AM 9:00
目の前に現れたのは天使のような同い年くらいの女の子だった。とりあえず抱えていたデコハゲの亡骸を下に置き、僕は彼女の姿をまじまじと見た。
「貴方。随分肝が据わっているみたいだけれど」
「そりゃどーも。」
まじまじと見ていた彼女からお褒めの言葉をいただく。
「んんん?!?まだ生きているゴミがいるぞぉ?」
ようやく辻斬りのバケモノが僕の方を向いた。
「おい天使。あのバケモンはなんだ?」
「説明は後!今はとにかくあいつと戦って!」
殺意100パーの超能力者と対峙していた。15分ほど前の自分に言ってもおそらく鼻で笑われるだろう。まさか地元、学校でこんなことになるだなんて。
遠くでサイレンの音が聞こえ始める。ヒーローは遅れてくるものだとよく言うが今回は絶対に遅れちゃいけなかったな。
勝ちを確信していた僕の後ろで警察車両の爆ぜる音がした。バラバラになった警棒が落ちている。
「俺様がこんな上の許可が取れなきゃなんもできん公務員に負けるわけがないだろ!!」
なんだこいつは。急に理性的になった辻斬り魔を見て僕は対話を試みることにした。
「なあお前。こんなところで何してるんだ。他にやるべきことあるだろ。世界中の報われない子供たちのためにその力使った方がよくね?」
つらつらと言葉を並べていると腹に猛烈な違和感を感じる。これは多分、痛みだろう。透明の刃がどうやら僕を襲っていたみたいだ。
「無駄だよ。話し合いはあいつは欲に溺れた元人間ってとこ。今は操り人形。武力で解決しなきゃいけない」
後ろから天使の声が聞こえる。斬られたところが痛むが怪我はしていない。これは恐らくこの天使と契約を交わしたからだろう。
「戦えってどうやってだよ!」
「腕に力をこめてみて!」
腕に力をこめてみる。恐らくあの天使の力だ。さぞ眩いものに違いない。神聖なものを期待していた。が、僕の腕から現れたのはブラックホールのような藍色の球体。
「イメージと全然違うんだけど」
思わず言葉が溢れてしまった、そんな言葉を吐いてるうちにも辻斬り魔からの攻撃は続く。僕が顕現させているこの得体の知れない物体を平べったく変形させて防ぐことしかできていなかった。
「意外とそれ!自由に動かせるよ!」
天使からの声がまた届く。自由がきく...物体らしいので僕は脳内で2本の短剣を思い浮かべた。
するとどうだろうか?黒光する短剣、ナイフが僕の両手に握られていた。
楽しくなってきた。
空にナイフを振ってみる。そうすると空気が裂け文字通りそこに大きな引力が発生した。
真っ直ぐナイフを投げてみる。そうすると空気を掻き分けてナイフは進み、辻斬り魔の身体に吸い込まれるように向かってゆく。ソニックブームで掻き消されたと思ったらいつのまにかナイフは手に握られていた。
大体掴んだ。勉強以外は大抵センスで片付くものだ。
「実態のない魔球」
無数の球体を練る。どうやらこの物質にはとんでもない質量があるようでこれをぶつけられてしまったらあの辻斬り魔もひとたまりもないだろう。
「や...やめろ...やめてくれ...殺しをしたのは謝るから...」
僕が弾を撃ち出そうとする前に辻斬り魔が命乞いをし始める。瓦礫の山になった道路の上に頭を擦り付けていた。
能無しにしては賢いなこいつ。命乞いからの不意打ちをねらっているのだろう。僕は感心しながら彼へと無数の物質をぶつけてみた。
指数関数的にスピードが速くなっていく。彼は上を見上げて涙を流していた。本当に人間ではないのか?と思う部分もあったがやったことがやったことなので当然の報いとも言える。
僕が次に辻斬り魔の姿を目にした時、彼の身体はボロボロのミンチと化していた。
「これでハンバーグでも作れってか?」
肉塊になった猟奇殺人犯へと蔑みの目線を向けその場を立ち去った。
現在時刻は午前9時。わずか20分の出来事だった。