72 封書①
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SAN値が完全に回復しきってないバースニップは矢継ぎ早に放たれたフロレアールの言葉に即座に応じることが出来ずに狼狽えてしまう。
その様を見ていたクーヴァが空かさずフォローを入れる。
「それではご要望としては領主館に関しては明日の午前中に完成との事で午後から設計者などと竣工確認を行わせて頂きます。該当作業は二、三日で終えると考えて頂ければ。万が一の連絡に関しては冒険者ギルドに言付ければ宜しいでしょうか?」
「領主館に関してはそれで構わないわ。それでは本題についてお話を聞かせてもらえるかしら?」
「承知しました。それでは主様、フロレアール様に本日お越し頂いた本来の目的の説明をお願いします。それと皆様は街に到着したばかりなので夜の会食などは無用との事です。説明も本題をお伝えするのが好ましいと思われます」
クーヴァのフォローに問題が無く自身の要望も伝わっていた事から、余計な言葉を発したくないフロレアールは頷く事でその言葉に誤りがないことを示す。
クーヴァのフォローにてフロレアールの要望を理解したことで大分平静を取り戻すことが出来たバースニップは机の引き出しから封書を二通取りすとフロレアールの前に戻ってくる。
「それでは本題の説明に入らせてもらうのだが立ったままというのもなんなので席に着いて貰えると助かる。長話にする気は無い。それとカテジナ殿達も腰をかけてくれ」
バースニップからの言葉にカテジナ、カルチナ、キャローナは即座には反応せずにフロレアールの応答を待っている。
「そうですか。それでお言葉に甘えては失礼しますね。カテジナさん達も遠慮なさらず腰を掛けなさい」
そう言うとフロレアールはバースニップが案内をするソファーへと腰をかける。
フロレアールの隣りにカテジナ、左手側にカルチナとキャローナとの席順となり、バースニップはフロレアールの正面に腰をかける。
クーヴァが給仕し、お茶とお茶請けの用意を終えるとバースニップの後ろへと移動する。
「それでは今日来て貰った本題だが用件は一つ。この街の本来の領主である現国王のエヴィエオードス陛下が貴女を(あなた)を招聘しておられる。これは領主としての立場でとの事なので国賓と言う訳では無いそうだ。一応、断ることも可能だが無下にしない事をお勧めする。そしてこちらが招聘状となるから受け取っとくれ」
そう言ってバースニップはフロレアールへと蝋封された封書を差し出す。
フロレアールは差し出された封筒を眺めながら良い笑顔でとんでもない言葉を口にする。
「これって受け取りを断ったり、読まずに物理的に消し去るって選択肢は無しですかね?」
バースニップは「あぁぁ…」と絶望の声を吐露しながら両手でながら両手で顔を覆ってしまう。
他の四名は目を点にした後に封書からフロレアールへと錆び付いたロボットがギギギギと音を立てて首を回す様に視線をユックリと移す。
その四名の目にに映ったのは発言の内容と乖離している爽やかな笑顔で「アレ何か不味いこと言ったかしら?てへぺろりん☆」との雰囲気をか醸し出しているフロレアールの姿だった。
少しの間を置いてから左手を痛む額に当てながらバースニップが口を開く。
「流石にそれは勘弁してくれ。その行為を直に目にしてしまっては冗談では済ませられなくなる。この場では受け取り内容を確かめてくれ。返答は後日でも構わない」
フロレアールは笑顔のままチッと小さく舌打ちした後にクーヴァへと視線を移す。
視線に気付いたクーヴァは補足するように説明を始める。
「口を挟む無礼をお許し下さい。フロレアール様、先程の行為をなされますと我が主様共々、処罰される恐れが生じます。今、この場は何卒お受け取り頂下さい。ここからは私的な戯言になります。後ほど人目が無い状況でしたら個人の責にて、ご自由になさって頂いて構いませんので…出来れば避けていただけると幸いですが…」
従属状態のクーヴァそうが言うのだから受け取らない&物理的に消滅させて無かった事にするのは選択肢としては諦めることにする。
「そうですか…。それでは諦めて中身を拝見しますね」
そう言ってフロレアールは封書を手に取ると蝋封に指を当てて火魔術の応用で綺麗に蝋の接着面だけを溶かして開封してしまう。
それを目の当たりにしたフロレアール以外の面々は絶句して記憶から消去して見なかった事にしたい衝動に駆られる。
だがバースニップとクーヴァの両名は辛うじて踏みとどまりフロレアールに注意を促す。
「フ、フロレアール殿、申し訳ないがその様に再び蝋封が可能な感じに綺麗に開封するのは非常にマズイ。今後は人前では控える事をお勧めする。それでは封書が意味をなさず中身の入れ替えや偽造が可能と知らしめているのも同然だ。それを知られると要らぬ謀略に巻き込まれる恐れというか間違い無く巻き込まれる」
バースニップに続いてクーヴァも伝える。
「そうですね。それに今回のは国王陛下の蝋封ですから特にマズイです。可能ならば再度蝋封を施して頂き、封筒の上側を切って開封するのが好ましいと言えます。招聘に応じた際には門番などに開封済みの封書ごと渡して確認を受ける流れになりますので…」
「ふぅーん…それは何かと面倒ね。分かったわ。助言に従って封蝋を元に戻してから封書自体を切って開封するわ」
フロレアールはそう言うと開いた封筒をそっと閉じる。
その後に先程と同じ様に剥がれた封蝋に指を当てる。
軽く封筒へと押し当てると何事も無かったのように蝋封された封書に戻っていたのだった。
それを見て少しほっとした表情を見せたクーヴァがペーパーナイフを台紙と共に差し出してくる。
しかしフロレアールはそれを手に取らず封書上側の辺を指で軽く撫でるとその部分が綺麗に切断されていたのだった。
「これで問題ないかしら?」
そう言ってフロレアールは開封された封書の中から手紙を取り出して黙読を始める。
その間にバースニップとクーヴァは先のフロレアールが見せた芸当について話し始める。
「今のもさっきのも魔術なんだよな…?。おい、クーヴァ、同じ芸当が可能な者は国内に居るか?」
「いえ、私めが知る限りでは…。もし居たとすれば封蝋自体も疑念が生じかねない為、我々も口外しな方が長生き出来そうです。それにしても魔術に長けているとは聞き及んでいましたがこれ程とは…」
「蝋封を溶かして剥がしたのも封書を、切ったのも魔術であってるわよ。隠すことでもないし弱い威力で局所的に発動させただけだから訓練次第でできるかもしれないけどね。ただし高威力の魔術を瞬間的に放つよりも制御は難しいと思うけどね」
そう言うと二人の会話を流し聞きがら手紙を読みを得たフロレアールが顔を上げて手紙を机の上に置く。
手紙には二度に渡る街の危機を救ったことと街の拡張への協力に対する感謝と称賛、加えて対面でにて改めて感謝を伝えたいとの旨が記されていた。
「バースニップ様は手紙の内容についてはご存知をなのですか?」
「陛下より概ねの内容は伺っている」
「そうですか。なら仲間たちに見せても問題は無いですかね?」
「あぁ、フロレアール殿が問題無いと考えるなら構わない筈だ」
バースニップからの返答を受けてカテジ達ナへと手紙を読むようにと受け渡す。
「それでは招聘に関して確認させてもらっても構いませんか?」
「それは構わないが返答についてはあくまでも一般論であって陛下の意向と一致している保証は無いことを了承頂けるならかな」
「それで構わないわ。早速だけど招聘は私個人に対しての様だけど仲間たちは同行できるのかしら?」
「王城までの同行には問題は無い筈だ。ただし、陛下との謁見の際にはついては悪いが保証しかねる」
「それではドレスコードはどうなるのかしら?悪いけどドレスとかは持ち合わせていないわ」
「国王としての立場では無く一領主としての謁見と伺っているから問題無い筈だ」
「そうですね。万が一にドレスが必要となる様な場合には招待した側が手配するので心配は無用かと思われます」
「となると招聘に応じたとしてもカテジナ達と別行動やこちらで用意するもの特に無いと考えて良いわけね。そうなると応じるか否かになるわね」
そう言ってカテジナ達へと視線を向けるフロレアール。
カテジナ達は手紙を読み終えておりフロレアールへと手紙を返してくる。
「皆はどう思う?旅の仲間として率直な意見を言ってくれて構わないわ」
三人は一旦顔を見合わせてからカテジナから順に口を開く。
「名誉な事なので応じるのも悪くはないかと思いますわ。でも、私、フロレアール様が王城に巣食っているゲスい貴族の輩お姿を見られることや知られる事の方がしんぱいですわ。…そうですわ、いざなれば汚物共は滅して他国への逃避行というのも憧れるシチュエーションですわ!」
「王城ですか…現実に行けるなんて信じられません!あぁ、万が一に可愛らしいお姫様に言い寄られたりしたら少し困っちゃうかも…でも安心して、私はキャロちゃん一筋だから」
「相手が男じゃなければ少しくらいは我慢するけど、出来たら事後報告は嫌かな。なんなら私も一緒でも構わないわよ。えっと、それで王城ですが…正直面倒くさいですね。バースニップさん程は融通も効かなそうなので行かなくても良いのではないですか?私も貴族に関しては心配ですね。御礼の言葉以外に何か得する事あるならって感じですかね」
三人の意見を聞いてジト目になりながらフロレアールは口を開く。
「はぁ〜、アンタらねぇ、心配してくれるのは有難いけど半分以上が変な方向の話なんですけど…そんな事を平然と口にする人達は連れて行けないわよ」
「酷いですわ。コレではコウメイの罠ですわ」
「そうです黒百合様、酷いです。率直な意見って仰るから言ったのに…」
「あ、私は行けなくても構いませんのでお気になさらず、ご自由になさって下さい。フロレ様お一人の方が何が起きても切り抜けられると思いますしね。キモイ貴族の男を見るのも見られるのも嫌なので無くなるのならホント助かります」
「…キャローナ、お前だけは首に縄付けてでも連れていくと先に告げておく。お前、色々と覚悟しておけよ」
「ちょっ、フロレ様、冗談…では無いのですね…カルチナ、ごめん、私穢れてくるわ…帰ってきたら何も言わずに慰めてね…」
そう言うとキャローナはホロリと涙をこぼし、カルチナが抱きしめる。
そのコントを黙って眺めていたクーヴァが口を開く。
「みなさま、意見交換中に申し訳ありませんがフロレアール様宛の封書はもう一通御座います」
クーヴァはバースニップへとアイコンタクトを送り、それを受けてもう一通の封書をフロレアールへと差し出される。
「コチラは灼滅の騎士殿からの封書になる。フロレアール殿の事を宜しくと言ってたが、お二人は旧知の中なのかな?」
「いや、そんな人知らないですよ。知らない人からの手紙とか気持ち悪いので処分していただけませんか?そもそも二つ名なんて後付けされる通り名ですからそれ以前に知り合ってたら分かりませんよね?」
「嘘ではないみたいだしその通りだな。おい、クーヴァ、灼滅の騎士殿の本名知ってるか?」
「容姿は見かけたことは数回有りますが本名は残念ながら存じません。彼女の話題が盛り上がっていた頃は丁度、主様と私め共々、宰相の犬として汚貴族や汚商人との対決の山場でしたからね」
「あぁ、あの頃か…だから本名覚えてなかったのかぁ。俺も何回か見掛けたこのあるくらいだからな…」
灼滅の騎士が女性であると分かったことから事からフロレアールの頭の中ではある人物が候補として浮かび上がる。
だがそれと同時に爆盛りされた幸運値の影響か件の封書を開ければ逃げられなくなるとの悪寒が走る。
今直ぐに開けずに滅しろとの強い焦燥感に駆られる。
改めて封書を見ると禍々しいドス黒いオーラが立ち昇っている様に錯覚する程である。
「あのぉ、本気で嫌な予感がするので受け取り拒否できませんかね?マジでその封書を開封することなく滅したい衝動に駆られてるんですけど…」
「いや、流石にそれは止めてくれ。容姿とか説明するから該当する人物を思い出してみてくれ」
「そうですね。それでも駄目なら冒険者ギルドで確認しましょう。それでも知らない方ならば封書は送り返すことにしませんか?」
「分かったわ。それで手を打ちましょう。灼滅の騎士の容姿とか説明して頂戴」
二人からの必死の説得に渋々ながら同意するフロレアール。
だがこの判断は誤りであり幸運値さんの警鐘に従わなかった己の判断にフロレアールは後悔することになるのだった。




