062 来訪者
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チェーネの魔改造に着手してから早六日が経ちました。
日々の努力や職人さん達の助力もあり、チェーネの町はだいぶ様変わりしております。
先ず目に付くもの、其れは町を円形状に取り囲み、優雅に聳え立つ白く輝く巨大な壁。
円の直径は2km、周長は6kmを超えており、壁の高さは8m、厚みは4mを有しており、其の規模は王都を超えないように配慮されて八割程に抑えられています。
その壁の表面は恐ろしい程までにツルっと滑らかなタマゴ肌、東西南北に設けられた大門とその脇にある入場門以外には、継ぎ目すら無い一体成形で仕上げました。
また、見えない地中部分にも工夫を凝らし、地上の倍の深さまで壁は伸びており、その末端は“土”の様な形状を施すことで横倒し防止構造を有し、更に壁周囲の大地は魔術でガッチと固められています。
例え外敵が侵入を試みようとトンネルを掘ったとしても並の人間では相当の時間を要し、大地を魔術で掘削して壁を倒壊さる事は不可能に近く、門扉を破壊するか鳥の様に空から侵入しない限り侵入には困難を極める筈です。
備え付けられた観音開きの大門や片開きの入場門は壁と同じ材質で造られております。
其れを繋ぎ止める蝶番やネジは金属製で鍛治職人の協力の元で改良を重ねた逸品、完成品も大量に魔術で複製済みなので当面の期間は修繕交換にも悩まずに済む事でしょう。
また、壁には八つの物見塔を有しており、その頂きの中央には、赤、紫、青、薄青、白、薄緑、緑、黄の大きな半透明の珠が北から順に時計回りで備えられており、その色により方角が示めされております。
八つの物見塔を有する白い円形状の壁、その様は八個の宝玉が取り付けられた白き巨大な冠を彷彿とさせています。
加えて壁の外周上部には登頂対策として、外側へとせり出す、やや湾曲した返しが設けられております。
そして壁の頂きはコの字型に凹んでおり、その部分の表面はザラザラとしており、人が安心して歩く事が可能で、階段を初めとした物見塔内部など人が歩き足を着く面は一様に転倒対策がしっかりと施されております。
そして壁の外周部には幅10m、深さ5m の空堀を備えており、門前に残された大地のみが唯一の町へと繋がる陸路となります。
空堀の側面は町を囲む壁と同じ様に硬化させなだらかに傾斜していますので落ちたら這い上がるのには困難する事でしょう。
空堀の底は網目状に硬化させてますので水捌けに問題は無いと思います。
これらを設ける事に際して、撤去が必要と成った建屋移転先も設け終えています。
ここ五日間でこれらを終えた私は今、宿屋のベットの上で横になっており、カテジナに頼んで、本日の作業中止を一部の関係に伝えてもらっています。
何故なら昨日にヤツが襲来を受けてしまったのです。
そう、それは女性ならではの“お月様”です。
そんな訳で、私フロレアールは頭痛、腰痛、腹痛、これらから来る憂鬱感に苛まれております。
加えて本日は悪天候で時折、雷や雹を伴う豪雨も通り過ぎます。
雷の低く響く音が否応なしに、お月様による頭痛を増幅させるので、非常にイライラともしています。
お月様の症状は魔術で癒すと良くないと言い伝えられてる為、耐え忍び我慢する以外に方法か無いのです。
こうしてフロレアールがグテっとベットで横になり休んでいた頃、冒険者ギルド支部長パルミーナの元に一報が齎される。
其れはチェーネの町に新たな厄介事の訪れを告げていた。
以前は恋い焦がれるかの様に一日でも早い到着を待ち望んでいた救援の騎士団が漸くチェーネへと辿り着いたとの知らであった。
正午を回った頃、フロレアールが休んでいる部屋の扉が慌ただしく叩かれる。
ショートローブだけを身に付けて居たフロレアールはブーツを履いた後にベットから降り、扉の前まで向かう。
「どちら様かしら?。今は体調が優れないので、急ぎでないなら日を改めて欲しいのだけど。」
「フロレ様、キャローナです。お休みのところ申し訳ありません。パルミーナ支部長の使いで来ました。」
来訪者がキャローナと分かったフロレアールは鍵を外して扉を開ける。
「キャローナ、そんなに慌てて何があったの?」
「スタンピードの折に救援を申し入れた騎士団が到着したのですが、蓋を開けたら魔獣一匹居ないとお猿みたいに憤慨しまして。今、東の入場門を挟んで衛兵隊や冒険者、騒ぎを聞き付けた住人たちと睨み合いになっております。その場を治めに来て頂けないかとの事です。」
「そうなのね。理解はしたのだけど何で私が治めに行く必要があるのかしら?」
「あぁ、そうでした。カテジナ様が中心となって騎士団に喰って掛かってるんです。騎士団の一部がフロレ様を貶めた事が我慢できなかったんだと思います」
「あの馬鹿ったら、そんなの無視すして構わないのに。分かったわ、すぐ支度するから部屋に入って待ってて」
フロレアールが“待ってて頂戴”と言い切る前に、フロレアールが収納から外套を羽織るよ様に、次いで白メイスを右手に握る様に取り出すと窓へと駆け出す。
キャローナの話を聞き始めてから探知で確認していたところ、灰色の点が動き出し、入場門からなだれ込みだした為だった。
「えっ!?フロレ様!?」
「東門で動きがあったの。知らせてくれてありがとう。先に行くわ」
予想外のフロレアールの行動に驚くキャローナに対し、そう言い放つとフロレアール窓を開け放ち、飛翔魔術を使って東門へと飛び立つのだった。
事の発端は、100km近い距離の移動を終え、漸くチェーネへと辿り着いた騎士団一行。
ヴァンデール王国フォゲーラ駐屯第二騎士団第1~4騎士隊、総勢名281名。
構成は総隊長一名、各隊が隊長騎士1名、従騎士4名、護衛剣士5名、歩兵60名で構成されている。
そんな彼らが思い描いていたものは、スタンピードに襲われ疲弊し恐怖に怯える人々を救い、スタンピードを鎮める自分たちの姿であった。
ところが、いざチェーネに辿り着いてみれば魔獣やモンスターの姿は一匹も無無く、その代わりとして目に飛び込んで来たもの、それは王都にも迫ろうかという白き城郭であった。
その白き壁に守られるチェーネの広さは自分たちが駐屯しているフォゲーラの街を軽く凌駕している様に見受けられる。
このチェーネの町は、スタンピード以前にもAランク魔獣イビルボアが出現したとの理由で騎士団へと救援要請が出されていた。
その際にも要請受諾後、出立準備を終える頃を見透かした様なタイミングで冒険者が対象を仕留めたとの報が齎され、彼らは出立の寸前にその任を解かれていた。
僅かな期間に立て続けに要請された二度の救援。
だが、その双方が徒労に終わり、目の前には例えAランクの魔獣やモンスターが現れても突破される事は叶わないと思える巨大な白き城郭がある。
謀られた、騎士団の多くの者がそう捉えてしまっても仕方がない環境が揃っていた。
騎士団の多くの者は貴族の三男や四男等の家督継承権が低い者たちで構成されている。
当人たちは未だ貴族位を有しているが其れは当代限りで終わるものであり、彼らの婚姻は厳しい環境に置かれている。
貴族の娘であれば貴族同士が縁を深める為に他貴族へと嫁ぐ事は珍しくない。
また、貴族との縁を得ようと欲する豪商などへ嫁ぎ、何不自由する事の無い生活を得る事も差程難しくは無かった。
だが、彼らは違っていた。
家督を継ぐ可能性は僅かに残すものの貴族としての価値は低く、余程の武勲や手柄を立てない限りは、他貴族や豪商の娘などとの婚姻は限り無くゼロとなる。
この世界では重婚や妾が禁じられていない為、嫡男を持たない他貴族や豪商の割合は非常に低いことから、騎士団員の殆どは良くて平民の娘と結ばれることになる。
それでも結婚出る者はまだマシであり、その実、生涯を未婚のまま終える者も少なくは無かった。
彼らの仕事は命を賭す事も多く、家族を残して逝く事も珍しくない。
だが、騎士団を退団すれば廃嫡され貴族位すらも失うことから辞める者は少ない。
それなのに稼ぎはそれ程高いものでも無く、更に言えばその殆どが並の冒険者よりも低いと言える程である。
にも関わらず当代貴族である彼らはプライドだけは高く、庶民的な生活を良しとする者が少ない。
そんな理由から平民の娘からも人気は高くなかったとういか、ぶっちゃけて正直に言えば不人気なのである。
そんな彼らにとっては、チェーネからの二度の救援要請は武勲や手柄を立て、名声を得られる婚活チャンスでもあった。
イビルボアの一件で辛酸を舐めた彼らは、腹癒せを兼ねた体力温存を目的として、ややゆっくりとチェーネへと救援に向かうことで溜飲を下していた。
だが、到着後は多くのものは婚姻を掴み取る為に温存した体力が尽き果てるまで魔獣やモンスターを屠り、名声を得て、あわよくば救った綺麗な町娘とのラブロマンスさえも夢見ていたのだった。
そんな彼らの現在の心情は血の涙を流す思いに溢れていた。
晩春の冷たく激しい雨の中、四手を着いて大地に拳を叩きつけながら「隊長、俺悔しいです」と悔し涙さえ流している者も数多くいる。
そんな彼らの頭の中では己を小馬鹿にする様々な失笑が思い浮かんでいた。
「残念でしたぁ~。アナタたち騙されてたの。やっと気付きましたかぁ?ぷ~くすくす」
「ひょっとして結婚できるチャンスと思ってたのですか?お可愛いこと。現実を知れて良かったですね、フフフ」
「もう用は無いから、さっさと帰って。掘った穴を埋めさせるのって、見てると楽しいわね。ぷぷぷw」
「悔し涙流すとか、ちょ〜ウケるんですけどwww」
雨により冷えた身体に加えて、騎士団の面々は心までもが冷えきり、その心に憎悪の火種が生まれる。
こうして二度に渡って謀られたと誤認した総隊長を初めとした多くの者たちが憤慨することとなったのだった。
更に悪いことにチェーネの窓口としてパルミーナが、そう女性が動いていた事を知っており、自分たちが弄ばれたと被害者だと思い込む。
総隊長のアランは、騎士団員たちに告げる。
「諸君、既に聡い多くの者が状況を察していることだろう。そして苦虫を噛み潰した思いを抱き、謂れ無き仕打ちに心を痛めていることであろう。そして涙する者もいるがそれを恥じることは無い。彼奴等は一度ならず二度までも我らを謀ったことは明白である。我らは王国の民を守るべき盾ではあるが、不当な奴隷や下男の様な犬以下の扱いを受ける謂れ(いわ)は無い。私は、目的地のチェーネ到着後、相手方の応対姿勢や本件の理由如何によっては私刑を下す事も厭わない考えである。その折には貴族である我々を侮辱し卑下した事を必ずや後悔させてみせると皆に約束する。強制はせぬ、我と志しを共とするものは我に続け。痴れ者共に、男の純情を踏みにじりる悪女共に目に物見せてやろうぞ」
それを耳にした騎士団員たちは立ち上がり、声を上げて士気を高め合う。
こうして盛大な勘違いによる憎悪を募らせた一団がチェーネに到着することになったのであった。
晩春の冷たい雷雨が叩きつけ様に降りしきる中、チェーネに到着した彼らを出迎えたもの、それは塩対応であった。
尤も其れは入場門における普通のステータスプレートを提示させての身分確認であった。
だが、相手方からの要請を受けて遠路遥々(えんろはるばる)駆け付けた者たちにとっては到底納得が出来るものでは無い。
アランは衛兵たちに来訪の目的を告げ、大門の解放を要請するが、衛兵たちは領主たる国王に直接仕えており、例え国に使える騎士の要請としても己が職務として応じられないと拒絶する。
其の対応にアランは渋い顔を浮かべるが耐え忍び、殺気立ちつつある各騎士隊に待機を命じる。
そして己のみが衛生の指示に従い身分証明を終えた後に入場門からチェーネの町へと足を踏み入れる。
その後、改めて自分たちの来訪目的を伝え、冒険者ギルド支部長パルミーナを呼んでくれないかと衛兵に依頼する。
衛兵たちも貴族たるアランが素直に身分証明に応じた事から、彼の要望に応えてパルミーナを呼びに衛兵の一人を向かわせたのであった。
衛兵から騎士団の来訪を告げられたパルミーナ。
彼女は、スタンピード解消後、フォゲーラに駐屯している騎士団自体には冒険者ギルドを介して正式に派遣への謝意と謝罪を終えたいた。
だが、実際に遣わされた騎士たちの心情は別であり、如何にして騎士たちを納得させようかと思い悩み続けていた。
だが、下手に嘘を重ね、その嘘が露見するリスクは避けなければならなず、妙案も浮かばない事から真実を伝える以外の道は無いと諦めに至る。
パルミーナは、悪天候の影響でギルドの食事処兼酒場で燻っていた冒険者たちへ念の為に警護依頼を出す。
加えて相手への謝意と誠意を見せる為、ギルド職員たちも引き連れて東門へと向かうのだった。




