056 降臨
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「何だか久しぶりな気もするけど、それでは早速行きましょうかね。」
チェーネの町を離れてから五日後の早朝、フロレアールは町へと戻る為に飛び立とうとしていた。
その姿は、白のショートローブ、白のマント、深紅の玉が埋め込まれた白のショルダーガード、白のロンググローブ、白のメイスと白尽くしのコーディネートと成っております。
きっと追加した装備を見た百合百合教三人組は褒めてくれるけど、ちょっとズレた事を言ってくる気がしてならない。
「御使い様然としたお姿、とても素晴らしいですわ。いえ、フロレアール様なら例え裸だろうが褌姿だとしても素晴らしいとお答えします。それで私への御褒美は一体何を頂けるのでしょうか!!。」
「黒百合様お似合いです。でもそこまで白いお召し物で揃えられてると白百合様とお呼びしだ方が良いですか?。えっ、言ってること変ですか?。確かに言われてみれば金百様がそれだと赤百合様になっちゃまいますね。てへっ。」
「フロレアール様、どうされたんですか!?。とてもお綺麗です。えっ!?それご自身で作られたのですか!?。あのぉ、良けれ私たちにもお作り頂けませんか?。」
再会した折の三人との会話が思い浮かび頬が緩むのを自身でも感じる。
フロレアールもなんだかんだ言ってはいるものの、三人の事は嫌ってはおらず、むしろ好意的な感情を抱いていた。
因みに、もう一つの新装備ネコ耳付き外套だが、傾国の美貌での魅了がコンプリートしているチェーネでは、外套を羽織って容姿を隠す意味が皆無なので、お披露目は後日と相成りました。
フロレアールは町から離れた以降は当然の様に自炊三昧だったことから、久々に他人が作った料理を食べようと考えていた。
そうして朝食目当てにチェーネの町へと意気揚々と飛翔で向かうのだったが、問題が一つ。
それは、チェーネの方角が正確には分から無かった為、遠回りにはなるが一旦東へと向かい街道を見つけ次第、南下すことで町に向かうことにする。
フロレアールは認識加速状態で飛翔する。
飛び立ってから街道付近に辿り着くまで要した時間は体感的には15分程、相対的には20秒にも満たないものであった。
そこから南下を開始するも体感時間で10秒にも経たない僅かな時間で探知範囲内に無数の黄色の点が映り込み始める。
フロレアールは慌てて全力探知範囲を行い、その結果に愕然とする。
緑色の点が集中しているチェーネと思しき場所が、数え切れない程の黄色い点に覆い囲まれ、埋め尽くされていたのである。
チェーネの町は早朝にも拘わらず、かなりの数の緑の点が見受けられる。
フロレアールは、状況からチェーネの町が魔獣やモンスターの襲撃を受けており、住人たちが防衛戦を強いられている事を察する。
町外れの門付近に何故か赤い点が一つ、その周囲に黄色の点が一つ、街道側には無数の黄色い点、町側には緑の点が数多くある事から、探知を拡大表示さて状況を確認する。
そこには巨大なムカデ型モンスターを前に人々が布陣しているようにも見受けられる。
フロレアールは、間違いなくチェーネが襲撃を受けていると判断し、カテジナ、カルチナ、キャローナの三人の無事を願いつつの町へと一直線に飛翔する。
町へと向いながら拡大魔術で直接町の様子を伺っていると町の北側に到着したのに併せる様にカテジナ達を見つける。
だが、カテジナの衣服は至る所が血に塗れ赤黒く染まっており、その隣でキャローナが半狂乱になって泣き叫んでいた。
カテジナがキャローナを抱き抱えて暴れる彼女を押さえ込んでいる。
二人の前の細長い台にはカルチナが血塗れで両脚を失った状態で横たわっていた。
カルチナからは探知で得られる筈の緑色の反応は無く、灰色の反応すら無い。
このことが意味するのもは“死”であった。
次の瞬間、フロレアールは収納から魔道具と化している白きショートソードを自身の左右へと空を覆う程大量に出現展開させる。
そして町に近い黄色の反応一点毎に狙いを付けた上でショートソードを逐次飛翔させ続ける。
絶対時間の一秒あたり200本近いショートソードが目標へと奔る。
白き残像が一筋の線と成ってその軌跡を描きだす。
空が白き残像で覆い尽くされると共にチェーネの町の周囲や空には紅、黄、緑、白の色合いや濃さが異なる、数千にも及ぶ華が爆音に併せて瞬く間に次々と現れる。
絶対時間にして20秒足らずでフロレアールの全力探知の範囲内から一つの点を除いて黄色の反応は消え失せる。
だかま激情に駆られるフロレアールにはソレの存在を許容する事が出来無かった。
魔道具と化したシュートソードは必中であり刺されば少なからず致命にも届き得るダメージを対象に与える。
それはイビルボア程度の大きさであれば確実に屠る程ものである。
フロレアールは探知でソレを確認する。
ソレは門付近にいた巨大なムカデ型モンスターであった。
並の金属よりも硬質な地魔術製ショートソードが刺さらない相手と判った事から、展開していたショートソードを収納する。
ソレを一瞥したままフロレアールは腰から白メイスを外し己が右手に携える。
その次の瞬間には飛翔にてソレの眼前へと移動する。
自身を苛立たせるソレは鎌首を擡げていた。
フロレアールが暫くソレを睨みつけていると、漸くソレはフロレアールが眼前に迫った事に気付く。
グリムリーパービートは毒ブレスを見舞う為、己が頭を後ろへと反らせようと動き始める。
だが、認知加速状態のフロレアールにはソレが緩慢な動きでノロリノロリと徐々に動いている様にしか目に映らない。
フロレアールは相手の動きなど一切気にせずに相手の頭部目掛けて白きメイスを苛立ちに任せて全力で振り下ろす。
次の瞬間には相手の頭部は爆ぜ散り薄黄色の華を造り出す。
擡げられていた体節は地面へと叩き付けられ呆気なく潰れ体液が漏れ飛び散る。
地面はその衝撃で陥没し、潰れた体節は地面に深く埋め込まれでいた。
潰れ埋もれた体節は奇しくもその頑丈さが仇となり、残されたグリムリーパービートの4m程の体節が埋もれた体節を軸として文字通りうち回っている。
その様を冷たい瞳で眺めるフロレアール。
探知反応から黄色が消えた事を確認しても気が晴れることは一切無かった。
パルミーナを含めたチェーネ防衛戦に参戦した多くの者は目撃した。
グリムリーパービートが町へと入り込み、ギガントホーネットとスキュアーシュライクの大群が迫る中、轟音と共に白き天使が降臨したのだった。
チェーネ北側上空に突如として陽光を浴びて白く輝く大翼が現れる。
その中心には見目麗しい少女が白き装束を身に纏い、驚くことに宙に浮いていたのだった。
次の瞬間に大翼から放たれた幾百、幾千の羽根が白き軌跡を描き始めチェーネの空を白く染めあげる。
その次の瞬間に神の怒りとも思える爆音が響き渡ると併せ、瞬く間にギガントホーネットとスキュアーシュライクなどが討ち滅ぼされていた。
討ち滅ぼしたその痕として、白き軌跡が消えたその空を紅い華と白み掛った黄色の華で一面が覆われていた。
たが、そんな中、死神だけは健在であった。
その事を察した天使は己が翼を消し去った直後その姿が掻き消える。
次の瞬間に死神がいた筈の場所から轟音が響く。
皆が慌てて音が生じた方へと振り向くが、既に死神の姿は無く薄黄色の華と白きメイスを片手にした翼無き白き天使だけが宙に浮き佇んでいた。
死神は残滓として己が体節の一部をのたうち回らせ、自身が存在して居た事を証明していた。
グリムリーパービートを討ち滅ぼしたフロレアールは地面へと舞い降りる。
そしてカテジナ達の元へと駆け付けようと踵を返したところで、周囲の人々が白き天使の正体がフロレアールと気付く。
その瞬間に探知の反応から赤い点が消え失せる。
次の瞬間に防衛班の面々が一様に膝を着き両の手を胸の前で組み“御使い様”と声を上げて崇め始める。
その様に驚きを覚えるもフロレアールはカテジナ達の元へと向かおうとする。
たが、声を掛けられ引き止められる。
それはパルミーナであった。
「少し待ってくれないか。君が御使い様、紅華のフロレアールなのかい?。」
「邪魔です。今はアナタの相手をしてる時間はありません。」
そう言うとフロレアールはブースト状態に移行してカテジナ達の元へと向かう。
広場の目前でブースト状態を解き二人へと駆け寄る。
カテジナとキャローナがフロレアールに気付き駆け寄ってくる。
フロレアールは頷き、そのままカルチナの元へ赴き、その頬に触れる。
その頬は温もりが僅かに残っており、柔らかさも保っていた。
「二人は無事なのね。カルチナの容態は?。」
「......。」
「命令よ、答えなさい。カルチナは亡くなったの?。」
「...はい...。」
カテジナが涙を瞳に溜め、手を強く握り締め震わせながら短く答る。
その後は唇を噛み締め俯いき黙ってまう。
キャローナに至ってはその場で泣き崩れ嗚咽を漏らし始める。
その二人の様を見てフロレアールは覚悟を決める。
「二人とも辛いことを尋ねたわね。ゴメンなさい。他の死傷者の状況は分かるかしら?」
「カルチナを含めて死者は5名。内訳は冒険者1名、衛兵隊3名、重傷者は10名居ましたが神官などの治療魔術を受けて怪我は癒えてます。現時点では負傷者は居らず、多くの血を失った者がこの救護所で身体を休めています。」
「カテジナ、ありがとう。二人とも悪いけど少しここを離れるわ。今回の責任者は何処に居るのか分かる?。」
「防衛の指揮していたのは冒険者ギルドの支部長パルミーナになります。恐らくは未だ東の門付近に居るかと。」
「分かったわ。それと町の人全員に“至急この広場に集まるようにと私が命令してる”と至急伝令を回して頂戴。」
「!?、承知しました。フロレアール様、何をなされるおつもりなのですか?。」
「私も覚悟を決めただけよ。どうなるかは未だ分からないから悪いけど言えない。それじゃ頼んだわよ。支部長とやらのところに行ってくるわ。」
そう言い残すとフロレアールはブースト状態で東の門跡地に向かう。
時間的な猶予は多少あるとはいえ急ぎ町の全住人を集めなければならない。
フロレアールはパルミーナの元へ駆け付け声を掛ける。
「先程は失礼したわ。要件は何かしら?。」
「!?、き、君か。瞬間移動か何かのスキルなのか?。いきなり消えてたり、急に現れられると心臓に良くないのだけどね。」
「スキルに違い無いわ。詳細は答える必要も義理も無いわよね。質問はそれで終わりかしら?。」
「あぁ、君が先程消えた後に、ここに居る人達が君こそ紅華のフロレアール”その人で間違いないと教えて貰えたからね。」
「確かに私はフロレアールよ。貴女が今回の防衛戦の責任者であってるかしら?。それと冒険者ギルドの支部長と聞いたのだけど間違いないかしら?。」
「両方とも合っているよ。とはいえ防衛戦では采配ミスが多くてね。多くの死傷者を出してしまった。恐らくはその責を負わされ近々支部長の職も返上することになるかな。」
「今は先の話はどうでもいいわ。それじゃお願いでも命令でもどちらと捉えてもらっても構わないわ。一つ目は防衛戦に参加してない人を含めてチェーネ全住人を私の命令として広場に至急集めて。そして点呼を取って漏れが無いようにして頂戴。それと防衛戦の戦死者五名の亡骸を広場の一箇所に集めて頂戴。」
「...了解した。だが、一体何をするつもりなんだい?。まさかとは思うが戦死者の亡骸を燃やすとかは勘弁願いたいのだが。せめて家族との別れの時間くらいは設けてやりたいのだが...。」
「そんなことはしません。近くでこの話を聞いていた人たちも急で下さい。命令ですよ。」
そう言うと周囲にいた人々は、即座に誰一人として残ることなくこの場を後にする。
人が居なくなったことを確認したフロレアールは東を向向き、収納から料理を取り出して食べ始める。
そして未だにのたうち回っている巨大ムカデの残りの体節を火魔術で燃やし尽くす。
この状況下で食事を摂るのは人としてどうかとは自分でも分かっている。
それでもブースト状態の反動なので大目に見て欲しい。
この後に行おうとしている事では余計な雑念を完全に排しておかねばならない。
そう、必ず成功させなければならないのだ。
カルチナ達の蘇生を。




