89 希望と理想と現実と
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王城での交渉を終えたフロレアールは翌日の登城、そして各種の治療や各件の公布や日程等の段取りを行う約束し、本日は宿屋へと戻ることを申し出る。
すると社交辞令なのか本気なのか分からないが、王女エクアトーラから来賓として王城での宿泊と歓待の提案を受けるが、錯覚なのか彼女の目が肉食獣ぽく視えたこと、別行動中の仲間へと本日の交渉結果と明日以降の予定を伝えると言って断るのだった。
そして目下の懸念である実姉テルミドールはというと退室を命じられてから放置されていた為と思われるが、フロレアールが怒り雷紅を帯びてから間もなくして隣室から彼女の主である第二王女メローネや第二王子ヴォイドヴランと思しき反応と共に隣室から王城奥へと移動した事を探知により確認していたことから、エクアトーラからのアドバイスもある事から一先ずは放置プレイとの選択をするのだった。
そして帰りに際しても登城時と同じくヴィーチェこと第一王子ヴィルドゥチェンゲンがエスコートを買って出てくれた為、フロレアールはその申し出に甘え、宿屋までの馬車送迎を受けることにしたのである。
とは言え城内を移動する際には他者の目もある為、特に会話をする事も無く無言でヴィーチェへと化した彼の後に続くだけであった事から、フロレアールは応接室での事を思い返しているとふと疑問に思うのだった。
それは応接室での王子や王女の挨拶順が最初が最も年下の第二王子、次いで第二王女、そして最後が年長者である第一王子たるヴィルドゥチェンゲンであったこと。
そして第一王女に関しては話題すら無く、嫁いだなり元々アポ無しの訪問であった事から不在との説明すら無かったこと。
そして応接室の場に居たモブたる近衛やテルミドールらを除いた者たちの中でヴィルドゥチェンゲンだけが傾国の美貌による従属状態に唯一陥っていること。
少なくとも挨拶順番と魅了による従属状態、この二つは何らかしら関連があるのではと推察し。フロレアールは密室たる馬車の中に入った後に確かめることにしたのだった。
そしてヴィーチェからのエスコートを受けて馬車へと乗り込む。
程なくして馬車が動き始めたことから自身のしようめんに腰掛けているヴィーチェへと先の疑問を尋ねてみるのだった。
「ヴィーチェ殿でいいのかしら?少し伺いたい事があるのですが宜しいですか?」
「えぇ、ヴィーチェで構いません。国王陛下からの許可が無い限りは許されてませんので。それで改めて聞きたい事とは質何ですか?」
「挨拶の順序に違和感と言うか、一番最初が一番年下であった第二王子
次が第二王女でしたから気になってまして何か理由があるのかなと。それと第一王女の話が何も出なかったので気になりまして」
「その事ですか…。単に第二王子のヴォイドヴラン殿下の王位継承権が
今は最も高いからですよ。次いで第二王女のメローネ様、それに続くが第一王子との事だけです。因みにフロレアール殿は王妃様と義姉妹の契りを交わしますが本人同士の魂的な誓なので王族とは成りえません。ですから自身より年上の義甥や義姪から叔母様と呼ばれる事も無いのでご安心を」
「それは良かった。この年で“オバサマ”や“オバサン”呼びされないと分かってホッとしました。ことろで王位継承権の順位が理解できないので理由を教えて貰えませんか?」
少し嫌味っぽいヴィーチェからの言葉を聞き流しフロレアールはその理由を求める。
「そうですね、この国、ヴァンデールを建国した初代国王ヴェリエルヴァイエは勇者だったと言い伝えられています。彼のユニークスキルには勇者の他にも精神的状態異常無効、伝承とのモノを有していたそうです。状態異常無効は御存知だと思うので省きますが、伝承とのユニークスキルは自身が保有するスキルを一つ、後に生まれくる子孫へと受け継がせるモノだったとされています。この事から王国では精神的状態異常無効を有する者の継承権が最も高く、次いで性別は男が高きとされています。これは男性の方が子のスキル発現率が高い為でだそうで。そして最後かま、その者の武勇で評されます。勇者の子孫、加えて有事の際には兵を率いて民草を守る務めを果たす為に、武勇も求められます。この事から第二王子はチェーネの小さき英雄たる“紅華”の貴女に強い憧れを抱いたのでしょうね」
そう言ってヴィーチェは一呼吸置いた後に少し自嘲気味に“フッ”と短く笑うと続く言葉を放つ。
「そして第一王子には状態異常無効は無く、代わりに状態異常耐性のレアスキルが備わっていました。そして第一王女に至っては耐性すら無かったのです。真偽は不明ですが初代国王から長い年月が経ち血が薄まった事、歴代の王や女王の伴侶たちの中に耐性スキル持ちの方々が居た影響と云われています。そして、これ迄の王族史から耐性を有していればその者の子に無効スキルが発現する可能性がある事、逆に耐性スキルすら無い者の子には耐性スキルすら発現することが無いと判明しています。耐性スキルすら有さない者の子に奇跡的に状態異常無効が備わっていた事もあった様ですが、以降の子孫には耐性スキルすら備わることは無かったそうです。その為、この国の王族では精神的状態異常系スキルを有さない者は成人を迎えた日をもって廃嫡となるのが定められていますので第一王女がどうなったかは分かりかねます」
その話を聞いたフロレアールはバースニップとの会話で、状態異常無効をこの国の王族は有していると彼が口にしていた事の意味を再認識する。
それは逆の意味として、状態異常無効スキルを有さなければ王族足りえぬとの意味も含まれていた事に。
そしてズラ王がその掟により、親として、そして国の王としての立場で板挟みとなり、深く苦悩したであろう事想像に難くなかった。
そんな彼の頭頂が更地と化した原因が義政者との立場や最凶嫁からのプレッシャーだけでは無かったことを推察したフロレアールは少し労わりの心を持って荒野再生事業に取り込むことを心にしたのだった。
自身たる第一王子、そして廃嫡された第一王女ヴィーチェについて話し終えたヴィーチェは深いため息を吐いてから言葉を続ける。
「フゥ…。そういった意味では第一王子はまだマシだったと言えますかね…。それに昔と違い今は状態異常無効を有するダンジョン產魔道具も希少ですが存在しています。武勇を上げるに併せて其の効果を有する魔道具を手に入れさえすれば、第一王子にも王位を継ぐという希望は残されていますので…」
そう言ってヴィーチェは力が籠った真剣な眼差しで希望とも野望とも取れる己が望みを口にするのだった。
話を終えるのに合わせたかの様に馬車はフロレアールらが宿泊している宿屋の前へと到着する。
そしてヴィーチェからのエスコートを受けて馬車から降りるフロレアールは感謝を述べる。
「ヴィーチェ殿、お話を含めて色々とありがとうございました。明日も直接王城へ向かわせて頂きますので皆様にその旨をお伝え下さい。それでは失礼します」
そう言い残しフロレアールは知ってしまった王族との立場そのしがらみの一端、その後味の悪い余韻、例えるならば味の無い薄い苦味を味わいながら一人宿屋へと戻るのだった。
それから少ししてダカラ好き歌劇団の“ヴァンデールの百合”の夜公演を観終えたカテジナ達が戻ってくる。
夜が少し深くなったことから宿屋併設の食事処兼酒場に移り少し遅めの夕食を摂る事にする。
フロレアールが音声の伝播妨げる程度の極弱い魔術障壁を自身らだけを覆う様に展開する。
そして当日に拝謁する事となり、その結果として得た交渉内容について伝え、翌日も王城へと向かうこと、加えて当面の間は別行動となること、そして王都滞在期間がそれなりに長くなる旨を伝える。
その話の中で義姉妹の契りの際に、キャローナが「コレってNTRってヤツじゃないですか!?ぷ〜くすくす」と揶揄したのだが、意外にもカテジナは冷静に「別に恋人でも嫁婿の話でも無いから関係ないですわ」と正妻?の立場からなのか謎の余裕を見せ付けるのであった。
そして長期間の王都滞在や別行動に関してカテジナは予想に反して自身も成さねばならぬ事が出来たと了承し、カルチナとキャローナは新たな尊き趣味の為に何かと入用とのことで、当面の間は二人は冒険者として稼ぐ事に注力する意向であり問題無いとの返事を返すのだった。
フロレアールからの一連の報告を受け自分らの意向を伝え終えたカテジナ達は本日のダカズキ活動に関して、百合百合脳に侵されきった者たちがまるで恋に恋する乙女の様に熱ぽっく、そして熱く語り始める。
どうやら“ヴァンゆり”はバースニップやクーヴァからの前情報通り、フロレアールが実姉テルミドールが原典となった男装の麗人テルミル、そして第二王女メローネが原典となったメロレ姫、その二人の禁断にして尊きラブロマンスを主軸とした主役の二人が困難と策謀に抗う愛の物語なのだそうである。
カテジナたち曰く。
始まりはメロレ姫の窮地を救う男装の麗人たる冒険者テルミルとの運命の出会い。
感謝と一目惚れからの専属騎士へと誘う姫。
その一方で秘めた思いを胸にそれに応じる男装の麗人。
そして二人に迫り来る苦難。
ぽっと出の専属騎士に対する他騎士や貴族からの誹謗中傷や嫌がらせ、そしてそれに伴う軋轢。
なれぬ専属騎士との立場と他の騎士や貴族との関係に苦悩する苦悩するテルミル。
それらの苦難を姫からの献身的な支えに助けられ数々の苦難を乗り越えるテルミル。
こうして時と共に育まれる二人の絆と人言えぬ恋心。
そして惹かれあった二人は互いの秘めたる想いを告げ合った後に結ばれるのだった。
それから間もなくしてテルミルへと生還率が低く危険な魔獣討伐への半強制的参加が王命により下される。
テルミルが不在の最中に企てられる政略結婚たる姫の婚約。
そこへ届けられるテルミル消息不明の報に悲嘆し、その哀しみから涙する日々を過ごすメロレ姫。
傷心のメロレへと近付く婚約相手たるヴォルゼン伯爵。
だが、テルミル謀殺もメロレの政略結婚も全てはヴォルゼンが陰で糸を引いていた謀だった。
そうとは知らぬ姫に起こる心情の変化。
望まぬのに時と共に薄れゆく想い人へと気持ちと哀しみ。
そして次第に寄り添い支え続けるヴォルゼンへの情に絆され始める。
テルミルが戻らぬまま時が過ぎヴォルゼンと姫の婚約が正式に報じられ、国内へ伝播する婚約の報と祝賀の空気。
そしてテルミルが戻らぬまま迎えた結婚式当日に式場たる神殿に突如として現れるテルミル。
テルミルは、自身へ密かに想いを寄せていた騎士ヴェロデールの助けにより辛うじて謀殺を逃れていたのだった。
テルミルは失踪を装いながら、ヴェロデールの助けを受けつつ、ヴォルゼンの謀略をはじめとした王国に対する背信行為などの証拠の数々を集めていたのだった。
結婚式のその場で背信行為を暴露されたヴォルゼルはテルミルが話こそ謀略であると断じる。
そしてヴォルゼンはテルミルへと屈辱罪を宣告し決闘を申し入れる。
テルミルがそれを受け、二人はその場で対峙し、テルミルの手によりヴォルゼルは直接討ち果たされる。
そしてテルミルはメロレ姫へと永遠の愛の誓いと共に生涯の伴侶として生涯を共に歩んで欲しいと申し入れる。
メロレ姫は求婚を受け入れ二人は抱擁の後に口付けを交わす。
だが、神殿の司祭、そしてメロレの父たる国王が認めない旨を参列者の前で宣言する。
それを受けてメロレ姫は愛に生きる事を告げると自ら廃嫡を告げる。
そしてメロレはテルミルへと姫で無くなった自分でも構わなければ自身を連れ去る様に願いでる。
テルミルはメロレの身分は関係ないと伝え、改めて熱い口付けを交わす。
そしてメロレを所謂お姫様抱っこでが抱え上げ、式が執り行われていた神殿から連れ去った所で終幕を迎える。
降りる幕に合わせ、この後に二人は王国から遥か遠くの地で生涯を共に幸せに過ごしたとの説明で締め括られるそうである。
その説明の最中には、カテジナたち三人から、「この場面ではテルミル様がほにゃららで…」とか「ここのシーンが尊い」、「毎回毎回本当に口付けを交わすのが堪らない」とか自身らの心情を込めて熱心に語っていたのだった。
そんな熱心な布教を受けてもなお、フロレアールには相変わらず一切の興味が湧かなかった。
何故なら演劇の話を聞いていても物語の原典たる実姉テルミドールと第二王女メローネ、その二人の現物を少し前に目にしたことから例えパンフレットを示されながら“ヴァンゆり”の布教を受けても脳内に浮かぶ映像は原典の二人の姿であった為、その内心は萎え萎えなのであった。
そしてフロレアールは一言「悪いけど原典の影響で無理ね」と入信を断るのだった。
入信を断られたカテジナたちには、もう一つ伝えねば成らぬ事があると改めてフロレアールへと伝える。
そう、それは薄い本の布教、そして一部のエルフのみが使えるという魔法についてであった。
だが、禁書たる各種の薄い本を人目があるこの場に取り出すことは出来ないことから、もう一つの報告については部屋に戻ってから改めて説明する旨だけを伝えるのであった。
そして食事を終えたフロレアールらは部屋へと戻るのであった。
そしてフロレアールは知ることになる。
カテジナらの希望と理想、それを現実に叶える手段として魔術とは異なる魔法との奇跡の御業が現実に存在していることを。
世間はコロナ禍明けの黄金週間との事でプライベートの付き合いもあって執筆が遅れ気味で申し訳ありません。
今回は構成の関係で次話と分割分割する事にした為、少し短い話となりました。
次回は久々にエチエチ回となる予定ですのでお待ち下さい。




