76 三者三様
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「これはいいものだ…ですわぁぁぁ!!」
「「…なん…だと!?」」
予想だにしていなかった一対の裸婦像を突如として目の当たりにした者たちの反応、其れはカテジナを除く四名から同じ言葉が漏れ出すのだった。
だが、奇しくも魔術障壁の副作用によりフロレアールとカテジナには他者の声は聴こえておらず、キャローナ、バースニップ、クーヴァの三人は互いの声だけが聴こえていたのである。
フロレアールは如何なる事態にも備え、自身の認識加速を最大にして注視していた。
彼女がスローモーションの様にユックリと周囲が粉塵による空気の濁りが薄れ行く様の中、部屋の中心部だけは未だ濃く濁っていた。
そこには確かに探知による生き物の反応は無かったのだが、その位置には何かしらのモノが存在しており、その輪郭は薄らとだが見え隠れし始めていた。
其れは意図したものなのかは計り知れないが、白い粉塵と同系色の様であるが為、細部はカモフラージュされ隠されてしまい、其れが何なのかを知る事は粉塵が消え失せるまでは叶いそうもなかった。
今、フロレアールが覚えている確かな最寄りの記憶。
其れは、白い物体による直撃を受けて吹き飛ばされたという事実であり、粉塵の中に薄らと見え始めているモノが異なるとは断言出来なかった。
先と同じくとして突如として自身へと向放たれる事も想定しながらフロレアールは粉塵が完全に消えのを待ち構えていた。
そうして現れたモノが自身とカテジナの二体一対の裸像であった事により再度の混乱に見舞われる。
(えっ!?裸婦像!?それも私とカテジナって…コレは一体何が起きてどうなっているの!?ひょっとして皆で私を揶揄てるとでもいうの?あぁ、もう、全く訳が判らないわ…。強いて言えるのは危険は無さそうって事。それならアレは後回にして皆の状態を確認するのよ…)
そう決めると裸婦像から視線を外し、真っ先に目に付いたカテジナから状態を確かめる。
(先ずはカテジナ…。この変態の顔が明らかに紅潮して表情からも興奮してるのが見受けられるわ…。裸婦像の犯人は、この変態で確定ね。取り敢えず負傷は無いみたいだけど…後でこの変態は処分!!)
次いで自身の左手に未だ握られている中身入りであるロンググローブの本来の持ち主のキャローナ。
自身が左手に握っているモノの状況から、自身が彼女の腕を握り潰し、その上引きちぎった可能性が最も高いと考えていた。
(キャローナは…どうやら命に別状は無いみたい。でも、私に向けて盾を構えているし、その後ろに誰かを庇ってるように見受けられる…。体勢的に盾を左手で保持してる様だから、やはり右腕を負傷してるのは確定的ね…。そうなると私がやったとの結論に至るのだけど…どうしてこんな事に至ったのかは検討も付かないけど、先ずはキャローナの右腕を直ぐに治療する。そして彼女に謝らないと…。キャローナ許してくれるかしら…)
最後にキャローの少し後方の壁際床にうつ伏せに転がっているカルチナを拡大しつつ状態を確かめる。
(カルチナは…ただ一人倒れ伏して床に転がってるけど目立った負傷は無さそうね。上にしてる背側には白い粉が薄らと降り積もって全身粉まみれって…下腹部付近が床を含めて濡れて…チビって気絶したね…。きっと失禁も私が原因なのかしらね…)
フロレアールは気を重くしながら事態を推察し、念の為に自身に浄化を施すのであった。
カテジナは自らが創り出した裸婦像に視線が釘付けになっていた。
突如として”キュルルリィン!!”とのまるでフレクサトーンで奏でられた様な効果音が幻聴としてカテジナの脳内に響く。
それに併せてフロレアールからの視線を感じたその瞬間に猛烈な殺気を感じ取り冷や汗が全身から吹き出す。
(っ!?この殺気はヤヴァイですわ!!目合う私たちの裸像に見惚れてフロレアール様の事を失念しましたわ。この殺気は本気なやつですわ…。私の生命価値が暴落ストップ安ってピンチでチャンスが無いやつですわ…)
自身の運命を悟ったカテジナはある決意をする。
自身の命を賭して白き一対の裸婦像だけは守り抜く事を。
その為にはフロレアールですら干渉が不可能である収納により裸像の安全を確保する事であった。
キャローナは裸婦像を見た直後に思考が停止しかけたのだが即座に立て直していた。
(あの変態、このタイミングで何考えてんの!?ダメだ、裸像を見たらフロレ様が例え正気に戻っていたとしても確実にブチギレる…。こうなったら贄が嫐られてる間に逃げ去るしか助かる道はない…)
キャローナはカルチナの方を振り向き逡巡する。
(狂乱状態の相手なら下手に動かずに壁際で動かずにしている方が安全かもしれない…。カルチナ、ゴメンね。お願い、無事でいて…)
覚悟を決めたキャローナは、バースニップとクーヴァに顔を向け直すと早口で叫ぶ。
「ダメです。変態がやらかしました。贄の顔面トマト祭りが終了する迄の僅かな間に可能な限り距離を稼ぎます!!お早く、間に合わなくなっても知りませんよっ!!」
キャローナは、叫び終わるや否や盾を収納し、魔術障壁を解除する。
「り、了解した、頼む」
バースニップが端的に応え、クーヴァは頷く事で応じる。
二人の同意を確認したキャローナは残された僅かな時間で最適な逃走経路を構築する。
(外へと飛び出すのは、此方に注意が向かない様、フロレ様が贄へと向かい始める…その瞬間。フロレ様から最も距離があり、此方からは逆に最も近い窓が吹き飛ばされた壁の開口部から飛び去る。でも、広範囲探知があるフロレ様からは水平方向に直線的に逃げるのは愚策。街の住人には悪いけと探知撹乱として人がなるべく多くいる場所の上を低空で駆け抜けさせてもらう。その後は魔術障壁を展開、一気に限界高度まで上昇する。冷静じゃない状態の人間ならば上空への逃亡は一番想定し難い筈よ)
逃走経路を決定したキャローナは、自身に加え、バースニップとクーヴァの両名へと飛翔魔術を行使し、床から僅かに浮き上がりその時に備えるのであった。
キャローナが大盾を収納する様を見たフロレアール。
その治療を終えていない痛々しい右腕を見たことで、自責の念から胸の奥が締め付けられる様な痛みを覚える。
(変態は…後回しで構わないわ…一瞬で終えては躾にならないもの。後でたっぷりと時間を掛けて嬲ればいいわ。先ず優先すべきは負傷の治療。キャローナは構えてた盾を収納したって事は、私と戦闘なる恐れは無いと判断したって事なのかな…。それとは別にキャローナの傍に居る二人の男性…やっぱり彼らにも見覚えがないわ…。私の記憶は一体どうなってしまったのという…)
明らかな記憶の欠落に思い悩むフロレアールではあったが、キャローナの治療を優先すると決断し立ち上がるのだった。
こうして三者三様の方針が固まり、逸早く行動に移したのはカテジナであった。
フロレアールが立ち上がる様を目にした彼女は残された猶予は幾ばくも無いと判断する。
フロレアールによる魔(術)改造により人間として限界値に至っている筋力と敏捷のステータス値を最大限に発揮して全力で床を蹴りだす。
更には飛翔魔術よる加速を施し、カテジナは裸婦像へと奔る。
初動の瞬間、彼女の姿は文字通り掻き消えていた。
其の動きを捉えることが叶ったのはフロレアールだけである。
認識加速状態のキャローナですら一瞬だがカテジナの姿を見失っでおり、其れは縮地スキルの擬似的な再現とも言い表せる程の動きであった。
自身とフロレアールが目合二体一対の裸像へと懸命に手を伸ばし、フロレアールからの厳命も忘却の彼方へと置き去りにし、非接触での収納によりカテジナは目的を達する。
(キャッチ・マイ・ハート!!ベリー裸像をゲットだぜ!!ですわぁぁぁ!!)
心の中で勝利の雄叫びを上げるカテジナ。
そんな彼女が思い描いていた後の展開、其れは、どうせ即座に捕まる→罵声を浴びる→躾と称した拷問を受ける→責め苦に耐え兼ねて失神するとのコースであった。
だが、今回だけは違っており、まさかの放置プレーだったのである。
自身で停止する事をこれっぽちも想定していなかったカテジナは、さながらウル〇ラマンが飛翔する様な姿勢で擬似縮地による移動の終着点として壁へと突っ込むのであった。
壁へと深く文字通りに突き刺ささり、上半身が壁をぶち抜いた所で彼女は止まっていた。
その折に頭部を強打したカテジナは脳震盪に見舞われ、彼女は意識を失ったのたった。
カテジナが擬似縮地を発現させたのを眺め、其れを無視してフロレアールはキャローナの方へと一歩を踏み出す。
一方のキャローナもフロレアールが動き始めた事を機に飛翔による室内からの即時脱出へと移行する。
一瞬見失ったが幸いにも愚かな贄は、白い悪魔へと自ら飛び込んでくれていた。
この好機にキャローナは元々は窓があった壁の開口部へ向け勢いよく飛び立つのだった。
贄が悪魔へと最接近し、そのまま横を素通りする様にキャローナは激しく動揺する。
白い悪魔の視線は完全に自身を捉えていた。
その瞬間に死を意識したキャローナの思考と認識速度が限界を超えて加速する。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。狙いは端から私だった。何が原因?血の匂いに誘われた?それと生贄の頭数?この状況で変態を無視するなんて絶対に正気じゃない。ダメ、怖くてチビりそう)
右手首を握り潰された時き聴こえた音、その感覚、そして痛みが望みもしないのに悪魔に対する警告として鮮明に蘇る。
その恐怖と幻肢痛により視界は滲み、カラダはガタガタと震えだす。
だが、キャローナが室外へ向けての飛翔を止めることは無かった。
それだけが彼女が生き残れ唯一のる術だと理解していたからである。
眼前に迫る開口部にほんの僅かな希望を見出した…その瞬間に絶望の底へとキャローナは突き落とされた。
気付けば悪魔が真横に佇んでいた。
そしてより強い魔術により飛翔は止められ、キャローナ、バースニップ、クーヴァの三人は空中に静止させられており、もはや逃げ遂せる事は叶わなくなっていた。
(カルチナ、ごめんなさい…。私、先に逝くわ。できれば来世でも貴女にまた巡り会いたいな…)
悪魔の右腕が自身へと真っ直ぐに伸びてくる。
キャローナの瞳から涙が止めどなく溢れ、歯はガチガチと音を奏で、全身が先より一層激しく震えだしていた。
キャローナは極限までに加速された意識の中で泣き叫ぶ。
(イヤッ、イヤッ、イヤイヤァァァ!!オネガイ、ユルシテ。オトウサン、オカアサン、カテジナ、カルチナ…。ダレカ…タスケテヨ…)
魂の叫びによる必死の願いも虚しく、悪魔の右手が自身の右肩に触れた瞬間、キャローナの意識も失われるに至ったのだった。
その彼女の顔は涙で激しく濡れており、お股もまた同様であった。
こうしてこの場に残されたのは、記憶の欠落を抱えキャローナの失神に困惑するフロレアール、ほんのりと頬を染めているバースニップ、全てを諦め悟りの境地に至ったクーヴァ。
その三名は各々(それぞれ)が異なる様相を呈していたのであった。




