054 チェーネ籠城戦④
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チェーネの町はスタンピードの第三波の到来を迎えていた。
押し寄せる魔獣やモンスターの数は第一波のそれを軽く凌駕していた。
されどもチェーネの人々もただ座して待ち構えていた訳では無い。
第一波にて苦渋を舐める羽目になったが魔獣やモンスターの種類は判明した。
対策として冒険者が中心となって行った町を囲む石壁の増強や追加した返し構造が項を成しており、敵の侵入を阻んでいる。
第一波の折に侵入を許した体長2m程の大型ムカデのギガントビートが昨晩と同様に堀に落ちた餌に群がり貪り喰っており、一部の個体が深さを増した堀や石壁を難なく這い上がる。
しかし、新たに設けられた石壁の返し構造に阻まれ直接は乗り越える事が叶わない。
稀に返し構造に阻まれた複数のギガントビートを足場代わりとし、返し構造を乗り越えてくる個体が現れる。
だが人数が激増した義勇軍により即座に発見され、町への侵入を許すこと無く撃退・駆逐されていた。
その義勇軍たるチェーネの人々は徐々にトランス状態へと精神が高まりつつあった。
それは、慣れない戦闘による興奮。
それは、既に怨敵と認識している相手を撃退したことによる達成感。
それは、御使い様への奉仕貢献との思い込みによる高揚感。
そう、彼らにとっては既にスタンピード防衛戦では無かったのである。
この戦いはチェーネの人々にとっては、御使い様の怨敵たる侵略者との聖戦と化していた。
防衛班に配属された者たちは我先にと石壁を乗り越え姿を表した怨敵を攻撃する。
怨敵を撃退して得られる様々な脳内麻薬に打ち震え、恍惚とした表情を浮かべつつ己の身と血を更にたぎらせる。
それを目の当たりにした未だ功績無き者は一様に辛酸を舐めた表情を浮かべ悔しがる。
既に功績を立てた経験者は、その悔しがる様を見て「まだ未経験なの、お可愛いこと」と蔑んだ目で一瞥する。
経験者たちは優越感を覚え更なる快感が脳内に齎される。
こうして経験者たちは更なる快楽を得る為に我先にと獰猛に獲物を追い求め出していた。
支援班は逸早い敵の発見や伝令による己が活躍や成果を誇り悦に浸り、周囲からの賞賛に酔いしれることでその感情を昂らせていた。
こうして防衛班と同様に己が功績の数で優越を感じ始めたことで、支援班も互いに競り始めるのであった。
その様を観ていた数少ない正常者のパルミーナは、何とか暴徒化すること無く第三波乗り切れることを願って止まなかった。
一方の救護班は順調に進む防衛戦に負傷者が全く発生しない為、活躍の場をまるで見い出せていなかった。
始めはヤキモキとしていた救護班の面々だったが、今現在は恍惚とした表情を浮かべている。
それは中級治療魔術を行使可能なカテジナが班のリーダーとして配置された為である。
奇しくも女性だけで構成されていた救護班の面々は教育により早々に堕ちていた。
カテジナは希望する者とは熱い口付けも交わすなど救護所だけがある種の別なピンクの雰囲気に包まれていた。
なお、この折に既婚者などからの異性との交際や結婚を懺悔として打ち明けられた狂信者は、自身が(一方的に)御使い様の導きから悟り得た(と思い込んでいる)ことを伝える。
自身は悟りを得て百合に生きると決めたが、それは他者の恋愛観を強制するものではあらず、心の枷を、心の奥底に隠している本心を解放することが真理であると。
己の本心に逆らうことなく、素直に従い性別という枠に囚われずに人を愛せば良いのだと。
男女が交わり子孫を残すことは自然の摂理で尊いことであり決して卑下するべきものでは無いと教え説く。
この時、ジェンダーフリーなバイ・セクシャルな人々が表立って世に解き放たれたのであった。
その様に説き伏せ洗脳した狂信者たったが、その脳内は一部が違っていた。
凡俗たる信仰心が足らぬ者や不敬な者たちは男女で子を成しても何の問題まありませんわ。
何故なら私は既にフロレアールの子供を孕む未来が確定しているからです。
きっとフロレアール様なら性別すら超越して、必ずや私に子種を授けて下さる筈です。
それは狂信者仲間も違いなく、必ずや二人の愛の結晶が授けられます。
私にはその未来がハッキリと見えております。
閑話休題
順調と思われていたスタンピード第三波防衛戦だったが前日とは異なり苦境に陥りつつある者たちがいた。
それは衛兵隊が防衛する門周辺であった。
チェーネの町を取り囲む周囲の石壁に返しを設けた事でギガントビートが石壁を這い上がり侵入する事を阻んだことで、奇しくも返しが途切れる門側へと一部のギガントビートが流れ込んたのである。
門や隣接する石造りの衛兵の待機所や物見塔には残念ながら返しが設けられておらず、ギガントビートは易々と這い上がる。
衛兵たちの士気も義勇兵たちと比較しても遜色すること無く非常に高い状態であった。
加えて門の死守己の責務を遂行するとの自尊心が自分たちのみで、この苦境を乗り切るべきだと訴える。
こうしてチェーネの町は第一波とは一転して東側の門周辺で激戦が繰り広げられる事となる。
北・西・南の三面側の防衛に集中していた討伐軍がその事実に気付く事は無かった。
第三波到達から六時間近くが経過し、空に薄らと明るが感じられ始めたとき東側の門付近から轟音が響き、篝火が立ち昇る土煙を照らし出す。
衛兵隊は門内へと侵入を果たしたギガントビートの討伐、そして門や待機所、物見塔を乗り越えようとするギガントビートの撃退に注力し過ぎていた。
前日は門前に到来する魔物やモンスター自体が少なかったことから、眼前の敵に気を取られ、意図せず門前への対処が疎かになっていた。
土魔術で増強された分厚い木製門が隣接する待機所と物見塔の一部と併せて轟音と共に吹き飛ぶ。
崩れ落ちる石造りの待機所や物見塔の奥からフィアースボアの群れが姿を現したのであった。
パルミーナは轟音と土煙から東側の門が突破されたと即座に理解する。
完全な油断、そして冒険者として培った経験が引退後一年にも満たない期間で訛っていた事を痛感する。
今宵の第三波は、自身が指示した石壁の増強と返しが項を成し、義勇兵が激増した事て町へのギガントビートの侵入は一匹も許していなかった。
パルミーナは知らず知らずの内に優越感にひたっており、己自身も防衛班の雰囲気に飲まれていた事を知る。
順調な展開から、支援班設けた事で衛兵隊の状況も彼らが当然確認していると思い込んでいた。
そして問題が有れば報告が入り、報告が無いのは逆に問題が生じていない証と捉えていた。
支援班は若い者が傷つかない様に編成したことから言われた事に従順であり、逆に指示を受けていない事は行っていなかった。
これは防衛隊の総指揮をしていた自身の完全な失策であった。
パルミーナは悔やむよりも衛兵隊の救援を急がなければならないと意識を切り替える。
「防衛班は引き続き石壁を乗り越えようとするギガントビートの駆除に専念。冒険者は私と共に衛兵隊の救援に向かう。支援班の半分は冒険者の後に続き負傷者の搬送作業に当たれ。」
パルミーナと冒険者たちが衛兵隊の元へ駆けつける。
既に複数の衛兵が地に伏せ倒れており、安否は定かではない。
観音開きだった門は吹き飛び待機所や物見塔は完全に崩れ去っており、倒れてる一部の者はその下敷きと成っている。
町側へと侵入を果たして活動している個体は、成体のフィアースボアが五体、ギガントビートは四体、町の外側では複数のフィアースボアがギガントビートを喰らっており、他にも両者が戦闘を繰り広げている。
「冒険者は体力とマナの回復促進ポーションを服用。冒険者たちはフィアースボアの討伐を。ここを守りきらないと後がない。奮戦を期待する。救護班は負傷者を救護所で搬送。私は地魔術で応急の壁を築く。」
パルミーナは、そう言い放つと自身も体力とマナの回復促進ポーションを服用する。
パルミーナは顔を歪ませる。
不味くて苦いポーションの為だけでは無く状況が最悪であった。
空が白ばみ始めたが餌場への門戸が開け放たれた今となっては魔獣やモンスターは早々に引くことは無くなる。
加えて昨日と同じならギガントホーネットやスキュアーシュライクまでもが数刻のうちに押し寄せてくることになるだろう。
ギガントビートやフィアースボアは屋内にいても建屋自体を容易に破壊する。
こうなっては昨日の様に建物内に逃げ込んでもヤリ過ごせる可能性は極めて低く、少なくない犠牲者が出ることになるだろう。
こうして義勇兵たるチェーネ住人たちが望んだ殲滅戦へと一日遅れで突入したのであった。




