051 チェーネ籠城戦①
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スタンピード発生の報が齎され慌ただしく防衛の準備が進められたチェーネの町。
スタンピードは多くの魔獣やモンスターの活動が活発となる夜半から明け方に発生し数多の魔獣やモンスターが押し寄せる事が多い。
その一方で日中は波が引いたように押し寄せる数は少ないものとなる。
この事から基本的には夜を乗り切る事が叶えば当日の防衛は成功となる。
急遽編成されたチェーネ防衛隊は在留衛兵25名、冒険者19名、住人やギルド職員から成る義勇兵53名の計97名。
衛兵達は構造的に突破される可能性が一番高い門前に集中して防衛に当たる。
独立した部隊である衛兵は、門を死守する責務を負っており独自の判断で行動することになる。
その為、冒険者と義勇兵で魔獣やモンスターの侵入を阻み町全体を守らなければ成らない。
不幸中の幸いとしては義勇兵の殆どが魔術を得意とする者たちであった為、冒険者が指揮を取り、魔術を有効的に用いる専守防衛に努め、侵入した魔獣やモンスターの討伐に関しては冒険者が随時対応することが基本方針となった。
その晩、スタンピードの第一波が町へと到達する。
幸いにも事前対策の空堀の拡大と掘り下げが項を奏して周囲からの魔獣の侵入は防がれていた。
他の魔物やモンスターに追い立てられた、比較的弱い魔獣が深さを増した空堀に落ちて傷を負い、運が悪いモノは命を落とす。
その血の匂いに誘われたモンスター、大型ムカデのギガントビードが深い空堀を苦ともせず駆け下り、堀の底で餌に貪りつく。
餌を食べ尽くした複数のギガントビートが空堀を這い上がり石壁を乗り越えて姿を露わにする。
ギガントビートはサイズにより異なるが討伐ランクはB~Cと高いモンスターであり、今姿を現してあるモノ達は体長2m程度、Cランクに分類される強さであった。
ギガントビートは攻撃性が非常に高く獰猛、動きは俊敏、牙には毒を有し、体節毎に一対の硬く鋭い脚にも注意が必要な上、生命力がとても高いモンスターである。
頭部は非常に硬く頑丈な為、狙うは頭部よりは硬さが劣る体節部となるが多少切り刻み潰した程度では屠る事は出来ない。
また、頭部を失っても数十分単位で残された節足部が激しく動き回り続け周囲に被害を齎す為、厄介なモンスターとして知られている。
「ギガントビートには火魔術が有効だ。石壁に等間隔で篝火が設置してある。魔術が得意な者は火魔術で攻撃を。不得手な者は無理に攻撃をせずに石壁を越え町に侵入するのを長手の松明で阻害しろ。」
ライジンが指揮を取り、魔術が得意な者が多い義勇兵が姿を現したギガントビートの町への侵入を阻もうと奮戦する。
大半のギガントビートは頭部を焼かれ空堀へと落下し絶命するか、致命傷を負う前に退散する。
だが、限られた人数で町全体を囲む石壁全てを網羅する事は叶わず町へ侵入する個体が出始める。
侵入した魔物は冒険者が中心となり応戦し、時に義勇兵も加わり討伐する。
この様な光景が夜を徹して町の至る所で繰り返され何とか夜明けを迎える。
町へ侵入したギガントビートに応戦した冒険者を含めた義勇兵の複数名に負傷者は出たものの幸いにも死者は居なかった。
随時、神官や治療魔術を行使出来る者が負傷者の救護に当たり、全員の傷は問題無く癒されていたのだった。
だが、受傷者の士気は著しく低下していた。
その原因は夜通しの戦闘だけでは無く、ギガントビートの毒であった。
ただでさえ負傷に慣れていない義勇兵に限らず、怪我には慣れているはずの冒険者たちですら明らかに憔悴した様が伺える。
ギガントビートの毒は人間の指よりも太い牙を肉に深く突き立てられた上で注ぎ込まれる。
腕や足に噛み付かれ毒を注ぎ込まれる前に噛みちぎられた者は未だ運が良かったと言える。
ギガントビートの毒は致死性では無いものの受けた者には信じ難い焼ける様な激痛が齎される。
通常の負傷は時が経つと自然と痛みが和らぐが、ギガントビートの毒は時間が経っても激痛が治まることは無く、その痛みは数日間持続する。
その毒を受けた部位は大きく腫れ上がり関節部に受ければ著しく行動が阻害され、胸などを噛まれた際には呼吸困難に陥り、治療が間に合わなければ苦しみ抜いた末に命を落とす事だろう。
その耐え難い痛みを味わった者の多くが悶え苦しみ、のたうち回って失禁までしていた。
例え解毒を受け傷を癒されようともその恐怖と苦しみの記憶はトラウマとして強く心に刻まれる。
その様子を自身も防衛戦に参加し指揮を執っていたパルミーナも目にしていた。
初戦にして6名がギガントビートの毒を奇しくも味わっており、これその者たちは以降の戦闘では著しく戦意が削がれることになる。
たかが6名とはいえ、衛兵を除いた戦力は僅か72名。
たった一戦で一割近い者が戦闘困難となった。
防衛隊の頭数は変わらないとは言え、今後は肉体的にも精神的にも疲労が積み重なり動きは悪くなり、戦闘困難となった者の分だけ戦力が低下し続ける。
今日の日中に改めて町の住人達に義勇兵を募る予定はあった。
だが、初戦に名乗り出なかった者たちが毒を受けて憔悴した者の姿を目にした後に義勇兵として名乗り出るとは到底思えなかった。
恐らく今夜半に押し寄せるスタンピードでは今回の倍近い者がギガントビートの毒を味わうことになるだろう。
そのペースで損耗が続けばと残された継戦能力は良くて三日、いざと成り己の命が危機に晒された住人が奮起して防衛に加わっても精々五日といったところであろうか。
騎士団が準備を終えてフォゲーラの街を発つのは、恐らく今から数刻後の事だろう。
パルミーナには、どう考えてみても騎士団到達迄にチェーネの町が壊滅する未来しか思い描けなかった。
そんな中な、一人の未だ若い女冒険者と二人のギルドの職員、しかも受付嬢が演説を始める。
それは、カテジナとカルチナ、キャローナの百合百合教の狂信者達であった。
「皆様、今宵の防衛は辛くも犠牲者を出さずに朝を迎える事が叶いました。その最中に傷付き毒に犯され苦しんだ方々も多く居られます。ですが、私共はチェーネの町を守り抜かねば成りません。御使い様は町にお戻りになると御約束をして発たれました。私共は愛する者たちを守り抜き、御使い様が御帰りになる迄このチェーネの町を守りきり、御使い様を向かい入れねばなりません。どうか今一度勇気を奮い起こし立ち上がって下さいませ。」
「紅華のフロレアール様は早ければ今日、遅くても7日後迄にはお戻りになると仰られておりました。皆様、今暫くの辛抱です。必ずやフロレアール様が駆け付け、私たちをお救い下さる筈です。」
「そうです。黒百合様は、お約束を違える方ではありません。私たちが諦めなければきっと希望を賜れ、お救い頂ける筈です。」
その声を黙って聞いていた防衛隊の面々の顔付きが明らかに変わるのをパルミーナは目にする。
それは毒に犯され戦闘困難となった者ですらその苦しみを忘れ去ったかの如く高い士気を感じさせる。
「一体何が起きたんだい?。紅華って奴の名を出した途端に豹変しちまったよ。これなら騎士団が到着するまで持ち堪えられるかもしれない。だがコレは明らかに異じy」
突如として起きた信じ難い状況にパルミーナは思わず己の心境が口から漏れ出ていたが、はたと気付き口を閉ざす。
そう、この状況は明らかに異常、常軌を逸したものである。
良く知るカルチナとキャローナの変わり様も然ることながら戦闘困難の変わり様が狂気じみている。
迂闊なことを口にすれば己の身にも危険が及ぶかもしれない。
紅華のフロレアール。
キャローナ達からの報告や討伐資料からイビルボアを一撃で屠ったとされる新人冒険者にてチェーネの小さき英雄。
どれ程のカリスマを持っているのか、それとも何らかしらのスキルが人々に作用しているのか、その真偽は定かでは無いが末恐ろしいモノを感じてる。
パルミーナがそう考えているその最中、予想だにしなかった事態が発生するのだった。




