺されるからだ。
8時までに祖母の家に行くとなると、最低でも6時20分の電車に間に合わなければならない。服屋からその駅までは徒歩15分くらいの距離なので、本当にギリギリの戦いだった。
走り始めてから約8分。服屋のある大きな道に出た。
右にある陸橋を行けばいいのか、このまま下の道を行けばいいのか分からなかったので、とりあえず下道を選んだ。
下道は見たことがないほどの急斜面で、こんなところで転んだら血だらけになって最悪死ぬななんて考えながら、ゆっくり下った。
行き止まりだった。
私は急斜面を全力で登り、車がビュンビュン走っている陸橋の端っこを体力の限り走った。
汗だくで店に着くと、まだ17時51分だった。
店員さんに名前を伝えると、レジ横にすでに用意されていた黒い上着を待ってきてくれた。
試着してくださいと言うのでスーツを脱ぎ、黒い上着を羽織る。一瞬で「最高です!」と言ってお会計に進んだ。13000円だった。こんな値段の服を買うのはスーツ以外では初めてだった。
会計を終え、時計を見ると55分。予約の名前を伝えてスーツを脱いで試着をして高い買い物をしたとは思えない時間だった。
「ありがとうございました! 助かりました!」と何度も叫びながら私は店を出た。
予定よりも早く済んだので、私は呼吸を整えながらゆっくり歩いた。1個向こうの駅に行かなければならないので、また知らない道だ。しかし、そんな何kmもあるわけでもないのでこのペースで大丈夫だ。
18時20分から何度か電車を乗り継ぎ、約2.5km歩いたら祖母の家だ。正直中々ハードなスケジュールだが、休める時に休まないと死んでしまうので、水を飲みながらゆっくり歩いた。
書き忘れていたが、この日私は6kgくらいあるカバンを持っていた。就活の時に買ってからずっと使っている、よくあるタイプの四角くて黒いカバンだ。何が必要か分からなかったので、入社説明会でもらった書類全てとその他もろもろを持ってきていたのでこんなに重かったのだ。
またまた書き忘れていたが、この頃私は実家にいた。金がなかったのだ。
母は遠くにあるユートピアのようなリサイクルショップに行っており、帰りは夜の10時頃、父は仕事で10時頃。2人とも私が朝何時に出ていったか知っているので、2人よりも遅くなると「どこに行っておったのだ」と詰められるかもしれない。「ばーちゃんにお金借りに行ってました」なんて言えるはずがないので、お金を借りたらすぐに駅まで戻り、電車とバスで2人より先に家に帰るつもりだった。
なのでこんなにギチギチなのだ。一分一秒を争う事態なのだ。でも電車の発車時刻までの時間はどう過ごしても同じなので、とりあえず今のうちに体を休めるのだ。
服屋を出てすぐのガソリンスタンドのところを曲がると、工業地帯が広がっていた。どこを見ても工場ばかりで、マジックのような臭いがする。
ローソンがあったので、おにぎりを買いがてらトイレを借りようと思い、入店した。
「いらっしゃいませー」
えっ⋯⋯?
明太子?
今思うとどう考えても見間違いなのだが、店員さんの名札に『明太子』と書いてあったように見えた。なぜか恐怖した私はおにぎりも買わず、トイレも借りず、逃げるように店を出た。
「やば⋯⋯やば⋯⋯やばっ!」
そんなことをブツブツ呟きながら駅へと続く道を歩いていた。気温が1桁の中、重いカバンを持ってスーツで走っておかしくなっていたのだろう。
しばらく歩いたところで、私は絶望した。
坂道が見えたのだ。
暗い道だったのであまり遠くまで見えていなかった。まさかこんなところに坂があるとは。
だってあっちから来た時は平坦な道だったじゃん? 全然下り坂じゃなかったよ? おかしくない? なんなのこれ? 本当にこうなの? 誰だよ作ったやつ! 死ね!
と頭の中でグルグル考えながら歩いた。
キツかった。
新しい環境に飛び込んで、1日仕事をして、重いカバン持って、なんか足も重くなってきてて。
うんちだと思った。
もう、うんちやん。
だってこんなさ、坂なんて聞いてないしさ。
ずるいよ。だったら先に言ってよ。そしたらさっきゆっくり歩かなかったじゃん。うんちじゃん! もーっ! クソー!
「尾崎紀世彦がバイク盗む気持ちも分かるわ⋯⋯」
そんなことを言いながら、泣きながら歩いた。尾崎紀世彦なわけがないのに、この時は本当に頭がおかしくなっていたんだと思う。しかも坂が辛いから盗んだわけじゃないだろうし。
坂の真ん中あたりまで歩いて、私はついに力尽きた。人通りの全くない道だったので、仰向けに倒れた。
硬いアスファルトに背中をつけて、カバンも服も置いて、寝転がった。
死ぬほど寒かった。太ももなんて触っても何も感じないくらいになっていた。
南無三⋯⋯。
もう、ばーちゃん家、別日でも⋯⋯。
否!
ダメだ。明日も明後日も明明後日も明明明後日も誰かしらがばーちゃん家にいたりいなかったり誰かが邪魔したり親がアレだったりで今日しか行く日はないんだ!
私は立ち上がった。
歩ける。行こう。
そうだ、私はメロスと違って山賊にも襲われないし川を渡る必要もない。温室じゃないか。余裕じゃないか。メロスはもっと頑張ったんだ。そう自分を鼓舞した。
⋯⋯でもメロスって創作じゃん。
何度も葛藤した。
頭の中でメロスファンと現実主義者が言い合いをしていた。
そんなこんなで坂を登りきった。時間はまだ少しある! よし!
と思ったが地図を見るとまだ目的地ではなかった。ここから右に行って左に行ってちょっと歩かなければならない。
でも大丈夫だ。あの坂を登りきったんだ。私は強い。行ける。待っていてくれ、ばーちゃんの金よ。
踏切が見えた。
よし!
駅も見える! こんな形してたのか、この駅!
入口を探すが見当たらない。
あれ? ヤバくない?
現在時刻18時16分。あと3分?秒しかない。
踏切を渡った右側に大きな駐車場があった。
その一番奥に、地下へ続く階段が見えた。
あれだ!!!!!
私は最後の力を振り絞って走った。
切れかかった蛍光灯しか設置されていない薄暗い階段を下っていく。目の前に女子高生が4列で歩いている。あと2分。
声をかけて彼女たちを抜かす度胸は私にはなかった。相手が1人(多くて2人)ならまだしも、JK4人は怖すぎる。真冬にこんな汗だくの私に声をかけられたとあれば、今日一日の語り種にされてしまうだろう。
そんなのは嫌だったのでゆっくり4人の後をついていった。上りの階段があった。もう本当に勘弁して欲しい。
さっきの踏切が鳴り始めた。電車が来る。
4人もそう思ったのか、急いで上りだした。私は助かった、と思いながら階段を上った。
ホームに着くとすぐに電車が到着し、ガラガラの車内に座った。
前の駅で電車を降りてからたった40分ほどの出来事だったが、もう本当に疲れて死にそうだった。
今思い出したけど、この日安全靴(鉄板が入ってて重い靴)もらって持ち帰ってたんだ。荷物だらけじゃないか。
後日、上司に「靴なんてここに置いとけばいいのに」と言われた。それまでは毎日持っていっていた。
ここから乗り換えが必要な駅までは15分ほどあるので、少し気が緩んだ。
向かいに私と同じように疲れ果てた女子高生がいた。部活だろうか。
スマホを持った手をだらんとたらして、目を閉じてぐったりしている。
寝てるのか? 起きてるのか?
絶対寝てるよね。でもスマホはちゃんと持ってる。斜めだけど。このままちょっとでも力が弱まったら落ちると思うんだけど、大丈夫かな。
揺れた!
⋯⋯セーフ?
微動だにしないな。よく寝てるのにスマホ持てるなぁ。私だったら寝た瞬間に落としてその音で目覚めるわ。
⋯⋯もしかして、死んでる?
死後硬直で握られてるってこと!? 目の前で人が死んだ!? マジ!?
どうしよう!
どうしようううう!!!
心の中で叫んでいると、乗り換え駅である終点に着いた。
けど起きない。
生きてるのかどうか心配だったので、肩を叩いて声をかけてみた。
起きない。
「あの、スマホ落ちますよ」
少し強く肩を叩くと、「ハッ!」と言って飛び起きた。その拍子に顎に頭突きをされた。
結局スマホは落ちた。
さて乗り換えだ。
4分の間に駅の中心まで戻って、階段をいくつか上って、電車に乗り込まなければならない。
が、修羅場をくぐってきた私には楽勝だった。
それからまた電車に乗って、ここの乗り換えのタイミングでやっとトイレに行って、19分くらい乗って祖母の家の最寄り駅で降りた。
現在時刻19時39分。20分しかない。2.5kmくらいあるので早歩きをしなければならない。チビやから足短いんよ。
結局走った。荷物が鬼のように重かった。
本当に足が重くて重くて、祖母の家が何倍も遠く感じた。しかも迷ったし。
やっとの思いで祖母の家に着くと、「どうしたの」と出迎えてくれた。時計を見ると20時ピッタリだった。
私は家に入ると、すぐに前に倒れた。
「どうしたの! 大丈夫!?」
ばあちゃんがパニクっているが、こっちも呼吸を整えないとまともに喋れない。
「大丈夫、走って疲れただけだから。荷物もこんだけあるし」
しばらくしてやっと私は説明した。
「ほんで、今日はどうしたの? こんな時間に、仕事疲れたやろ?」
「実はその⋯⋯」
そう、実は電話ではお金を借りたいというのは伝えていなかったのだ。怖くて言えなかった。でも最終手段だから腹を決めてここに来た。
「お金を⋯⋯」
「お金を?」
「貸してください⋯⋯」
「ないんか!? お前お金ないんか!」
その後いろいろ言われて、借用書を書いて借りることになった。ばあちゃんはなぜか20万貸してくれた。なんで家にそんなに持ってるんだ。(それから私は2ヶ月弱で返済した)
おそらくこれを読んでいる読者の中には「人に金借りるなんて最低だな」「クズだクズ! お前はクズだ!」「底辺の極み! うんち!」「死ね」と思っている者も多いだろう。
でもお前に借りたわけじゃないだろ!!!
もう返したし当人同士がいいって言ってんだから口突っ込んでくんなハゲヌルハンバーグが!!!!!
って思うよね。
それからばーちゃんが「ご飯食べてく? 冷凍しかないけど」と言ってくれたが、両親より先に帰らなければならなかったのですぐに家を出て駅まで走った。何回も言ってるけど、死ぬほど寒かった。汗のせいで余計に冷えるし、服の袋の角とか靴の箱の角とかめっちゃ太ももに当たって痛いし、最悪だった。
それから電車を乗り継いで、バスに乗って、なんとか滑り込みセーフで帰りましたとさ、めでたしめでた⋯⋯
し。とはならないんだな、これが。
次の日起きたら喉痛いし頭痛いし体だるいしヤバっ! でも2日目に休む訳にはいかん! ってなってたんだけど体温計ったら39℃。コロナが騒がれてたこの時期にこんな体温で出勤出来るわけもなく、熱が下がるまで欠勤しました。コロナは陰性でした。おわり。
服のお金はあとで会社からもらいました。