055 チェーネ籠城戦⑤
本編に残虐な描写が含まれております。
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町の東側では激闘が繰り広げられていた。
地魔術で簡易的な壁は設けられたと言ってもギガントビートやフィアースボアの侵入を阻むには事を成さない。
街道に隣接する様に門が設けられていた事から門前には堀がなく苦肉の策で設置した柵も既に失われている。
フィアースボアは己の肩高程度の高さの急増の土壁を容易く飛び越え町への侵入を果たす。
ギガントビートに至っては障害物にも成らず這いずり回っている。
既に衛兵隊の数は半数近くまで減っており、多くの者は重症を負って支援班により救護所へと搬送されていた。
だが、門や瓦礫の下敷きになっている者は重量物の除去が困難な事もあり、未だ救助には至らなかった。
終わりの見えない状況の中、防衛班や救護班の一部が独自の判断で支援に駆け付けてくる。
支援班から状況を伝えられた事から攻撃の支援と現場での救助と治療を行おうとの考えであった。
素人とはいえ防衛班の三分の一に近い者が魔術を中心とした支援攻撃を開始したことで一時的にギガントビートを町の外へと追いやる事に成功する。
形勢が好転したと判断した一部の者たちが門や瓦礫の下敷きになっている者の元へ駆け付け重量物の除去を開始する。
それに気付いたパルミーナが叫ぶ。
「何をしている!!。敵はまだ残っているんだ。今すぐそこから離れろ!!。早く!!。」
「えっ!?。」
そこには重量低減魔術ディクリースウェイトを行使して、衛兵の上に覆い被さっていた一枚の門をずらし終え、未だた門を引き摺るように手にしていたカルチナが居た。
次の瞬間、カルチナは背後から迫っていたフィアースボアの突進を真面に受けて吹き飛ばされてしまう。
カルチナが持ち上げていた板は近くの建屋を直撃し建物が崩れ落ちる。
一方のカルチナは10m近く飛ばされ、ピクリともせず横たわっており地面には血溜まりができ始めていた。
カルチナは門の一部を地に着けた状態で持ち上げていたため、彼女は膝を屈めて太ももの前で門を掴み上げていた。
その状態で猛烈なフィアースボアの突進受けて吹き飛ばされた為、両手の人差し指から小指までの四指を、また両脚は太ももを中頃から切断し失っていた。
そして横たわる姿は背中が妙な捻れを見せており背骨の損傷すら伺わせている。
「か、カルチナお姉ちゃん...。」
それを目の当たりにした未だ幼さが見受けられる女の子が青ざめて立ち尽くす。
その後ろからカルチナを弾き飛ばしたフィアースボアが大口を開けて迫りつつあった。
「ちぃぃ、クソがぁ!!」
そう叫びながら立ち尽くしてす女の子を突き飛ばしたのはリサイクル組リーダー格の男であった。
周囲に“キシュ”との薄い金属が変形する音と共に“ベギボギ、ミチュミチュ”との骨が砕け肉や臓物が潰れる音が漏れ出る。
男の口から“ゴヴュピャ”との音と共に赤黒い液体が漏れ出す。
それに合わせるように男の胴体左側にかぶりついているフィアースボアが噛みちぎろうと頭を大きく振り払った事で男は飛ばされ地に落ちる。
地面に落ちた男は身に着けていた薄い金板鎧諸共、胴体左側をゴッソリと失っていた。
よく見知った人物の凄惨な姿を目にした防衛班の動きが止まる。
前線に立ち戦う者以外でも傷付き倒れる事実を目にした事で、自身たちが一方的に狩る側でなく狩られる側でもあることを否応なしに思い知らされる。
「フィアースボアを何としても引き離せ!!。女の太ももを縛って止血を!。救護班は急ぎ負傷者を搬送!。高位の治療魔術なら助かる可能性はまた残っている。防衛班の残り半分を救援に向かわせてくれ。」
パルミーナは何とか状況を持ち直そうと激を飛ばすと共に逸早く魔術を放ちフィアースボアを牽制する。
パルミーナは分かっていて嘘をついた。
カルチナや女の子を庇った男が助からないことを。
この町の神官は神聖魔術中級クラスのエクスヒール迄しか治療魔術を行使が出来ない。
エクスヒールならカルチナの切断した指や両脚の再生は叶うかもしれない。
だが、背骨か折れ砕ける程の衝撃を受けたカルチナは恐らく複数の臓器も損傷しており、エクスヒールでは救命の奇跡に届き得ないだろう。
ましてや男は心臓や肺など複数の臓器を欠損しており即死している事が見て取れた。
二人を救うには上級神聖魔術を、聖人や聖女の力による奇跡が無い限りは零れ落ちる命を救い上げることが叶わないことを理解していた。
それでも彼女は残る者たちを救い、残る者が生き残る為に必死に足掻く。
パルミーナの激に呼応した者たちが己自身が出来ることを懸命にこなし始める。
カルチナをはじめ、門や瓦礫の下敷きになっていた負傷者が次々と救護所へと搬送される。
何とか侵入を許したフィアースボアの最後の一頭を倒したところに応援の防衛班が到着する。
疲弊した先発の防衛班と交代を指示しようとしたパルミーナがあるモノに気付き彼女の動きと思考が止まる。
急増の土壁の外でフィアースボアの群れが吹き飛び喰われ蹂躙されてた。
フィアースボアの侵入が止んでいたのはソレの影響だった。
そこには死神が君臨していた。
それは死神の名を関するAランクモンスター、ギガントビートの上位種グリムリーパービートであった。
Aランク討伐対象の中でもトップクラスの強さを誇り、万全の準備をした上で討伐に挑まなければ下手なSランク討伐対象を相手取るよりも苦戦を強いられる程の強さである。
頭部は並の金属武器では傷を負わすことは叶わず、体節もギガントビートの頭部並みの強度を誇るため、通常の武器による攻撃の効果は非常に薄い。
強靭な生命力も更に増しており、欠損部位ですら数日で再生してしまう程であり、下手な位置で体節を分断すると二匹に増えるとの逸話もあり、焼き殺さない限り死なないとさえ云われる程である。
注意すべきは、牙の毒に加えて、口から放たれる液体とガス混合の毒ブレスである。
その毒液は触れた皮膚を焼き、目に入れば即座に失明に至る。
毒ガスは目に触れるだけで激痛を発し涙が止まらなくなり、一度吸い込めば喉から気管が焼かれ激しい咳と痛みと共に呼吸困難に陥る。
唯一の救いは毒が致死性では無い点だが、その毒を味わった者の一部は苦しみに耐えかねて自死を選び、精神を病んで廃人と化した者も多くいる。
姿を現した個体は体長は6mに迫る程と同種の中でも最大クラスの大きさを誇っており、体節の所々の色が薄く再生して間も無い様に見受けれる特徴を有している。
死神がフィアースボアたちで満足して引き上げてくれる事を願いながら、パルミーナは折れそうな心を懸命に繋ぎ止める。
「今からありったけの解毒ポーションを付近に取り出す。残りの衛兵隊と冒険者は急ぎ複数拾え。布に染み込ませて口を覆うマスクの様に着けろ。急げ!。」
そう言い放つと同時に自身の周囲にありったけの解毒ポーションを取り出し、自身も大きめの布に解毒ポーションを染み込ませ頭の後ろで結び止める。
それを見にした衛兵や冒険者たちは行動に移る。
次いでパルミーナは防衛班に対して指示を出す。
「防衛班は後から来たものは火魔術での攻撃準備を、先発の者たちは後方へ移動し風魔術で街道方向へ緩やかな風の流れを維持してくれ。魔術が不得手なものは悪いが魔術を使うものたちの前で防御を担ってもらう。」
衛兵や冒険者が慌ただしく解毒ポーションを拾い布に染み込ませる様を見た防衛班の人々に緊張が走り指示に従い動き始めた途端、後方に移動しようとした者たちが空を見上げたまま動きを止める。
パルミーナは慌ててその方向に視線を向ける。
そこには既に形が判る程に近付きつつある黒い無数の影が前日よりも広い範囲に渡って空を覆っていた。
デットライン(じかんぎれ)であった。
今からでは人数が膨れ上がった防衛隊全員の待避は間に合わない。
加えて多くの負傷者や戦死者の亡骸を捨てて逃げる訳にはいかなかった。
そんな事を逡巡していると後方から影が差し込んでくる。
パルミーナは折れてしまった心で再度後ろを振り向く。
そこには文字通り鎌首を擡げ土壁を越えんとする死神がいた。




