052 チェーネ籠城戦②
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「なん...だと!?。」
朝日に照らされ明るさを増しつつある空に映る数多の黒く小さい影。
それは徐々に大きさを増し、それが迫りつつある事を否が応でも理解させる。
そうそれは早すぎる第二波の到来であった。
迫り来るモノ達は大型昆虫モンスターのギガントホーネットと大型鳥類魔物のスキュアーシュライクの2種であり双方が飛翔型。
つまりは空堀や石壁で侵入を防ぐ事が適わない防衛戦では最悪の相手である。
ギガントホーネットはDランクのモンスターであり体長は40cm程度、気性はやや獰猛、大きく鋭いキバと尾にある毒針には注意が必要となる。
だが、ギガントビートと比べると生命力は圧倒的に低く、飛翔してるとはいえ動きはやや緩慢な為、風魔術や地魔術で有効打を与え易いく討伐難易度は低いと言える。
肉食性で人や家畜などを襲うこともあるが基本的には他の生物の遺骸を運搬可能な大きさに切り分け巣へと持ち帰る習性がある。
注意点としては戦闘となったなった際には即座に打ち倒さなければ、フェロモンを発し仲間を呼び寄せる点である。
一方のスキュアーシュライクはCランクの魔獣であり、頭から脚先までの体長は1m程、羽を広げた幅は2mを優に超え、動きは素早く、鋭利な爪は容易く肉を裂き、鋭い嘴は容易く金属製の鎧をも貫通する。
気性は獰猛で生きている獲物のみを捕獲し早贄を行う習性を有している。
人間も襲われる事があり、成人の小柄な女性や子供が被害に見舞われる事があり、生きたまま樹木や鋭く尖った岩などに串刺しにされる凄惨さから恐れられていた。
尤も人間が襲われるよりは家畜が襲われ討伐依頼が出される傾向が高いといったところであろうか。
不幸中の幸いとしてはギガントホーネットはスキュアーシュライクの餌となる捕食対象生物であり、双方から挟撃される恐れは低いといえる。
加えてギガントホーネットの餌は空堀に溜まっている魔物やモンスターの遺骸があることから、チェーネの人々が襲われる可能性は低いといったところであろうか。
幸い時刻は夜が明けて日が登り始めて僅かしか経っておらず、冒険者と義勇兵以外の住人たちは門扉を固く閉ざした家の中から出てきては居ない。
冒険者や義勇兵たちからなる防衛隊が迫り来るギガントビートとスキュアーシュライクに何時でも襲い掛かれる様体制を整えつつ獲物を見定め警戒しながらパルミーナの指示を待っている。
だが、討伐隊の狂気じみた様子にパルミーナは嫌な予感を覚えて撤退の判断を下す。
「討伐隊は冒険者ギルドへと退避する。悪いが冒険者は遠回りになるが町中を巡りながら住人たちが外に出ぬ様、声掛けをしながらギルドへ向かって欲しい。ヤツらは建物内にいる限りは襲ってくる事は無い。周辺にある餌を持ち去れば第二波はヤリ過ごせる筈だ。我らは無駄な損耗を避け今夜半からの第三波に備え体制を整える。」
「チィィ、殺らないのか。」
「クソッ、御使い様に報える機会なのに。」
「ヤリ過ごす?殲滅の間違いだろ。」
「そうだ、俺たちは戦える、殺れる筈だ。」
「御使い様の為にもヤツらを討ち滅ぼすんだ。」
士気が高まり過ぎ、興奮状態に陥った防衛隊の面々がパルミーナの撤退指示にあからさまに不満を口にし、徹底抗戦の殲滅戦を唱え始める。
防衛隊の大半は町の住人であり戦闘の経験など殆ど無い素人同然の者たちである。
彼らは間違いなく夜通しの戦闘で体力やマナを消耗しており、このまま迎撃戦を始めれば間違いなく全滅する。
パルミーナは、普段は温厚な一般人に過ぎない彼らが継戦を訴える事に驚きと恐怖を覚える。
それは狂戦士が死してでも相手を討ち滅ぼそうとしている様に見受けられてならない。
パルミーナが無謀な戦闘を止めようと改めて説得を試みようとする。
彼女が言葉を発する前に先の演説をした女冒険者が口を開く。
「皆様、落ちいて下さい。私めも日頃から御使い様から御指導を賜っておりますが冷静さを欠いてはいけません。御使い様は私共が無用な血を流すことを御望みになろう筈はありません。支部長様が仰る通り、第三波に備え英気を養いましょう。」
その程度で止まるものかとパルミーナが再度声を出そうとするも討伐隊は落ち着きを取り戻し、各々が行動を開始する。
パルミーナは悪い夢でも観ている様であった。
あの女冒険者が説き伏せる毎に討伐隊の精神状態が変調し思考が誘導されている。
原因は女冒険者が何らかしらのスキルを用いているかとも考えたが、自身に影響が無い点が腑に落ちない。
パルミーナが立ち止まり逡巡してるのに気付いたカルチナとキャローナの二人が近付いて来る。
「パルミーナ支部長、如何されましたか?。私たちも早くギルドに戻りましょう。このままだと襲撃を受けてしまいますよ。」
「!?。カルチナ君とキャローナ君の二人か。すまない、君たちは何とも無いのかい?。それにあの女冒険者は誰なのか分かるかい?。」
「?。何ともないって何がですか?。支部長こそ大丈夫ですか?。先程の方は金百合様、御名前はカテジナ様でライジン様のパーティーメンバーになります。」
「そうか..。、変なことを聞いて済まなかった。声を掛けてくれてありがとう。私たちもギルドへ向かおう。」
そう言い終えたパルミーナは、カルチナとキャローナと共にギルドへ向けて駆け出したのであった。
討伐隊の面々がギルドへと次々に戻ってくる。
町の住人たちに外出禁止を伝え回った冒険者も全員戻りったこ事から第二波が到達仕切る前に撤退を終えた事にパルミーナは安堵する。
防衛隊の面々に労いの言葉を掛けつつ、有志の食料提供を呼び掛ける。
皆は落ち着いてはいるが士気が高い状態を維持しており、食材の提供を渋る者は誰一人として居なかった。
パルミーナは併設されてる食事処兼酒場の設備を解放し、調理が得意な者たちが炊き出しを開始し、討伐隊の面々代わる代わる食事を始めていた。
カテジナ、カルチナ、キャローナの百合百合教の狂信者たちが同じテーブルで食事を始める。
するとパルミーナが「同席してもいいかなと?。」尋ねカテジナが「構いませんわ。」との応えを得た後に空いている席に着く。
「カテジナ君だったかな、先程はありがとう。君のお陰で討伐隊の士気が高まったよ。それに興奮気味だった討伐隊の面々も落ち着きを取り戻せた様だ。」
「カテジナで合ってますわ。そうですか、それは良かったですね。私はフロレアール様がこの町に戻られる事実と賜った教え伝えただけですわ。」
「君が謂う“御使い様”は“紅華のフロレアール”という事で合っているのかな。残念ながらすれ違いになって会えなかったものでね。随分と傾倒してる様だが良かったら彼女の事を教えてくれないかな?。」
「私如きが口にするのはおこがましいので辞退致します。フロレアール様の素晴らしさは言い表すことは不可能です。強いて言うのなら、私含めた、カルチナとキャローナの三人は身も心もフロレアール様に捧げた程、素晴らしい筆舌に尽くし難い御方なのです。」
「そ、そうか。それ程の人物とは是非ともお会いしたいものだね。ん?、この二人含めて身も心も捧げたったて言ったのかい!?。」
「そうですわ。言葉通り、フロレアール様から御寵愛を賜りましたわ。そうですわね、二人とも。」
「はい、金百合様。黒百合様から御寵愛を賜りました。そして私たちの心の枷を解き放って頂いて真の自由と愛を手にする事が叶いました。ね、キャロちゃん。」
「確かにフロレアール様に身も心も捧げ御寵愛を賜りました。それに私も己の心の奥底深くに隠していた本当の気持ちに気付かせて頂き、愛する大切な人を悲しませずに済んだことを心から感謝しています。」
そう言い終わるとカルチナとキャローナは見つめ合った後に熱い口付けを交わし始める。
「!?。二人とも何をしてるんだ!?。こんな公衆の面前で、それも同性で、何を考えているんだ!!。」
「支部長様、落ち着いて下さい。公衆の面前だから、同性だから、それの何が問題だというのですか?。その凝り固まった偏見こそ正すべきものだと私は信じて疑いませんわ。」
「そ、それが御使い様の教えなのかな?。」
「いいえ、違いますわ。コレはフロレアール様から御寵愛を賜った事で私自身が悟った真理です。これだけは何人たりとも否定することは許しません。貴女様もフロレアール様の御尊顔を拝見すれば自身の無知を理解されると思います。」
「そ、そうか、それは済まなかった。先程の発言は謝罪させてもうよ。それでは疲れているところ色々な話を聞かせてくれて感謝する。ありがとう。しっかり食事を摂ってゆっくりと休んでくれ。」
パルミーナはカテジナの迫力と周囲の討伐隊の面々から発せられる己を責める様な視線と嫌味に耐えかねて、己の安全地帯たる支部長室へと駆け込む。
パルミーナの心の中は、三十年近く生きてきた己自身の常識が誤っていたのか!?との不安と見知った二人の職員からの予期せぬカミングアウトで大きく揺れ動き混乱に陥っていたのであった。




