88 宿願成就
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フロレアールからの悪魔の取引とも言える提案にハゲ王エヴィエオードスは暫し悩んた後、思い詰めた表情を浮かべ真剣な眼差しをフロレアールへと向けて応える。
「フロレアール殿、申し訳ないが四つ目の条件に関しては承服する事は流石にできぬ。頭の中身はどうあれ他者の命を贄として己の願望を叶える訳にはゆかぬ。それに近衛所属とは云えアレはメローネの騎士、それに命の恩人でもある。余は王とはいえ、いや王だからこそ他者の専属騎士の処遇を好き勝手に決めることはできぬのだ…」
そう言ってハゲ王は意気消沈しながらテーブルの上からヅラエモンを拾うと更地になっていた自身の頭頂部へと“べちょっ”と音を立てながら無造作に載せる。
そして夢破れた彼はヅラと自毛とをフィットさせることすらせず、ヅラズレ王と化したエヴィエオードスは肩を落としながら赤く染まり始めた空を背に黄昏始めるのだった。
そんなヅラズレの肩に禿げの同志が手を回し掛けると声無くして肩を震わせ合い、二人が哀しみを分かち合うのたった。
そんな二人を放置して次に言葉を発したのは最凶こと王妃エクアトーラであった。
「フロレアール様、提示された条件ですが交渉は受け付けて貰えるのかしら?それと後で個人的に伺おうと思っていたのだけど今その事を尋ねても構わないかしら?叶うなら質問は出来れば交渉の前にお願いしたいわ」
「そうですね…アレを始末する許可かわ得られなかったのは正直痛いですが…、まぁ良いでしょう。アレは放っておけば向こうから仕掛けてきそうですから…。その時にでも返り討ちにして屠ることにします。これなら是非もないよねってヤツで片付けられます」
「あらあら、其れではダメですわよ。流石に襲われたと言っても相手を屠ったりしたら、フロレアール様が罪に問われ、お咎めを受ける事になりますわよ」
「そこは大丈夫ですよ、証拠など残しませんから。骨までしゃぶり尽くした様に跡形も無く消し去りますから安心してください」
「あら、そうなの?なら、その時は行方不明にでもして処理しすればいいのかしらね?」
「そうですね、穏便にそれでお願いします」
そう言葉を交わすとフロレアールとエクアトーラは互いに「うふふふふ…」と微笑み合う。
どうやらこの二人は魂の音色が波長が似通っているらしく話がピタリと合う。
それは所謂ソウルメイト、そう二人は魂義姉妹なのであった。
「あらあら、フロレアール様とは随分と話が合うようです。こんなに短いやり取りなのに話していて気分が良いのは初めての事です。失礼ながら、これからはフロレちゃんと呼んで良いかしら?何なら私の事はエク義姉様とかエク姐様と呼んでも構わないわ。どうかしら?マイ・ソウル・シスター?」
「はい、私の事はフロレでも構わないので好きに呼んでください。エク姐様、今後ともヨロシクして下さい」
「勿論よフロレちゃん。こんな手紙を出す輩よりは貴女の事を色々と…そうフロレちゃんが望むならイ・ロ・イ・ロと面倒を見てあげられるわよ。ほんと可愛いわぁ…食べちゃいたいくらいよ」
そう言ってエクアトーラは一度だけ艶めかしく舌舐りをする。
その言葉に王直属騎士ヴォーエフと第一王子ヴィルドゥチェンゲンが「なっ!」との驚きの声を上げる。
そしてヴォーエフが堪らず声を上げる。
「エクアの姐さん!?冒険者時代と違って今の立場でその発言はやべぇですぜ!?愉いのわ分かったからちったァ落ち着いてくだせぇ」
ヴォーエフから愉しい会話に水を差されたエクアトーラは彼へと凄まじいガンを飛ばし舌打ちする。
「チッ…。ヴォーエフ、今は王族としてではなくプライベートな私的な時間だった筈です。個人的な会話に横ヤリは無粋を入れる方が無粋と云うものです。そんなんだからアナタは未だに独身子無しなんです!」
そう言ってエクアトーラは見るからに気分を悪くした様でプンスカしている。
ヴォーエフの苦言により会話のボールが誰の手にも無い状況を悟り、先の交渉不調となった原因が払拭された事を耳にしていたヅラズレ王が口を開く。
「それではフロレアール殿、改めて余と交渉を」
だが、エヴィエオードスの言葉は彼の左脇腹から立て続けに発せられた“ドゴ!!”、“ゴキャァ!!”との音で途絶え、続く言葉は「ゴヴォハァァ!?」との呻き声に強制的に置き換えられる。
それはプンスカ王妃が激おこプンプンまるな最凶へと進化し、振り向き様に左の拳をヅラズレ王の左ボディへと怒りのまま突き刺した為であった。
ヅラズレ王の口から“ガハッ”との呻きが漏れ、躰がくの字に折れ曲がった反動で再びヅラが宙を舞い、“べちゃり”と音を立ててテーブルの上に打ち上げられるのだった。
ヅラエモンの姿をチラ見した後に「ひゅーひゅー」とのか細い呼吸音を発し始めたハゲ王にエクアトーラは視線を移すと、彼の左脇腹に文字通り突き刺さっている己の左拳抜き取り、代わりに左掌を当てるとそこからは治癒魔術特有の光が帯び始める。
「オードス、何勝手に交渉始めようとしてるのかしら?先の横ヤリはこれを狙ってのものだったのかしら?」
そう言い放ちヴォーエフへと視線を向けると王国最強騎士が青い顔をしながら“ブンブン”と音を立てながら顔を左右に振り必死に否定する。
其様を眺めていたフロレアルは思う。
(そっかー、躾る時は治癒魔術を掛けながらただ単に軽めの痛みと恐怖を与えるより、一度強めに痛め付けて本来の痛み堪能させて後悔と恐怖を存分に味合わせるのね!その後で負傷を癒した方が周囲への警告を含めて効果は抜群のようね。流石は姐様だわ!)
フロレアールが心の中で今後の躾方針を改めてその技術に賞賛を贈っていると治療を終えたエクアトーラがハゲ王を放り投げ、フロレアールへと向き直り言葉を発する。
「見苦しところ見せちゃったわね、フロレちゃんゴメンなさい。それで改めてお尋ねしたいのだけどいいかしら?」
そう言ってエクアトーラは軽く頭を下げた後に頭を戻すと可愛らしく両手を胸の上で少し右に傾けて合わせてる。
「姐様、お気になさらずに。躾に関しての良い勉強になりました、流石でした。それで私に答えられる事でしたら別に構いませんよ?」
その言葉を聞いたエクアトーラ以外の者たちは、何だかんだ言ってもフロレアールの性格も大概だということを察するのだった。
そんな自身らの事には気付いていない二人の会話は続く。
「それじゃぁ、フロレちゃん。悪いのだけどハゲや禿げに髪の毛を生やせると言ってたけど今生えている髪の毛を美しく、そう貴女の髪のように艶やかに甦らせることも出来るのかしら?そして貴女の其の(そ)白くて透き通る様なきめ細かな肌よ!まだ若いからシワが無いのは納得できるけど化粧もしてないしわよね?冒険者として常日頃から野外を旅をしているのによ!?私も昔は冒険者だったから分かるの…それは有り得ない事だわ!!今回は国の南方から王都までそれなりの日数を掛けて移動して来たのでしょ?それなのに日焼けの後どころかシミや雀卵斑一つ無いのは納得出来ないの…。貴女の治療とやらは髪や肌の状態すらも改善出来るのかしら?お願い、フロレちゃん答えて!」
そう問い放ってエクアトーラはテーブルに両手を着いて豊満な谷間を見せつけながらフロレアールに詰め寄る。
その女性ならではの美への果てなき渇望に対する執念から発せられる凄まじいプレッシャーに流石のフロレアールもたじろぎ、他ならぬ魂義理姉からの願いを聞き入れる。
「姐様、どうか落ち着いて。答えますから落ち着いて下さい」
その返答にエクアトーラは落ち着きを取り戻しソファーへと腰を掛け直す。
そして期待から“ゴクリ”と喉を鳴らしながらワクワクと期待に大きな胸を膨らませながらフロレアールの言葉を待つ。
「エク姐様の予想は当たっています。私の髪や肌は先の治療に類するモノで常に最善の状態を保つ様にしています。ですが、髪の毛の再生同様に施術時点で改善しますが、それ以降の保証は出来兼ねます」
その答えを得たエクアトーラは迷い無く、澄んだ眼でフロレアールの目を見つめて願い出る。
「フロレちゃん、お願い。ハゲや禿げなんかはどうでもいいから私の髪や肌を貴女と同じ様にして頂戴…お願い…」
そう言ってエクアトーラは胸の前で両手を組んで瞳をウルウルさせて頼み込むのでだった。
そしてエクアトーラからの要求も加わり、再度交渉へと進むのかと思われたが、先の話を聞いたハゲと禿げと騎士が自分らもと図々(ずうずう)しく要望を唱え始め、その結果を纏めると次の通りとなった。
一番、最凶王妃エクアトーラ。
傷んだ髪質の改善、肌の美白やシミや雀卵斑とシワの除去のアンチエイジング処置。
二番、ハゲ王エヴィエオードス。
腰痛、イボ痔、髪の毛の再生、胃腸痛改善、シミや雀卵斑とシワの除去のアンチエイジング処置。
三番、ハゲ宰相ナヴェート。
ハゲ王と同じ要望の為、省略。
四番、王直属騎士ヴォーエフ。
五十肩や腰痛を含む全身の関節痛解消、イボ痔、ワキガ解消、シミや雀卵斑とシワの除去のアンチエイジング処置。
こうして臆面も無く四人は自らの悩みや身体の不調箇所の改善を願い出る。
人の欲望との業を改めて目にしたフロレアールは予想を超えての要求に目が点となるのであった。
こうしてフロレアールに対する要望が出揃った事から対する対価に関しての交渉が始まり、結果として合意に至た内容は次の通りとなった。
一つ、国王エヴィエオードスが後ろ盾となること。
これは教会などとの軋轢が生じた際には、後ろ盾たる役目を果たすことが含まれている。
二つ、王妃エクアトーラとの正式な義姉妹の契りを交わし、国として報じること。
これにより私的な立場で実姉テルミドールより立場は上となった。
三つ、国王エヴィエオードスと王妃エクアトーラ専属の医療美容療術士として新たな特別職に任命すること。
なお、医療美容療術は一年に一年から一度程度、長くても二年に一度は行うものとされた。
四つ、王妃エクアトーラの専属騎士に任命し、これを国として報じること。
その実は近衛に属すこと無く、自由騎士としての特命を下した体で、王国内及び国外をフロレアール自身の裁量で自由に巡り歩く事が許されるものであった。
尤これは交渉が纏まる最大の要因となる五つ目の契ごとを履行する為だの形骸的なものでしか無かった。
その実として、法衣貴族とする案も出たが国外への移動や法衣とは云え貴族としての長期不在は好ましくないとの理由から王妃付きの専属騎士との立場に落ち着いたのである。
因みに王妃直属騎士との立場に加え医療美容療術士を兼任している為、実姉テルミドールより公的地位でも上となった。
五つ、自由騎士の特命の一つとして、死滅戦免状を交付し、国として報じること。
これは特命として王国内の治安安定を目的としたものとされた。
その実は王国内に巣食う犯罪者や野党、所謂盗賊や山賊といった者たちの発見時における戦闘許可、そして殲滅兼殺害の許可証であった。
こうして各々の宿願が成就さろウィンウィンと関係が築かれたのである。
王妃は透き通る様な細かなシミ一つ無い、瑞々しくシワ一つ無い張りのあるはだと潤い溢れる美しい髪を手にしていた。
その躰は自身が最も美しく充実していた二十歳ほどを彷彿とさせ、その実、重力に抗う事が困難となっていた大きな胸が重力に毅然と抗う事が叶った程であった。
そして国王エヴィエオードスと宰相ナヴェートは宿願叶いヅラと禿げを脱する。
そして目立ったシワなどが消えた彼らは三十代前半に見え、男性が最も充実し魅力溢れる姿に生まれ変わっていた。
そして国王直属にして国王最強騎士ヴォーエフはガタが出始めていた身体が万全の状態へと回帰した事でその地位と強さが磐石なものと成る。
加えて長年の悩みであったワキガが解消した事で遅くなったが春を迎える事までが叶ったのだった。
そして念願たる盗賊狩の許可を得たフロレアール。
後に報じられる自由騎士と誕生と死滅戦免状の二つは王国内の犯罪者や非合法地下ギルドたる盗賊ギルドや暗殺者ギルドにも大きな衝撃が走り自由騎士に対して莫大な懸賞金を掛けて反抗したのだった。
それから暫くすると王国内に天然記念物の様に細々と隠れ潜んでいた盗賊団や山賊団が消え失せる。
そして非合法地下ギルドの関係者の中に自由騎士に関する噂が流れ始めるのだった。
アレは昼夜を問わず突如として音も無く現れる。
小さく白き躰とそれに不釣合い真紅な巨大な目玉を有する死神だと。
死神は白と紅の二色の軌跡だけを残し、気付いた瞬間には容赦無くその場にいる者を皆殺し、運良く生き残った者もその生き残った事を後悔する様な拷問が待っているのだと。
こうして自由騎士には非合法地下ギルド関係者から“白き死神”と“戦慄の白”との通名で称され畏怖の象徴とされるのであった。




