068 足止め
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修行最終日に思わぬトラブルもありましたが私たち四人はチェーネに向けて飛翔しております。
飛翔速度はカテジナ達に合わせているので多少時間は掛かってますが、もう少しで町に到着するといったところです。
因みにカテジナとカルチナが目覚めた時には、予想以上にトラウマさんが精神を侵食していた様で、二人はSAN値が回復しきってない感じでした。
その時の具体的な姿は、目に光が無く、口数も妙に少なく、目覚めの挨拶が小声過ぎて聞こえない程。
加えて私が動く度に“ビクッ”とする小動物の様な状態でした。
仕方が無いので二人に朝に相応しい爽やかな笑顔で「恐怖の克服には反復して慣れる方法もあるみたよ」と伝えてみました。
“効果は抜群だ!”との感じで二人は途端にワタワタと動き出し、着替え終えた途端に「「早くチェーネに向かいましょう」」と涙目で口を揃えて訴えたのでした。
二人には悪いが、私とキャローナは顔を見合わせた後、思わず声を上げて笑ってしまう。
それにより緊張もだいぶ解れたのかカテジナとカルチナの二人も普段通りといった感じに戻ってくれました。
探知にチェーネの町が映り始めたところで私はその反応に驚きを覚える。
二ヶ月前とは異なり緑色より遥かに多い無数の灰色の点が現れ蠢いており、人口が急増している事が見て取れた為であった。
私は飛翔の速度を緩めて宙に停止すると三人に声をかける。
「探知の範囲にチェーネが入ったから降りて残りは歩いて向かいましょう」
「フロレ様、チェーネなら門前に降り立っても別に問題ないと思うのですが?」
「以前のチェーネと違って移住者がかなり増えてるの。だから無駄に驚かせたりしたくないし、トラブルに繋がり兼ねない事は極力避けたいの」
「承知しました。確かに衛兵も増えてる可能性も考えられますわ。ですから、フロレアール様の仰る通り歩いて向かう方が良さそうですわ」
「そうですね。なら歩いて向かいましょう」
周囲に人が居ない事を確かめて街道近くに降り立ち町へと向かい始めて少しすると探知に嫌なモノが映る。
それは町の南側に赤い点が現れてれたのである。
拡大して確認すると三人が私に対して悪意や害意を抱いているのが確認できる。
其の場所は新設した教会であったことから嫌な予感しかしない為、三人にこの事を伝える。
「三人とも少し止まって頂戴」
「黒百合様どうかしましたか?」
「探知に赤い反応が現れたの。人数は三人、それが厄介な事に新しい教会に居るのよ」
「教会ですか!?フロレ様、何やらかしたんですか!?私、異端審問とかマジ勘弁なんですけど!?」
「キャローナ落ち着いて。久々にハラグロさんが口から漏れ出てるわよ。別に何もしてない筈よ。念の為、三人も用心しておいて。下手すると入場門で一悶着あるかもしれないわ」
「承知致しましたわ。不敬な輩は私が始末してみせますわ」
「黒百合様、任せて下さい。修行の成果を発揮してみせますよ」
「そうですね、地獄の日々で得た力で蹴散らしてみせますよ」
カテジナ、カルチナ、キャローナの頭の中は地獄の新兵訓練を終え実戦でその力を試す機会を得た事から「最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ」と脳内麻薬さんがドバドバと溢れ出していた。
そんな三人からの返答に私はある命令を下す。
「三人とも気遣ってくれてありがとう。ただし、貴女たちが本気を出した大概の人は即死するから力加減を誤らないでね」
「黒百合様、ソレ冗談ですよね?」
「別に冗談では無いわよ。今の三人なら成人男性の頭を片手で鷲掴みにして持ち上げることも容易いだろうし、その頭を熟れたトマトみたいに握り潰す事もできる筈よ」
「ソレってマジっすか!?」
「そこら辺に生えてる木の幹とかなら不変性付与せずに素手で抉れるし、拳で殴り折れるだろうし、一蹴りでへし折れる筈よ」
三人は無言で街道沿いに植生している木へと歩み寄ると幹に手を当てた後に鷲掴みをする様に握り締める。
すると“ミシミシミシ”との軋む嫌な音を立てながら指が食込み幹を抉り取ってしまう。
私は黙って三人に抉られた哀れな木々を再生魔術で元に戻す。
次いで光の消えたレイプ目で、握っては開きを繰り返してる己が両手を眺めている三人に話し掛ける。
「三人を鍛えたのは、これからの旅で無駄に傷付いて欲しくないからよ。決して人を殺める為では無いからソコの所を履き違えないでね。コレは命令だから以後留意する様に。例えば自身や仲間の命が危険だったり、相手から襲ってきたりした時は話は別だけどね。力の使い所を誤らないで頂戴」
「「「ハイ、ワカリマシタ」」」
三人が曇り切った眼で返事をしてくるが私は気にせずにチェーネに向かい歩みを再開するのだった。
そして入場門でのステータスプレートを提示しての身分照会と相成ったのだが、悲しいかな予想通り足止めを食っていた。
カテジナが「不敬ですわ」と騒ぎ出した為、カルチナとキャローナに任せて少し離れた場所で落ち着かせている。
入場門で応対している衛兵は四人、内二人は以前からのチェーネ駐在であり、残り二人は新人である。
既に新人は従属状態に堕ちており、探知反応は緑色なので衛兵たちでは如何ともし難い状況だと察し話を聞いてみる。
「少し待って欲しいとの事だったけど理由を教えてくれないかしら?」
「フロレアール様、申し訳ありません。今、冒険者ギルド支部長のパルミーナ殿を呼びに走らせてますので、もう少々お待ち下さい」
「それだと答えになってないわ。私は町に入れないってことなのかしら?」
「違います。御使い様たるフロレアール様を拒む理由は我々には無いのですが...」
「パルミーナ殿からフロレアール様が来訪した際には入場門を通す前に自分を呼ぶ様にと厳命されておりまして。詳細は存じてませんが恐らくは新たに赴任してきた教会の司祭や神官絡みかと思います...」
やはり教会に居る探知反応が赤の三人絡みの様である。
仕方が無いのでパルミーナぎ来るのを待つ事にして、最近の町の様子を尋ねる事にする。
「分かったわ。パルミーナが来るのを待つ事にするわ。そういば、そこの二人は新人さんかしら?初めて見る顔だけど町の住人含めて色々と増えているのかしら?」
「ありがとうございます。仰る通り二人は新人で町への移入者になります。今では我々衛兵も100名を超えております」
「移入者も増えて空き家が殆ど埋まったとの話です。少し前には他の街等に募っていた募集は打ち切られたと耳にしています」
「其れは驚きね。なら新しい店とか食事処も増えてるのかしら?」
「ええ、かなり増えてますよ。とりわけ食事処は各地から人が移って来たので種類が豊富でして。まだ全店通えてないのが残念なところです」
「そうですね、特に海の幸を出す店がオススメですね。ここらだと前は川魚程度しか味わえなかったので物珍しさもあって人気がありまして、実際食べてみましたが物凄く美味かったです。御使い様も是非召し上がってみて下さい」
「海の幸...だと!?」
自慢ではないが私は生まれも育ちも長閑な田舎の村育ちなので当然海など見たことは無い。
海の幸は数回干物を食べた事しかないが川魚と違う肉厚な身、濃い旨みと脂を有していた事を思い出す。
ゴクリと喉を鳴らして衛兵を問い詰める。
「う、海の幸って干物とかなのかしら?」
「干物も定食で出すところもあるけど生の魚やエビを使った料理で、スープやパスタとかフライやら色々ありますよ」
「そ、そうなのね。ありがとう。店の場所はどの辺りなのかしら?」
「飲食店街で大通りに面してるので行けば分かると思いますよ。今の時間帯でも朝食目当ての人で混んでる筈です」
「そ、それじゃ、い、急いで朝食を摂らないといけないから失礼するわね」
未だ見ぬ海の幸への誘惑に抗えず私は入場門を抜けて町へと入ろうとすると衛兵が必死に引き留めようと手足に纏わり着いてくる。
「御使い様!?あ、お待ち下さい。パルミーナ殿が間も無く来ますのでお待ち下さい」
「お願い、後生だから見逃して。ご飯が、海の幸が私を呼んでるの!」
「落ち着いて下さい。海の幸は逃げません」
「逃げなくても売り切れてしまうわ。だから離して。パルミーナに店へ来る様に伝えて!」
私は四人を引き摺りながら入場門を抜けようとしてると騒ぎを聞き付けた衛兵が詰所から続々と飛び出してくる。
引き摺られている衛兵が「相手は御使い様だ、パルミーナ殿が来るまで押さえ留めろ」叫びに応じ、入場門前に盾を構えた者たちが隊列を組み行く手を阻む。
だが、その程度で私を押し留めるこのは叶う筈も無く、私が両手を伸ばして盾に手を当て押し始める。
すると盾や鎧で身を固めた者たちは押し負けて“ズリズリ”と徐々に後退し始める。
そんな彼らから“ギシギシ”との金属が軋む嫌な音と「つ、潰れる」との苦悶に満ちた呻き声が漏れ始める。
その様を見た他の衛兵が直接体に触れて押し留めようと群がり始めたことから、ラッキースケベが発生してしまう。
正面から胸に顔を埋める者や腰に手を回して尻の感触を顔面で堪能する幸運者であった。
幸運者が堪らず「天国だ、俺もう死んでもいい」、「すっげー柔らかい、最高」と歓喜の声を上げ勝ち誇る。
するの周りの衛兵が幸運者を引き離して、己が入れ替わろうと罵声や怒声が飛び交い場が混沌と化してしまう。
海の幸に目が眩んでいた私も流石に胸やお尻に顔を埋められグリグリと動かされれば正気に戻る。
「ちょっと何処触ってるのよ!グリグリしないで!大人しく待つから離れてよ!」
それを目にしたカテジナがカルチナとキャローナを振り切ろうとした所にパルミーナが駆けつける。
パルミーナは衛兵たちがフロレアールを押し留める一方で、一部の者たちが胸や尻に顔を埋めた仲間を引き離し入れ替わる様を目にして思わず叫ぶ。
「落ち着け!!貴様ら一体何をしてるんだ!!」
次いでカルチナとキャローナを振り切ったカテジナがブチ切れて絶叫する。
「殺殺殺殺、殺す!貴様らぁ!楽に死ねるとは思うなよ!!」
「カテジナ様、落ち着いて!殺るなら一人でバレない様にこっそりと殺って下さい。今だと私まで手配されちゃいます」
「黒百合様、殺しはダメです!早まらないで!!キャロちゃんも変な事言わないでよ!」
「キャローナ、カルチナ、二人ともどいて!そいつらを殺せない!」
殺意を剥き出しにしたカテジナに加え、未だにフロレアールに群がる衛兵たちに変化は見られない。
収拾がつかないどころか衛兵の命の危機が迫っていると判断したパルミーナが騒ぐ者たちの頭を冷やす為に、衛兵とフロレアール一行の頭上に水を生み出し落下させる。
頭から水を掛けられた事で皆の動きが止まり、場に落ち着きが取り戻される。
パルミーナは大きく溜め息を吐き出した後に話し始める。
「諸君。落ち着いたかね?疲れるから無駄にマナを使わせないで欲しいのだけどね」
「パルミーナ支部長、申し訳ありません。助かりました」
「一部の者達が衛兵にあるまじき行為を行っていた様なので注意しておきたまえ。フロレアール君もそれで許してくれないかな?」
「ゆ、許す訳ないですわ!あんな羨ま...、破廉恥な事を奪い合ってまでして行っていたのですよ!極刑death!私が直接、今この場で引導を与えてやりますわ!」
「カテジナ、落ち着いて。怒ってくれてありがとう。でもね、町に入ろうとした私にも非があるから処分は衛兵側に一任で構わないわ」
「御使い様、申し訳ありません。寛大な処置に感謝します。我々はこれにて失礼します。入場門担当四名を残して詰所へ戻れ!話は中で聞くから各自水気を取り除き次第動け!」
号令に応じて衛兵たちは一斉に動き出しその場を後にする。
私達もその間に浄化を施し水気や汚れを落とし終える。
衛兵たちが去ったのを見計らって私はパルミーナに話し掛ける。
「パルミーナ、お久しぶりね。で、一体何の御用なのかしら?」
「そんなにツンケンしなくてもいいじゃないか。さっきのは騒ぎを収めるために致し方が無かったのは理解してくれ」
「それは分かっているわよ。何で入場門前で足止めされているのか、ちゃんと説明して欲しいのだけど」
「君の事だからギルドに顔を出す様にとの伝言を聞いても顔を出さないかと思ったのでね」
パルミーナの的確な予想に私は焦りを隠しきれず返答する。
「そ、そんな事はないと思うわよ」
「まぁ、そういう事にしておこうかね。悪いが衛兵の詰所を借りようかと思っていたが反省会で無理な様だから冒険者ギルドまで御足労願えないかな?」
「分かったわ。それと朝食が未だなので何か摂りたいのだけど、いいかしら?」
「ギルドの食事処でも構わないし、希望があれば職員に買いに行かせるよ。これで手を打ってくれないかな?」
その提案に私は間髪入れずに即答する。
そう、海の幸である。
「なら話に聞いた海の幸で水に流してあげるわ。そうと決まればギルドに向かいましょう」
「随分と耳聰いね。もう流行りの海の幸を聞き付けたのかい?」
「足止めされていた時に最近の町の様子を聞いていたのよ。併せて教会についても少し耳にしたわよ」
「なるほどね。既に目星も付いてるっていったところかな。でも、他にも伝える事があるので残りはギルドで頼むよ」
「仕方ないわね。なら久々のチェーネの町へと入りましょうか」
こうして私たちは二ヶ月ぶりのチェーネの町へと入場を果たす。
この後にパルミーナから告げられる内容と初めて味わう海の幸に少しの不安と大きな期待を胸に抱いて。




