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中身のない国家権力

午前9時15分。僕は瓦礫の傘に隠れて天使と話していた。


「お前には色々聞きたいことがあるんだが」

「私もよ。貴方なぜそんなに精神を強く保てているの?」


所詮他人は他人だ。幾ら泣いたり頭を抱えたりしたところで現状が変わるわけでもないし。逆に相手方の加虐心をそそるだけだ。


「まあ合理的に物事を考えるのが得意なんだろうな。ところでお前は何者なんだ?なんか身体がめっちゃ頑丈になっているし、禍々しい物質を出すことができるようになっているし。第一あのバケモノはなんだ?あいつのせいでここらへん一体瓦礫の山じゃないか」


どうやら沢山の質問をぶつけてしまったらしい。僕の目の前にいる天使もどきはあたふたし始めた。どうやら脳の処理能力は人並みかそれ以下なようだ。


「順番に話してくからちょっと落ち着いて!」

彼女は比較的に大きな声を放ちながら僕との距離を詰めた。


「まずお前は何者なんだ」

「天使候補」


彼女には頭の輪っかもないし翼も生えてはいない。しかし髪色などは明らかにこの世の色ではないような神々しさを放っている。


「正気か?」 

「うん、天界で新しい天使を決める戦いをするらしくて、それの巻き添えを君が今食らってる」

「はあ」


科学では証明できない力が宿っているので否定することはできない。


「んじゃ天使候補よ。お前が天使になるにはどうすればいい?」

「ミアって名前があるの。天使候補って呼ばないで。」


彼女の顔が急に近くなり僕は少々困惑する。

「悪かった、でミアさんよ。俺がこの面倒ごとから解放される方法を教えてくれ」

「ない」


え?

「ない」


彼女は言葉を繰り返した。

「さっき君を守るために契約を交わしたでしょ。あの口づけ、あれ力と代償にこの天使大戦から身をひけない縛りつき」


思い出した。初対面の人間にファーストキスを奪われるなんとも言えない屈辱的な事象。僕が頭を掻きむしると不意にミアが口を開いた。


「そういえば君の名前を聞いてなかった」

自己紹介をするのを忘れていたらしい。

「尾崎将兵、めんどくさがり屋だ」

「なにそれ」


そう僕が冗談めかしでいうと彼女は頭を傾けた。冗談には聞こえなかったのだろうか?


「そういえばさっきのバケモノがなんであーなったのかを聞きたい」

僕は気を取り戻すために彼女にさっきから浮かんでた質問をぶつけることにした。


「あいつはね...天使の力を使いすぎた。欲に溺れすぎたってところ。何にでも許容範囲ってものがあるでしょ?」

ミアは平然と答えていた。


様々な疑問が脳に浮かぶ、許容範囲は何によって決まっているのか。何が力の燃料となっているのか。契約というものは力を得るために使ったもので力を使うためにはまた別の縛りが存在しているのではないか?


そもそもなぜ天使たちは現世で争いをすることにしたのか。瓦礫の山の上で頭を抱えていると




「君か!?この惨状を招いたのは」

私服の筋骨隆々な男が僕の隣に立っていた。

「いえ、違いますが」

「しかし!君以外この場に誰もいないだろう?」


まあ確かにそうだが、この手の脳筋は物事を多面的に捉えることが苦手だ。視野が狭い。犯人が逃げた可能性も視野に入れることすら出来ない無能だ。当の犯人はまあ僕がひき肉にしたのだが


「犯人が逃げた可能性などは考慮しないんですか?」

「もし君が犯人じゃ無いとしても、落ち着きすぎているだろう?」


痛いところをつかれた。

「まず貴方は何ですか?」

僕が問いただすと筋骨隆々な男は意外なものを取り出した


「国家権力だ。対天使大戦特殊部隊、通称マル天の井尾と申す。俺は解るんだ。天使と契約してる奴が。疑わしきは罰せよの精神で君を捕まえる。死んでくれるなよ?」


彼はそういうとぱんっ。と手をたたきファイティングポーズをとった。


震える拳(impact)。俺の拳はかなり響くぜ」


彼との和解のルートは断たれたようだ

僕はため息をつきながら


実態のない魔球(インバース・バレット)を無数に用意する。


一陣の風が吹く。それを皮切りに彼が僕に拳を突きたてきた。


さっきの切り裂き魔で斬られなかった肉体だ。なんとかなるだろうと思っていたが思わぬ衝撃が体に走った。


「だから言ったろう?俺の拳は響くって」

俺は血反吐を地面に吐きつけファイティングポーズをとった。


僕の身体は今、表面が硬くなっているので内部、即ち臓物にダメージが行きやすい。これは非常に部が悪い。長期戦に持ち込まれるとおそらくやられるだろう。


とりあえず自ら出す黒色のエネルギーで防護壁を作る。何か考えないとな。血が流れる。今も非常に冷静でいられる自分に驚く。

痛みはただの電気信号だと常日頃から自分に言い聞かせている甲斐があったのか。


「これで立つか、普通の人間なら食らって骨すら残らん筈なのにな」

彼は相当の実力者のようだが慢心は見せず僕との距離をひたすらに0に近づけようとする。


このままでは詰み、だが。


ここで終わる僕では無い。

「この黒い塊が、アンタには見えない?」


黒い球体が無数に飛んでゆく。これで倒れない人間はめちゃくちゃ鍛えて鬼のような耐久性と凄まじい速さを併せ持つ人間だけだろう。


片付いたか、僕は背を向け帰ろうとすると、



彼から凄まじい気が流れる。

「ふん!やるな!ここからは出し惜しみなしで行こうか?圧縮掌(バン・テイ)!」



無限に折りたたまれた脚は、恐ろしい推進力を生み出す。彼の攻撃はおそらく光をも割るだろう。


僕は亜音速で飛びかかって来る彼の目の前で腕をぱん。と叩いた。


彼は僕の三寸前でその動きを止めた。



「そろそろボクシングごっこも疲れてきたな。終わりにしようか」

彼の顔色が樹の色に染まる。

「どういうことだ?」


そのままの意味だ。彼の打撃を受けたらおそらく只では済まないだろう。しかし僕には対して意味をなさない。攻撃が当たる前に殺してしまえば僕の一方的な蹂躙でこの話は幕を閉じる。


少しばかり無茶をしてみようか。そう呟き僕は身体の中心に力を込めた。僕自身も何が起こるかわからない。


不条理への片道切符(バビロンズ・ゲート)



口から零れる言葉すら身勝手で無意識なもので。言語の壁すら超越する。この古代文字を僕は知らない。しかし指が空を斬る。面白いように。指が勝手に追うまるで魔法陣を描くように。古代文字を描く


すると藍色の物体はまるで冥界への扉のような禍々しい様相に姿を変えた。目の前にいる1つの肉塊をいざ取り込まんと。


その場に佇んでいる"門"は冒涜的な雰囲気を漂わせていた。目の前の男は何かを悟ったのだろうか。狂ったように笑い大きな声で話しだした。



「うーん!僕はどうやらここまでのようだね!まぁいい!あとは他の皆に任せるとしよう!さあ!いざゆかん!冥界旅行へ!」




自称警察の男は自ら凱旋する将軍が如く。扉へと歩いていった。その男の後ろ姿はどこまでも莫迦でどこまでも愚直な人間に見えた。



「私が言うのも可笑しいけどあなたも結構に鬼畜ね」

ミアは僕に苦笑いを向けていた。

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