047 アイキャンフライ
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市場へと到着したフロレアールは予約していた食料品や香辛料などを購入し逐次収納する。
そうしてイビルボアの討伐で得た金貨250枚との大金を得てから僅か一時間も経たずに残り50枚となってしまう。
とは言えども普通に暮らせば数年は優に暮らせる食料を備蓄しており、魔術により住環境も難なく用意できるフロレアールにとってはさして気になることでは無かった。
チェーネの町での当初の予定を終えたフロレアールは町を後にする。
門番の衛兵さん達が改めて御礼と謝辞を伝えてくれたのが思いがけず嬉いものであった。
チェーネの町を後にしたフロレアールは街道を北へと向かう。
時刻は既に正午を大きく過ぎていたことから基本ステータス内で可能な最大速で駆け進む。
五分程でチェーネの町が探知圏外となり、付近に人の反応も無いことを確認して山方向の西へと進む向きを変える。
そうして街道が探知の範囲から消えた頃フロレアールは駆けることを止める。
基本ステータスだけで駆け続けても山の麓に到着するのが夕暮れ絡みになると思われる事から実験も兼ねてブースト状態での移動を開始しようと考えであった。
とは言えども簒奪値が大きく、3.5倍以上育ってしまった事からトラウマさんが「アイルビーバック」と脳内を駆け巡る。
フロレアールは既存の認識加速であっても以前ほどの恐怖は味わうことは無いだろうと覚悟を決める。
次の瞬間フロレアールが立っていた地面が僅かに爆ぜてその姿が掻き消える。
フロレアールは認識加速で引き伸ばされた意識の中で体験する。
“アイ・キャン・フライ”そうそれは人が物理的に宙に舞い上がるものだということを。
ブースト状態の全力で駆け出して速度が上がりつつあった最中に意図せず身体が宙に浮き上がったのであった。
フロレアールは当然意図せず宙に浮き上がりバランスを崩した事も相まってパニック陥り認知加速の維持に失敗する。
そうして人生二度目の自損事故の憂き目に遭うのであった。
トラウマさんが「ウェルカム」と再び脳内を嬉しそうに駆け巡る。
デジャブを感じる自損事故だったが跳ね転がり続ける体感速度は以前の比ではない。
そうして前回よりも遥かに長い時間と距離を跳ね転がり続ける事になったのであった。
転がり終えたフロレアールは横たわった姿のまま涙を流していた。
それは上だけに留まらず下からも溢れ出ていたのだった。
幸いにも不変性が付与され常時発動しているローブとマントは共に無事であった。
フロレアール自身にも簒奪値による凄まじい耐久により怪我一つ無い。
被害を強いて挙げるなら砂埃に塗れた己が頭と口内、そして傷付いたた自尊心であろうか。
暫くした後に落ち着きを取り戻し泣き止んだフロレアールは浄化魔術を己に掛けながら考える。
なぜ自身が浮き上がり宙を舞ったのかを。
今迄に生きてきた中で経験した事を思い起こす。
その中から強風で吹き飛ばされかけた際に身体が浮き上がりそうそうな感じを覚えた事を思い出す。
その事から移動速度が増加した事で相対的に向かい風となる空気の抵抗が起因して浮き上がる力が生じたものだと結論付ける。
原因が判れば対策となるが自身を飛び難くするのには重量を増せば事足りるとの考えであった。
だが体重を増やした事で移動速度が落ちてしまっては意味も無く、ましてや乙女のプライドが体重を増やす行為を認めない。
そこでフロレアールはフィアースボアの群れを倒した際の障壁を思い出す。
その際には飛び散る脳髄や血の雨を防ぐ為に移動方向に半球状の風の壁を設けていた。
だが今回は可能な限り空気抵抗を抑える為にその形状を円錐へと変更する。
もう流す涙も尿も尽きたことから覚悟を決めて再びブースト状態で駆け出す。
先程とは異なり速度を増しても身体が浮き上がる感覚は生じず最高速度に達することに成功する。
だが認識加速は目に映る流れるような景色から明らかに激増した移動速度に追い付いていないと感じらる。
この速度で移動しながら攻撃を当てたり回避するのはフロレアールの技術では困難と思われる。
その事から認知加速の性能向上も予定通り行う必要を改めて意識し決意する。
そうしながらフロレアールはブースト状態を維持したまま山の麓まで辿り着いたのであった。
山の麓に辿り着いたフロレアールは収納から調理済みの串焼きや串揚げ、肉巻きおにぎりを取り出しては食べを繰り返しながらある事を考えていた。
先程は奇しくも宙を舞う事になり自ら飛び跳ねた時とは異なる浮遊感に恐怖を覚えた。
だがよくよく考えると鳥や昆虫等は宙を自由に舞い飛んでいる。
それに直接見た事は無いが巨躯を誇る最強の生物たるドラゴンも宙を自由に駆けるとの御伽噺は有名であり数多く聞いていた。
それならば己も魔術を用いれば宙を自由に飛ぶことが可能ではないかとの結論に思い至る。
先程は己が進む方向にある空気が抵抗となり相対的な向かい風となり身体が宙に浮いた筈である。
その事から己に強い風を纏わせる事で宙を飛べるのではないかと思い付く。
だが、その瞬間にトラウマさんが「そんなに私に早く再会しいたいの」と少し照れながら脳裏に現れ思い留まる。
途端にフロレアールの危機感値センサーがエマージェンシーとの警報を発し始める。
フロレアールは己自身を実験体にとしていきなり飛翔魔術を試すことは止めることにする。
しかし、他の実験体も居ないことから収納から木を一本取り出し、その枝葉を落として巨大な一本の杭を造りだす。
作り出した巨大な杭の先端に円錐状の障壁を設置すると共に飛翔の影響で杭が壊れない様に不変性の魔術を付与する。
そして思い付いた風魔術で己が行使可能な最大速力を纏わせ杭を山へと解き放つ。
その瞬間フロレアールの脳裏にトラウマさんが現れ「やっぱり好き者ね」と言い残し消え去る。
杭が凄まじい勢いで飛び立つと共にフロレアールは発生した爆風の直撃を受ける。
小柄なフロレアールは易々と吹き飛ばされ遥か上空まで舞い上がったのであった。
その高さから死を意識したフロレアールは反射的に認識加速を行使し地面に衝突するまでの体感時間を最大限引き伸ばす。
先ずは己が身体に不変性の魔術を付与して落下の衝撃に備える。
即死の危険性は解消されたとは言えども好き好んで上空からのフリーフォールで地面に衝突したいとは思わない。
フロレアールは徐々に迫り来る地面との相対距離がこれ以上縮まらない様、必死にイメージして魔術を行使する。
すると自由落下していたフロレアールは宙でピタリと停止する。
次いでその姿勢が地面にへたり込む様な格好へとと移り変わる。
その直後にフロレアールはガクガクと震えだし再び涙を流し始める。
それは上の涙に留まらず下からも漏れ出し地へ向けて滴るのであった。
この世界の産業構造は三次産業までとなり主が一次産業となります。
物価としては現代日本の五分の一程度をイメージしております。
現時点でのブースト状態での全速力は障壁無しで浮遊しなければ秒速350m程となります。
円錐状の障壁を展開した際には音速を超えて駆け抜けています。
フロレアールが浄化後にも関わらず本編最後でお漏ら〇したのは浄化後にエネルギー補給で飲み食いをした為となります。
飛翔体と化した杭の様子などは次回に描く予定です。




