057 完全再生蘇生魔術
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フロレアールは認識加速状態で如何にしてカルチナ達を蘇生するか熟考する。
蘇生魔術、其れは神聖魔術の中でも上位クラスに分類されている奇跡の御業。
本来であれば魔術行使が出来るのは聖人と聖女のユニークスキルを保有する者だけに限られる。
だが、私は聖女のユニークスキルを有していないが行使が可能である。
それは従属の簒奪者の効果により、他者から奪い取ったステータス値を己のステータスに加算する事でヒューマンの域を軽々と超越した能力を有している為である。
過去には今よりも遥かに低かった簒奪値で神聖魔術上位クラスの蘇生魔術リザレクションを行使し、死者蘇生を成した事がある。
だが、その時は雪に埋もれ死亡した、つまりは肉体的な欠損が無い者の蘇生であった。
だが今回蘇生させなければならない者たちは少なからず肉体の損傷や欠損を有している。
加えてカルチナは多量の血液も失っている事から彼女を蘇生させるのにはリザレクションでは、その奇跡には届き得ないだろう。
仮に蘇生したとしても傷が癒えていない身体では改めて苦しみを味わった後に再び死すことだろう。
カルチナを蘇生させるには肉体の損傷や欠損の修復、失われた血液の補充、その上で損耗し尽き果てた生命力と体力を回復させなければならなかった。
魔術書に記されていた蘇生魔術リザレクションの内容を記憶の中から思い起こす。
魔術に対する理解が深まったからこそ判るが、やはりリザレクションは損耗し尽き果てた生命力と体力を回復させる魔術とみて間違い無さそうである。
魔術書に記される上級クラスの神聖魔術はリザレクションと治療魔術フルヒールの二つのみであった。
この事から肉体の損傷が激しい死者を蘇生させる事は叶わないとされている。
だが、ある種の違和感というよりも確信に近いものがある。
それはリザレクションよりも高位な蘇生魔術の存在である。
魔術書は神殿や教会の意向か強く反映されており、聖人や聖女の早期発見と囲い込みの為のシステムと化していると私は睨んでいる。
そうであるならば聖人や聖女の確定となる上級クラスの神聖魔術を無駄に数多く載せる必要は無いといえる。
神殿や教会は真っ黒に腐りきっており、その存在を秘匿していると考えるのは決して誤ったものとは思えない。
この確信の裏付けとして皆も私も大好きな伝承や英雄譚が挙げられる。
聖人や聖女は数多くの伝承や英雄譚にも登場しており、その中でも死者蘇生は最大の活躍として謳われ、聖人や聖女が行使する奇跡の力を絶対たるモノへと昇華させている。
うん、傾国の美貌とは正反対ですね。
因みに傾国系スキルで有名なのは傾国の美女で、多くの英雄譚で悪女として駆除されていますね。
閑話休題
謳われし多くの逸話は強大な魔王たる存在や古龍などの強敵との死闘の最中に力尽き倒れたものを蘇生させている。
魔王や古龍などとの激戦の最中に肉体的な損傷が無い死などあるだろうか。
スキル:天然の保有者がスキル効果で小石に躓いて転倒して死ぬ者が極稀に居るかもしれないが、普通に考えれば有り得ないと断言出来る。
それならばリザレクションを元に魔改造を施し新たな魔術を産み出せば良いとなる。
だが、治療系の魔術は以前にも話したが傷が癒える過程などが良く分からない。
そのため、リザレクションを直接魔改造することは叶わなかった。
そこで目を付けたのが、上級クラスの治療魔術フルヒールであった。
こちらの魔術書に記されていた内容は肉体の損傷や欠損、それに加えて失われた血液や体液などを全て新たに造り出し肉体を再生復元するというものである。
下位たる中級クラスの治療魔術グレーターヒールやエクスヒールは傷を癒し修復して治療する。
再生と修復、効果の差はあれども似て非なる過程を辿るが得られる結果は同じだと改めて理解する。
フルヒールは得られる結果から治療魔術に分類されているが、その実は再生魔術であるとの理解に至る。
ここで悪魔の閃きがフロレアールの脳内を駆け巡るが今は優先順位が違うと一時保留される。
閑話休題
この事からカルチナ達を蘇生させる為のオリジナルの完全復元蘇生魔術のイメージをフルヒールとリザレクションの魔術書を元に新たに構築する。
この世界の魔術はイメージを構築することが最も重要である。
それにはフルヒールの生有る者を助ける為との前提を破棄する。
例え相手が死していようとも欠損している部位などは、魔術で新たに生み出す再生復元であるならば死した体でも叶うのだと。
それと並行して損耗して尽き果てた生命力と体力を魔術で満たす。
魔術書記述のフルヒールの内容を参考に矛盾が生じない様に注意を払いながら再生復元と融合させてゆく。
そして体力回復は既にカルチナとキャローナで成功している為、生命力の回復も同様に可能なものであると強く意識を改める。
こうしてオリジナルの完全再生蘇生魔術を完成に至らしめる。
フロレアールは魔術の精度を高め蘇生の成功確率を少しでも高める為、認識加速状態を解くことなく反芻し続ける。
体感時間で丸一日近く経過した頃、体を揺さぶられている事に気付いたフロレアールが認識加速を解く。
すると目の前にはカテジナが立っていた。
「フロレアール様、大丈夫ですか?。何度もお声掛けしても反応が得られなかったので心配致しました。」
「ごめんなさい、心配掛けたわね。何ともないわ。カテジナが来たということは、準備が整ったのかしら?。」
「はい。御要望通りチェーネ住人の全員集まり終えました。居住区間事にが相互確認を取らせましたので漏れはありません。乳飲み子から床に伏せていた者も含めて集まっております。」
「分かったわ。それでは広場に向かいましょう。」
広場に着いたフロレアールは飛翔にて集まった人々全員の顔が見える高さまで浮き上がる。
その様を目にした一部の防衛戦に参加していなかった者たちから響(どよ)めきが上がる。
フロレアールは響(どよ)めきを無視して自身の音声を魔術で増幅して話し始める。
「時間が惜しいので無作法で申し訳ないけど要点だけ伝えます。このチェーネを襲っていた魔獣やモンスターは私が一掃しました。そして町を守る為に犠牲となった方が五名います。これから彼女らを蘇生させます。私が蘇生魔術を行使出来ること、そして彼女らが蘇生したこと、これらに関する一切の事を他者へと教え広める事は元より口にする事すらも禁止とします。それは口頭や文書など如何なる手段も許されません。そして期間は今時点からで死後も含めます。これは命令です。」
死者の蘇生、その単語フロレアールが口にした途端、この場に居合わせた者たちに衝撃が走る。
それはフロレアールが聖女であると告白したとの誤認に加え、既に神官から死者たちの状態からリザレクションでは蘇生が不可能な事を伝えられていた為であった。
誰もが様々な疑問を抱き、それを口にしようかと逡巡する。
だが、“御使い様ならば“との考えに至り口に出すものは居なかった。
フロレアールは既に見つけていたカルチナの元へと浮遊したまま移動する。
カルチナ達は各々が細長い台に乗せられ無惨な姿を晒して横たわっている。
フロレアールはカルチナの傍らに降り立つとカルチナの額に右手を添え、左手を己の胸の前で握り締め、目を閉じる。
改めて幾度となく反芻しイメージを確固たるものへと昇華させたオリジナル魔術を行使する。
「完全再生蘇生魔術」
フロレアールは魔術名を敢えて口に出し少しでも蘇生の奇跡を手繰り寄せようとする。
次の瞬間、フロレアールの身体から未だかつて無い程のマナが抜け出る感覚に襲われる。
チェーネの人々は目にする。
フロレアールが魔術名を唱えた途端に白い輝きに包まれるのを。
その輝きがフロレアールの右手を介してカルチナの全身を優しく包み込む。
その輝きは失われた両手の四指と両脚を象どり様に集まり、全身を包む其れよりも強く輝き、次第にその輝きを増してゆく。
それに呼応するかの様にカルチナの全身を包み込んでいた輝きも増してゆく。
輝きが増すのを止めると一転して徐々に徐々にとその輝きが弱まり始める。
それに併せて欠損していた両手の四指や両脚が具現化する。
そして輝きが完全に消える。
マナの抜け出る感覚が消えたことからフロレアールは目を開く。
そこには以前と変わらぬ姿でカルチナが横たわっており、その胸元は小さく上下している。
フロレアールは魔術に集中する為に止めていた探知を再開する。
するとカルチナの姿が緑色で縁取られており、完全な蘇生に成功した事を確信し安堵する。
「カルチナ、目を開けなさい 。」
カルチナを優しく揺り動かして声を掛ける事を数回繰り返すと彼女が目を覚ます。
不思議そうにフロレアールの顔を覗いてくる。
「あれ、な、何で黒百合様が目の間にいるんですか!?。それに何で私こんな公衆の面前で横になってるのでしようか!?。加えて生足晒してるって意味がわかりませんよぉ~。」
自身の置かれている状況に理解が追いつかず半泣きになるカルチナ。
「カルチナ、何処か違和感とかは無いかしら?。」
「何だか服がバリバリに固まって肌に張り付いてって、これひょっとして血ですか!?。」
「その様子なら大丈夫そうね。取り敢えず今は安静にしてなさい。これは命令よ。後で説明してあげるから今は大人しくしてなさい。」
フロレアールがそう言い伝えてカルチナから離れるとキャローナが抱き付き声を出さずに号泣する。
そしてカテジナも涙を流しがら二人を包み込むように優しく抱きしめる。
二人に抱き着かれたカルチナ一人が「何で二人共泣いてるの!?。訳が分かんないよぉ~。」と身動き出来ずに頭だけを振っている。
その様を横目で見届けたフロレアールは意識を切り替え残る四人も無事に蘇生させたのであった。




