81 展望
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カルチナにもたれ掛かるトロ顔のキャローナを眺めなつつ、フロレアールは以前にも似た流れ見せられた様なデジャブ感に耐えながらがらカルチナに言い放つ。
「ちょっと、カルチナどうすんのよコレ?今日はもう使い物にならないわよ?」
その指摘にキャローナの反応とサディスティクな自分にやや酔いしれてたカルチナはビクリと肩を震わせた後に恐る恐るフロレアールへと顔を向ける。
「あ、あのぅ、コレはワザとじゃなくて。落ち込んだキャロちゃんを何とかしないとって、それで必死というか、気にしてない事伝えようとして、それで言葉じゃなくて態度でと思ったんですけど…」
カルチナの必死さが伝わてきた事からフロレアールは未必の故意として余り責めずに注意で済ませることにする。
「アンタは前にも似たような事してるのだから、少しは後の事も考えなさいよね。それに状況も考えないとダメなんだからね」
「そのぉ、ゴメンなさい…」
しょんぼり顔で謝るカルチナにフロレアールはやや呆れ気味な顔で指示を伝える。
「はいはい、ご馳走様。それじゃぁ、今日はもういいから、キャローナ連れて宿に行きなさい。アンタたち二人は今から明後日の朝まで自由行動とします。明後日の朝に冒険者ギルドに顔を出しなさい。それとその間は宿屋とかの報告も不要です。分かりましたか?」
フロレアールからの言葉にカルチナは顔をほころばせ応える。
「黒百合様、ありがとうございます。その、恐縮ですけどキャロちゃ…キャローナと一緒に指示に従って自由行動に移ります」
そう言ってカルチナは軽々とキャローナをお姫様抱っこすると部屋から去ろうとする。
フロレアールは部屋のドアから廊下に出ようとするカルチナその背に向けて注意を促す。
「くれぐれも街中では変な事はしない事。それと愉しむなとは言わないけど騒ぎ過ぎて周りに迷惑は掛けない様に。いいわね?」
その言葉に軽い動揺を見せながらカルチは振り向いて応える。
「と、当然分かってますよぉ。き、金百合様じゃ無いので…大丈夫です…。ちゃんと宿屋まで我慢できます!それでは失礼します!」
そう言い残してカルチナはキャローナを抱えたまま軽い足取りで宿屋を目指し夜の街へと消えたのだった。
フロレアールは、鼻血の原因も消えた事からバースニップへの完全再生魔術の行使を止める。
そして鼻血が止まった事を確かめた後に浄化を施し、鼻血の痕跡を完全に消し去る。
「色々と失礼しました。鼻血も大丈夫な様ですし、血で汚れた衣服も含めて身綺麗にし終えました。時間も経ったことです、そろそろ施設に向かってカテジナの成果を確かめに行きませんか?」
「あぁ、そうだな…。それにしても君は規格外だと前情報で知ってはいたがその能力は想定を遥かに超えている様だ。そして君の仲間も十二分に規格外だと痛感したよ」
バースニップからのその言葉にフロレアールに緊張が走る。
バースニップには傾国の美貌は効果が望めない為、口止めも叶わない。
フロレアールは言葉を返さず、続くバースニップの言葉によって対応を考えることにする。
「飛翔魔術もそうだったが、さっきの洗浄とも違う鼻血などを綺麗に消し去った魔術など聞いたこも無いものだった。それに鼻血を止めるのに施してくれた治癒魔術はなんなんだ?」
バースニップからの問にフロレアールは言葉を選んで応える。
「それなりに出血してたので上位の治癒魔術をかけました。それとカルチナや私が身綺麗になるために使用したのは浄化と銘打った魔術で飛翔を含めてオリジナルです。申し訳ないですが、これ以上の魔術やスキルに関する詮索は控え頂きたいのですが…。それと先に断わっておきますが、以降の質問は内容によっては黙秘させてもらいます」
回答に伴ってフロレアールの雰囲気が明らかに固くなる。
自身の問い掛けがタブー視されているスキルなどの詮索だった事を指摘されバースニップは己の過ちに気付く。
しかも、自身は真偽判定スキルを保有しており、相手は誤魔化す事もままならない事も失念していた。
その事に気付いたバースニップは神妙な顔付きとなり口を開く。
「フロレアール殿、済まない。詮索するつもりは無かった、と言っても信じては貰えないかもしれない。クーヴァ以外に気兼ねなく話しができる相手なんて滅多に居なかったので勘違いしちまった。ついアイツとの会話と同じ感覚で尋ねちまった。本当に申し訳ない」
バースニップの謝罪の言葉にクーヴァもフォローを入れる。
「フロレアール様、大変失礼致しました。今後に詮索やそれに類すと判断された事柄についてはお答え頂かなくて構いませんせので…。主様もそれで構いませんね?そして自身の保有スキルを鑑みて留意してください」
「済まない、以後は十分気をつける。だが、一つだけフロレアール殿の許しを頂きたい事がある。貴殿のその予想を軽く凌駕する力について国王陛下へと具申することを許して欲しい。陛下へと差し出す手紙は望まれるなら中身を確認して貰っても構わない」
バースニップからの申し出にフロレアールは問い返す。
「それに記される内容にとしか答えようがないわね。漠然とし過ぎていて判断出来ないわ」
「それは分かっている。俺が貴殿と直接会ったのは招聘の説得に加えて、その人柄、そして能力の一旦でも構わないから垣間見た結果を陛下と宰相の旦那へと報告する事を考えていたからだ。報告には先程聞いた飛翔や浄化については記さない。記すのは“想定を圧倒する程の実力を有している事”、“決して無下にせず過度なストレスは与えぬ事”、“下手すると王国が滅ぶので絶対に怒らせぬこと”、そして最後に“上位の治癒魔術”と考えている。だが、治癒魔術に関しては詳細を記すことを許してもらいたい…」
そう言うとバースニップは曇りなき眼でフロレアールを真っ直ぐに見すえて力説する。
「何故なら長時間のデスクワークにおける難敵たる慢性的腰痛、更には多くの文官が悩まされている死乃点たるイボ痔までが治っているんだ!この事は同じ悩みに苦しむ陛下や宰相の旦那には是が非にでも伝えたい。出来れば治癒もお願いしたい。許して貰えるだろうか!?」
イボ痔、それは長時間の執務により発症する事が多い労務の証であり、決して嘲笑うことなかれ。
この世界の椅子は決して座り心地が良いとは言えず、人間工学に基づく設計やウレタン製の座面など、その様な人に優しい造りでは無いのである。
無骨椅子でも煌びやかな豪勢な椅子でも基本的には木材や石、或いは金属といった硬質な材質で造られており、座面には良くて綿が詰められた気持ち程度の薄いクッション的な物が備え付けられている程度であり、それが無いものも決して珍しくは無かった。
そして貴族社会においては体面が重んじられる事から、自室以外でのドーナッツ状のクッション、所謂、痔主様専用クッションを使う事は阻まれ禁忌とされており、痔主様たちは己のプライドを掛けて硬い椅子と日々死闘を繰り広げているのである。
そしてデスポイントと称されるイボ痔が致命的な理由は、この世界での一般的な外科的治療方法にも由来する。
それは自らの尻穴を押っ広げ他人に御開帳する羞恥、そして麻酔無しでイボ痔をハサミかナイフで切除する痛みとその恐怖から外科的治療を受けるものは少なかった。
それに加えて例え外科的治療を終えたとしたとしても僅かな期間で大半の者がイボ痔の再来により、より深い絶望へと突き落とされる事となる為、結果として殆どの者はデスポイントとの共生を余儀なくされるのであった。
奇しくもこの世界は治癒魔術により、ある程度の負傷を容易に癒せるが故に外科的治療技術や医療道具は未熟・未発達であり、麻酔に至っては使用方法が確立していなかったのである。
閑話休題
バースニップからの魂が込められた願いにフロレアールは“国を動かしているトップ層がイボ痔に悩まされ続けているこの王国はもうダメかもしれない”との想いに駆られるが耐えて応える。
「分かったわ。その内容なら許可するけど封をする前に手紙は確かめさせてもらうわよ。それにしてもイボ痔如きがそんなに大変だとは予想もしてなかったわ」
フロレアールのその何気ない一言にデスポイントと共生を余儀なくされ苦しめられてきたバースニップはこれ迄に無い迫力が込められた言葉を言い放つ。
「イボ痔如き…だと!?英雄譚では“持つ者に持たざる者の思いは分からず、持たざる者は持つ者を妬む”と述べられている。だが、その逆もまた然りだ!デスポイントを持たない者にはこの苦しみは理解できない!」
そう言い切るとバースニップは深呼吸をして少し落ち着き、遠い目をして語り始める。
「これは俺がイボ痔を患ったばかりでイボが未だに小さく痛みも軽かった頃の話だ。宰相の旦那に俺はイボ痔を患ったことを伝えるとこう言われた。かつて“イボ痔なんて飾りです。偉い人にはわからんのですよ”と軽んじた若い文官がいたそうで、結果として刃傷沙汰に至った事すらあるのだと。そして政敵の腰掛ける椅子の座面にはケツ穴を狙って小石等が仕掛けられる事も珍しくはないそうだ。だからこそ、フロレアール殿とはいえども言葉には気を付けて頂きたいのだ」
「そ、そうなのね。こ、今後は気をつけるわ…」
バースニップからの忠告にフロレアールは文官に対してはイボ痔を揶揄うのは辞めておこうと違うのだった。
一先ずの決着を見せた事からクーヴァが口を挟む。
「それでは話も纏まったようですので、そろそろカテジナ嬢が情報収集に勤しんでいるであろう件の施設へと参りませんか?移動方法は徒歩で宜しいでしょうか?」
クーヴァからの一言を受けてフロレアールは応える。
「そうね、今は徒歩で向かいましょう。急を要する事が起きた時は飛翔するのも吝かでないから覚悟だけは忘れないで欲しいかしら」
「あぁ、了解だ。では向かうとしよう」
こうしてフロレアールとバースニップ、クーヴァの三人も部屋を後にしカテジナが先行している施設へと向かうのであった。
一方のカテジナはフロレアールからの執行猶予を受けた後に全力で施設へと飛翔したことで速やかに目的地へと到着していた。
今の彼女には少し前までの焦りは消えており、今では別の事を企てていた。
何故ならばカテジナが施設に到着するなり施設入口で警備として立っていた者たちから歓待され施設中へと通されていた。
その後も信じられない程順調にフロレアールから言い付けられていた教会関係者からの証言を得る事にも成功していた。
正確には得たと言うよりは証人が山ほど施設内に待機していたのである。
それは、先に施設へと駆けつけたサラシーン女史を初めとして、遊撃隊により身柄を拘束されたシスターや牧師の全員が説得の為に施設へと連行され、処置を既に終えていた為である。
目的を達し余裕を取り戻したカテジナは新たな同志となった彼らに性別に左右されない真の恋愛について説きながら分割思考を生かして逡巡する。
フロレアールと自身の二体一対の裸像についてである。
(収納した事で直接的にはフロレアール様ですら手は出せない状態とはなりましたけど一抹の不安は拭いされませんわ。だって。フロレアール様からの拷問を受けたら私は耐え切れる自信は皆無ですもの。それとは逆に甘く囁かれてお願いでもされたらその瞬間に収納から取り出してしまうと断言できますわ。だからこそ信をおける者へと託し後世にまで伝え残すのが妙案かもしれませんわ。フロレアール様の性格や対処方針からしても悲しいかな私以外の者に対しては強硬策をとる可能性は限りなく低いと考えられますわ!)
そう結論付けたカテジナは、説法の最中に二体一対の裸婦像を収納から取り出すのであった。
「ご覧なさい。コレが真の愛を象った一つの極地と言っても過言では無い白百合の情交像ですわ」
其れは御使い様ことフロレアールと祖カテジナが性別を超えて情交を結ぶ艶めかしくも美しく、それでいて尊さまでを感じさせる二体一対の白亜の裸像である。
それを目にした施設内の人々は雷に撃たれたかの様な衝撃が全身を駆け巡る。
人々が地に膝を着け感涙に咽ぶ中、祖カテジナが高らかに叫ぶ。
「この白百合の情交像は御使い様たるフロレアール様を讃え祀るこの施設にて管理し、後世に伝え残さなければなりませんわ。ですが、悲しいことに世の中は未だに真なる恋愛への理解は乏しく、この白百合の情交像を万人の前に晒すことは叶いませんわ。普段は今も坐している大翼の御使い様を讃え祀りなさい。この白亜の裸婦像は同志が集う然るべき祭事日を定め、その日に限り開帳し同志たちが拝謁できるようにするのですわ。但し、これは裸婦像ですから成人の儀を終えた同志に限ること。宜しいですわね?」
異を唱える者が現れなかった事からカテジナは言葉を続ける。
「その場に施設の運営や管理に携わっている者はいませんの?」
その問いに一人の百合女性が名乗りをあげる。
「祖カテジナ、私はプリシーナと申します。施設運営で事務職のまとめ役を務めております。他には入口にいる警備を務めている者のみとなります」
「では、プリシーナ、貴女に命じますわ。白百合の情交像を一旦収納なさい。そして他の上役たちと協議し然るべき管理や保管方法、祭事日等について同志の意見も取り入れて構築するのです。問題が生じたのなら都度改善すれば良いのですわ。宜しくて?」
「はい、承りました。祖カテジナの期待に応えられるよう同志一丸となって伝えて参ります」
ルリシーナはそう応えるとを白百合の情交像を収納したのだった。
「貴女も知っての通り私は従僕として御使い様と共に旅へと赴かねばなりません。この施設と白百合の情交像の事は貴女方、同志一同に託しましたわよ」
そう言ってカテジナは白百合の情交像を後世に残すことを同志たちへと託したのだった。
そして自身の主目的を成し遂げたカテジナは間も無く御使い様たるフロレアールがこの施設に来訪する事を告げ、フロレアールを向かい入れる準備をする様に命を下したたのであった。
後にチェーネ生(性)誕祭と称されるスタンピード襲来に見舞われた三日間の日付に合わせてチェーネには祭事日が定められる。
白百合の情交像は、年に一度、スタンピードの折に御使い様が天より降臨したとされる生(性)誕祭の最終日に同志たちへと開帳され事となるのだった。
その姿を一目拝む為だけに王国内に限らず他国からも巡礼として多くの同志が生(性)誕祭に合わせてチェーネを訪れる様になるのはまだ先の話である。




