045 二つ名
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駄犬への躾を終えたフロレアール。
彼女は駄犬に無言で洗浄魔術を掛けている。
その躾と称した拷問を垣間見た周囲の者達は顔を青くしていたが、躾を止めに入れる者は誰一人として居なかった。
カテジナは治療魔術を受けていたので負傷こそ無いが、鳩尾を幾度となく強く蹴り付けられた事で呼吸困難に陥り、最後には失禁して気絶したのである。
「ふぅ、さて駄犬への躾も終わったわ。次は二つ名の登録だったかしら?。」
先程までの拷問の姿がまるで嘘の様な爽やかな笑顔を浮かべたフロレアールが作業の再開を促す。
恐る恐るカテジナの安否確認にカルチナが近寄ってくる。
「く、黒百合様。そのぉ、金百合様は生きているのですか?。」
「粗相をしたから洗浄は掛けておいたわ。気を失ってはいるけど治療魔術を掛けていたから傷は残ってない筈よ。」
「それって無事なんですか!?。」
「大丈夫、大丈夫。間違いなく生きているし、今は負傷も無い筈だから無事よ。」
「分かりました。それでは金百合様の様子は私が見ておきます。」
そう言うと己の膝にカテジナの頭を乗せる。
所謂膝枕をしながらカルチナは苦悶の表情を浮かべる意識の無いカテジナを様子を確認しながら目を覚ますのを待つつもりの様である。
「それではフロレアール様、ステータスプレートを一度お返しします。次いで二つ名の登録になりますが宜しいでしょうか?。」
「構わないけど、その前に二点確認させて頂戴。一つ目は二つ名もステータスプレートに記されるのか。もう一点は変える事が出来ないのか。これらを教えてもらえるかしら。」
「はい。それではお答え致します。一つ目の問いの答えはその通りで冒険者ランクの右隣に記されます。そして二つ目の問いは条件付きにはなりますが変更、正確には更新になりますが可能です。ただし、変更が叶うのはSランク到達時、またはそれ以降のSランクの魔獣またはモンスターの単独撃破時に限られますのでご注意下さい。」
「分かったわ。それなら問題無いから始めてもらえるかしら。」
「それでは二つ名当登録の手続きに移らせて頂きます。始めにこちらの契約書の作成となります。二つ名は“紅華”で宜しかったでしょうか?。」
差し出された契約書の内容を確認するフロレアール。
その契約書は実にシンプルで対象者フロレアール、討伐対象“イビルボア、”二つ名が“紅華”、その読みが“べにばな”であること、加えて異なる二つ名を登録した際の違約金が明記されている。
「記載内容に不備は無いけど契約書なんて作成するのね。って違約金が金貨5000万枚とかえげつないのだけど!?。」
「フロレアール様なら偽って別の二つ名登録することも無いと思うのですが...。ステータスプレートを用いるので本人様の魔力を介してしか登録が出来ないのもので。」
「成程、過去に全く関係無い好き勝手な二つ名を登録した冒険者がいたのね。」
「そうなんですよ。しかもいい歳した大人が厨二病全開の痛いヤツとか、倒してもいないのに龍殺しとか...。ぷーくすくす、頭にウジでも湧いてるとしか思えませんよねwww 。」
どうやら厨二病な痛い二つ名は余程酷いらしく思い出したキャローナが腹黒化する。
「落ち着いてキャローナ、ハラグロさんが口から溢れているわよ。それから厨二病な痛い二つ名に興味があるから後で少し教えて。今後の話のネタにでも使えるかもだから。」
「っと、失礼しました。教えるのは構いませんが口伝なので信憑性は保証出来ませんよ。それに聞いて後悔しないでくださいね。そうですね一端ですけど“フレイムブリザード”、“タイフーントルネード”、“シャイニングバイティングファイター”などになります...。ププーーッッ!!!。やっぱりムリィ~。こんなの格好イイと思うなんて絶対に頭オカシイのよwww。」
フロレアールはあまりの酷さに「フッ」と鼻で笑い悟りを開いた顔になる。
そして聞いた痛厨二つ名を忘れることを決意する。
一方のキャローナはハラグロさんが自発的にお帰りするまでの暫くの間、数々の痛厨二つ名をディスり続けていた。
キャローナが冷静さを取り戻してハラグロさんが現れた事を誤魔化す様に説明を再開する。
「んっん、過去に何度もその様な事がありまして現在では契約書を作成致しております。違反した際には違約金を支払った上で強制再登録となりますのでご注意下さい。」
「それでもやる人は出そうだけど。二つ名はAランク以上冒険者なのよね?。それなりに強い筈だから逃げられると思うけのだけど。」
「お逃げになることも叶うとは思います。ですが、全冒険者ギルドで指名手配されて賞金首に堕ちることになります。因みに冒険者ギルドがある街町への入場は身分証明時に衛兵に捕縛される事になるので無理になると想われます。早い話が人生詰む事になりますよ。」
「...なん...たと...!?。たかが痛い厨二病な二つ名を騙して登録しただけで!?。」
「痛い厨二病かは別にして当然ですよ。過去の英雄たち含めて二つ名持ちの方々を無碍にする行為なんです。冒険者ランクは何の特典も無い名誉称号だとしても、それで得られる二つ名は成した偉業を讃えるものなのです。冒険者ギルドとしては決して無碍にできない事なんですよ。」
「分かったわ。それなら契約書にも不備は無いからこれにサインすればいいのね。」
そう言ってフロレアールは二つ名登録に関する契約書に署名を行う。
「それではフロレアール様、二つ名登録は専用の魔道具となりますので事務室までお越し下さい。」
キャローナに促されて窓口の奥にある事務室へと向かう。
昨日の冒険者登録の際に使った魔道具の奥に置かれている埃を被った箱から魔道具が取り出される。
するとキャローナが申し訳なさそうに理由を説明してくる。
「申し訳ありません。使用時以外は箱に触れることさえ禁止されてまして。少なくても私が務めてから使用されるのは今回が初めてになります。」
「二つ名の取得条件からして登録をする機会は滅多に無いものと理解出来るもの。気にしなくていいわよ。」
「いえ、登録が前もって分かっいていた今回ならば支部長の許可を得て清掃することも可能なのです。生憎と現在不在にしておりまして。加えて本来ならば当冒険者ギルドの支部長が二つ名登録の折には応対する筈なのです。討伐隊の皆様が居ないので謝罪含めてお伝えしますが、支部長は今回の討伐は失敗に終わる可能性が高いと騎士団への討伐を申し入れるためフォゲーラの街に出向いております。フロレアール様、申し訳ありません。」
頭を下げてくるキャローナを前にフロレアールは討伐隊に含まれていたリサイクル予定の五人を思い浮かべて支部長の判断に納得する。
「キャローナ、謝罪は必要無いわよ。特段ギルドの支部長って人にも興味も無いし、長々とした祝辞とか貰っても仕方が無いから。気にしなくていいわよ。」
「そう言って頂けると助かります。でも、支部長は悪い人では無いので機会が有れば改めて御紹介させて頂きます。因みに珍しい女性支部長で元冒険者です。」
「そうね。機会があればその時は紹介して頂戴。」
フロレアールからの許しも得た事で気が楽になったキャローナに笑顔が戻り支部長の紹介まで提案してくるのであった。
笑顔が戻ったキャローナはフロレアールの前に魔道具を配置する。
「それでは毎回同じ説明で申し訳ありませんが、こちらの窪みにステータスプレートを乗せて下さい。次いで目を閉じた状態で二つ名を文字と読みを思い浮かべながら手形に手を乗せて下さい。登録が完了したら声掛け致します。」
説明に従いステータスプレートを魔道具の窪みに乗せる。
次いで手形に己の手を乗せ目を閉じ二つ名の“紅華”を思い浮かべる。
暫くした後にキャローナが声を掛けてくる。
「フロレアール様、目を開けて手を離して下さい。二つ名の登録が完了致しました。併せて二つ名も紅華に相違無いことを確認致しました。」
キャローナからの声掛けを受けて目を開き魔道具から手を離す。
次いでステータスプレートを手に取り確認する。
そこには深紅の文字で“二つ名:紅華”と記されていた。
「二つ名も色付きなのね。他の人のはどうなってるのかしら?。それとも紅華のイメージに無意識の内に私が色付けした可能性も有りそうね。」
「私も初めての事なので色までは分かりかねます。ですが記載の二つ名に偽りは有りませんので問題はないと思われます。」
「それなら良しとしましょうか。」
「はい。それでは窓口に戻りましょう。皆さんお待ちかねだと思いますよ。」
そう言われて窓口へと戻ると復活したカテジナやカルチナ含めて討伐隊の面々やギルドの職員などが拍手や口笛を鳴らし、「おめでとう」等の祝いの言葉も併せて投げかけられる。
それは“紅華のフロレアール”の誕生を居合わせた全ての人々が祝福するものであった。




