70 代理領主①
ご愛読ありがとうございます。
拙い文章ですが、面白いと思って頂けましたら“ブックマーク”や“いいね”、“感想”等にて応援頂けると幸いです。
これらの応援は執筆に際しての大変励みなりますので宜しくお願いします。
海鮮料理を堪能し終えたフロレアール達は請け負った依頼やパルミーナからのアドバイスに応えるべく代理領主と面会する為に役場を訪れていた。
受付娘に用件を伝えると彼女は顔を真っ赤にして初めは上の空でボーッとしていたが、ハッとして我に返返る「少々お待ち下さい」と言い残し慌てて奥へと駆け出してしまう。
受付前に取り残されたフロレアール達は仕方ないので、その場から動かずに様変わりした役場の様子を眺めていた。
新興の町で人口が激増した影響か多くの人々が役場に訪れており、探知反応には灰色が多く見受けられる。
暫くするとフロレアールを見知っていた人々が気付き始めたのか「御使い様」との囁きが周囲から漏れ始める。
すると人々の視線が自然とフロレアール達に集まる。
初めはフロレアールに目を奪われていた人々だったが付き従っているネコ耳メイド姿の三人に気付くと視線が其方に移る。
となれば当然フレンチメイド姿のカテジナに気付いた男性陣は情欲的なその姿に初心な者は顔を紅く染める。
他の者は鼻の下をだらしなく伸ばし熱視線を送り始めて愉しみ始める。
その厭らしい視線を送る男共に気付いた女性達は、彼らに向けて汚物を見る様に冷めた目線を放つのだが、情けない事に当の本人達はそれに気付かずにカテジナに熱い視線を送り続けていた。
その一方で小さな子供を連れていた母親は子供に「見ちゃいけません」と言ってカテジナの姿が見えない位置へと移動する。
そしてカップルや夫婦で連れ添って役場を訪れていた者たちは男性が連れの女性から抓られる程度は可愛いもので多くは怒られたり叩かれたりしている。
その一方で次第にカテジナは頬が紅潮し始めるのに併せて体をモジモジとし始めて呟く。
「あぁ、汚らわしい男達の視線を強く感じますわ。それに蔑みの視線まで入り交じって…なんたるご褒美。私たまりませんわ♡」
「金百合様、流石に日中の役場ですから変な気にならないで下さいね。見かけた事が無い移住者の人が殆どですから、一緒にいる黒百合様の品性が疑われてしまいます」
「カテジナ、露出狂趣味と逆視姦プレーを愉しみたいだけならカルチナ達と同じメイド服に変更を命じるわよ」
「そんな酷いですわ。愉しみが一切無いとは申しませんが、私はフロレアール様に汚物共からの邪な視線が注がれ続けない様に趣味と実益を兼ねて、このフレンチスタイルのメイド服を身に纏っているですわ」
「あぁ、確かにカテジナ様が言う通り効果は抜群ですね。初めはフロレアール様の容姿、次いでたわわなお胸、その後はカテジナ様に視線が集中してます。ほんと汚らわし。汚物共は死ねばいいのに。ここが役場内で無ければ、ぺっと唾を吐き捨ててるところですね」
「キャロちゃん言い過ぎだよ。それに態々(わざわざ)威嚇するのに周りに聞こえるように声を大きくしないでよ。それと唾吐くのは下品だから塩撒くとか言い方にも気を付けようよ」
「はぁ、わかったわよ。変態趣味は聞かなかった事にして私の為で効果も出てるなら今はそのままで良しとしましょう。だけど時と場所によっては変えてもらうわよ。カルチナ達と同じデザインの服も渡してるんだからちゃんと使い分けをしなさいよね」
「承知しましたわ。それにしてもこうまで視線が外れないのは予想外でしたわ。っん、流石に辛抱堪りませんわ♡」
そんなこんなで役場内が少し騒がしくなった所で先の受付嬢が急ぎ足で戻ってくる。
「大変お待たせ致しました。代理領主のバースニップ様の所へは別の者がご案内致します…。それにしても何だか妙に騒がしいですね。申し訳ありません。普段はもう少し静かなんですけど…」
「気にしなくて構わないわ。元々のチェーネの人達が私に気付いた所為もあるみたいだから」
「なるほど、それなら仕方がないですね。お綺麗な御使い様をこんなに間近で拝見出来て、その上お話まで出来て私も夢見心地です」
と頬を赤らめている受付嬢と会話をしていると後ろから一人の青年が近付いてくる。
「お待たせしました。私めはバースニップ様にお仕えしておりますクーヴァと申します。フロレアール様ですね。主の元へとご案内しますので此方へお願いします。」
「…、分かったわ。受付嬢さんもありがとうね。それではお願いします。皆んな行きましょう」
クーヴァの後に続き代理領主の元へと向かうフロレアール。
さしたる移動時間は要しないことは分かっているフロレアールは目の前のクーヴァが探知反応から従属状態
であることから代理領主の情報を得ようと問いかける。
「クーヴァさん、代理領主様の事を少し伺いたいのですが宜しいでしょうか?」
「はい、私めに答えられる事柄でしたら構いませんよ」
そう答えると歩みを止めてフロレアールへと振り返るクーヴァ。
「ご存知かもしれませんが私は山奥の小さな村出身で貴族様といった身分の高い方々とお会いする機会などは無く、恥ずかしながら礼儀作法も心得ておりません。ですので少し緊張しておりますので代理領主のバースニップ様とはどの様な御方なのか教えていただけませんか?」
「我が主様は寛大な御方ですので緊どうか気を楽にして下さいませ。年齢は私や皆様より少し上の23歳の独身。爵位は男爵を賜るのと併せて、この度の代理領主の任を拝命致しました」
「随分とお若いのに凄い方なのですね。それにしても爵位を賜ったという事は元々は騎士様か貴族の家柄の方なのですか?」
少し驚いた顔を浮かべてクーヴァは応える。
「成程、本当に何も知っておられないのですね。バースニップ様の出自は平民ですよ。この事は王都の特に平民層では有名なんですよ。因みに私めも同じです。それなので余程の無礼が無ければ礼儀作法はそこまで気にしなくて構わないと思います」
「それは助かります。それにしても驚きました。平民で騎士以外の爵位を得るなんて本当に優秀な方なんですね」
クーヴァは己が主を称賛されたのにも関わらず少し寂しそうな表情を浮かべて言葉を続ける。
「そうですね。主様は優秀で有用なスキルも保有されております。その事で国王陛下の覚えも良く今回の拝爵に至りました。王都で有名な理由は平民出身だけでは無いのです。元々は宰相様直属の審問官を務められておられました。平民のガス抜きを兼ねて腐敗した貴族や豪商など平民出身の審問官が不正を暴き罰する。その切っ掛けを暴き出すといった逸話を複数成し遂げた意味でも有名人だったんですよ。その知名度は灼滅の騎士と同程度で、こちらの方も平民出身で数年前に近衛に抜擢されて今では第二近衛の隊長を務めいている人気の方ですね。こちらもご存知ないですか?」
「灼滅の騎士も耳にした事は無いですね。恥ずかしながら生まれ育った村を少し前に旅立ち、その後にこの街を訪れただけで他の街などは知らないもので」
フロレアールの返答にクーヴァは少し腑に落ちない様子を窺わせる。
「そうですか…ご存知ないのですか…」
その様子に違和感は覚えるものの思い当たる節は何も無いフロレアールは会話を続ける。
「それにしても、審問官ですか…。小さい頃に嘘つくと審問官にってよく諭され教育(恐育)たものです。ひょっとして代理領主様は教育でよく耳にした真偽を判別するスキルを保有されてるのですか?」
お決まりの遣り取りなのかクーヴァは微笑むと肯定の言葉を口にする。
「その通りですよ。主様は相手の発言の嘘が耳にした瞬間に判ります。加えて精神的状態異常無効も保有されております。これにより洗脳や誘惑などのスキルを無効化なされます。この二つのスキルにより審問官として短い年月で貴族などの不正を数多く暴いたのです。特に精神的状態異常無効は我が国では王家に連なる方々や一部の公爵の方しか保有しておらず、議政者にとっては垂涎のスキルでもあります。王国の要職に就かれてる方々の多くは国王から貸与されたダンジョン産魔道具などでそれを補っておられます。それらの者のは良くて状態異常耐性の魔道具を用いておりますが、その効果はピンキリで完璧無効では無い事から一定以上の役職には就く事が叶い方も多く居られるのが実情です」
精神的状態異常無効スキル。
それは英雄譚で耳にする事も比較的に多いスキルであり、フロレアールの傾国の美貌にとっては天敵となる存在である。
史実として後の世で魅了スキルを有した傾国の悪女と称された者の大半がこのスキル保有者により滅びの道へ突き落とされている。
それに加えて真偽判別スキルまで保有しているとなると迂闊な言動は避けなければならない。
フロレアールは代理領主 バースニップとの対峙には細心の注意を払うことを心に決める。
他にも情報を得ようとフロレアールは少し固くなりながら会話を続ける。
「な、成程。其れは凄いスキルを併せ持たれてますね。嘘どころか世辞も見抜かれた上に洗脳や誘惑、それに混乱や恐慌といったデバフ系のスキルも無効化されるとなると相対する側は沈黙する以外に逃げ道が無いですが、それは肯定として捉えられそうですしね」
「そうなりますね。ですが究極の逃げ道もある事はあるのですよ。ですが余りお勧めは致しません。それは自身に洗脳を施して記憶の改竄を施すと共に洗脳自体も忘れさせるというものでなのですが、単独で罪を犯した場合を除くと共犯関係者などの他者との辻褄が合わないので以外と早く露見します。それに本人自身が真相を覚えておらず申し開きも弁明もままならなくなってしまいます。最終的には無意味に私は無罪だ貶められたと喚き散らして失意のまま刑に処されるだけです。加えて最悪の場合は洗脳スキルで改竄された記憶が本来の他の記憶まで影響や侵食することあり、その場合には自我や性格の変異、ごく稀にですが自我の崩壊に至ったケースもある程です」
「それを聞かされると罪を犯さずに生きるのが一番だと再認識しますね。罪を犯した者が悪いのですが審問官に問い詰められる輩もお気の毒様ですね」
「ある意味気の毒とは言えますが本当にお辛いの差バースニップ様なのですよ。小さい頃からその影響で村八分に近い状況で過ごされていました。加えて世辞や心遣いの優しい嘘ですら真偽が判るという事が生きる事にとってどれ程の苦痛なのか…。ある程度の想像は出来ても真に理解することは他者には叶いませんので…」
それは幼い頃から親などの身近な人々から投げ掛けられる愛情が込められたと思える言葉、気遣いからくる優しい嘘、何時しか巡り会う愛しい者の言葉ですら望む望まないに関係無く無慈悲に嘘と告げられる。
そして死ぬまで出会う人々の全てからの投げられる大小様々な嘘が否応無しに判り続けるのである。
その事実は少し想像しただけでも気が滅入りそうになるものであった。
「そうですね…。確かに他人には計り知れない辛さでだと思います。もし自分自身が保有していたらと改めて想像すると耐えられる自信がありません…」
「悲しいかなその通りなのです。我が主様は正直に申しますと少々壊れておられます。なので嘘偽り無く本音で話してください。それを主様は一番喜ばられます。会話の際に答え難い事などは気にせず答えられない旨を伝えて下されば其れで結構です。下手に取り繕う必要は御座いません。正直申し上げると誤魔化したりするのは逆効果で心象が悪くなりますので、その点はご留意下さい。それと私めの主様に対する言葉遣いは気にしないで頂けると幸いです」
「り、了解しました。クーヴァさん、色々とありがとうございます。お陰様で気負いせずに代理領主様との応対に挑めそうです」
「それは何よりです。おっと少々長話が過ぎましたね。遅くなった謝罪は私めが主様に行いますので皆様はお気になさらずに。それでは改めて参りましょう」
「はい、お願いします」
クーヴァの言葉にフロレアールは短く返事ををして代理領主バースニップが待つ部屋へと向かうのであった。




