039 計略
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フロレアールは市場や蚤の市を一通り巡った後に市場で目星を付けた店を再訪し、穀物類を中心にスパイス、調味料、卵や乳製品など大量の予約を取り付ける。
本来なら予約などの信用商売は余程の常連でなければ受け付けられないのだが、イビルボア討伐の立役者であることに加えて傾国の美貌による従属状態により何の問題も無く終了する。
市場での予約、その額は金貨で100枚近くもの超大量の食料品を買い求めたのだが、今時点での持ち合わせは金貨換算で20枚強ほどであり、それは自身の貯蓄と故郷のローゼ村からのカンパという名での簒奪で得たものである。
その為、フロレアールは討伐報酬を当てにして購入を考えており、予約といった手段を取ったのである。
市場での予約を終えた足で向かうは蚤の市である。
蚤の市、所謂フリーマーケットであるため市場の店とは違って毎日同じ人が出店しているとは限らないため、並んでいる商品は一期一会となる事が多い。
尤も従属状態の相手なのでフロレアールが無理を頼めば連日の出店も望めるであろうが、相手の生活や都合を無視してまで強制する考えは持ち合わせて無かった。
蚤の市では柄巻などに用いるなめし革や自生する山菜やキノコなどの野草類、手作りの焼き菓子などを購入する。
残念ながら目当ての一つであるフード付き外套が見当たらないため、取り扱っている店に心当たりが無いか尋ねて回る。
すると市場や蚤の市以外に鍛冶兼金物屋や衣服店、道具屋があるとの情報を得られたので、そちらにも足を運ぶ事にする。
金物屋は主に生活用品の鍋や包丁類か多く武器類はオマケ程度であったので、大きめの鍋などの調理器具を数点購入。
衣服店は普段着や布地の品揃えは豊富であった。
だが、需要が低い旅装束や外套類は品揃えは薄く、気に入るものも無かったので自作を決意する。
店員に外套に用いることができる生地を尋ねると、表生地には撥水処理が不可欠で必要な薬液は道具屋で購入できるが変色の恐れがある事を教えらる。
勧められた生地の中から表生地として黒、裏生地に濃い紅を選ぶ。
加えて数点の縫い糸や刺繍糸、針などを合わせて購入する。
道具屋は日用雑貨から魔道具、果ては旅用品までと幅広い品揃えとなっていた。
ここでは、外套の表地に使う撥水加工用薬液の他に羊皮紙やペンやインクなどを購入する。
それらに加えて一目惚れした白ベースに金属の装飾があしらわれた指ぬきロンググローブを購入。
こうして懐事情はかなり寒くなったが満足する買い物を終えた頃には、日が傾きだした事も相まって、フロレアールは宿屋へと戻るのであった。
そうして迎えた宿屋での本日の夕食である。
私が着くテーブルの前には一人では到底食べ切れない程の料理が複数並んでいるのだが、ブースト状態を使っていない私にはボッチフードファイトを開催する予定は計画されていない。
そんな私のテーブルにはカテジナ、カルチナ、キャローナの百合百合トリオが揃い踏みしている。
そう、カテジナは信奉候補者たちの洗脳を終えた後に、町の宿屋を確認して回り宿泊先を特定。
宿屋の主人や給仕の女の子たちも昨晩もカテジナが同伴したことを知っていたので、何の疑いもなくアッサリと教えたそうである。
その後はギルドに戻ってから二日酔いで死に体のライジンたちに遭遇。
その際にライジンから約束していた先日の詫びの夕食代を巻き上げたとの事で、今宵の夕餉予算はこちらから拠出される運びとなった。
そして仕事を終えた百合百合ペアをピックアップして宿屋へ襲来を果たした結果が今の状況である。
私の左隣には当然とばかりにカテジナが陣取り給仕を務めるとの事で、正面にはカルチナ、その隣にキャローナとの配置となっている。
この見目麗しいテーブルは当然の如く注目を集め、眺めている他の客や給仕の子たちからは、このテーブルの話題で持ち切りとなっている。
「今日は4人で愉しむのかな。」
「カルチナとキャローナの二人も隠れ百合だったらしいよ。」
「あそこの二人が噂の黒百合様と金百合様なのね。」
「昼間の騒動を知ってるか?」
「俺見ちまって、その凄かった。」
こうして食事処には薄らと如何わしいピンク色じみた雰囲気が漂っていた。
「なんでアナタ達が宿屋に押しかけて平然とテーブルを共にしてるのか説明して欲しいのだけど。そもそもカテジナはライジンたちとの話し合いを終えてないでしょ?。」
「ライジン達は話し合いができる状態では無かったので終えていません。ですが、明日の討伐確認を終えてしまえばフロレアール様が町から発つ事も考えられましたので、少しでも同じ時を共にしたいと...。ご迷惑でしたか?」
上目遣いに申し訳そうにシュンとした表情でアザトイさんが応える。
「先日のライジンの失礼もありましたので、合わせてお詫びの席をと考えたのですがお気に召しませんてましたでしょうか。」
続いて俯き涙声で情に訴え出ることで相手からの追求や反論を封じるアザトイさん。
「いや、気に食わないとか迷惑って訳でも無いけど...。それでもカルチナやキャローナが一緒の理由にはなってないわよ。」
計略に嵌りアザトイがこの場に居ることを容認してしまうフロレアール。
「二人も似たような理由です。二人とも本日はフロレアール様に御迷惑をお掛けした謝罪の場を欲していました。逆に私は結果として二人が色々な騒ぎを起こす原因を作り出してしまいましたので...。二人とも色々と申し訳ありませんでした。」
申し訳なさそうな表情でフロレアールの表情を伺い、二人に顔を向け直した後に深々と頭を下げるアザトイ。
これにより既に許しを得たカテジナがカルチナとキャローナを庇うことでフロレアールが二人を除する行為を行えなくするアザトイ。
「金百合様、そんな頭を上げてください。私たちは気にしていません。金百合様は背中を押して下さっただけで...、私自身が決めて行動した結果なので悔いはありません。その、黒百合様には色々と御迷惑をお掛けしまい申し訳ありませんでした。」
それに対して憧れの人が急に頭を下げてきた事で反射的にフォローを返すと共に、アザトイの謝罪に引っ張られて頭を下げるカルチナ。
「カテジナ様、頭を上げてください。私も自分の本心と大切な人に気付く事が出来て心から感謝してます。御礼こそ述べるべきで謝罪を頂く様な事は受けておりません。フロレアール様、私こそ要らぬ騒動に巻き込み予定を狂わせてしましまい大変申し訳ありませんでした。」
愛しのカルチナがカテジナの謝罪を受け入れた事でカテジナに対して躊躇すること無く本心と謝意を伝え、当然のように頭を下げるキャローナ。
頭を下げ合う三人からただ一人全面的な謝罪を受け、席に着いたままその光景を眺めているフロレアールには謝罪を受け入れ、夕食を共にする選択肢しか残されていなかった。
「わかったわ。三人とも頭を上げて。カルチナとキャローナからの謝罪も受け入れるから。そうと決めたのなら今夜は食事を楽しみましょう。勿論、堅苦しいのは抜きの無礼講よ。これ以上料理が冷めるのも良くないから早速始めましょう。」
フロレアールはそう応えて四人による食事会を認め開始を告げる。
その横で頭を深く下げていたカテジナの表情が厭らしくニヤリ歪む。
「計画通り。」と心の中で自身が思い描いた通りに事が運んだことの愉悦に浸るカテジナがそこには居た。
だが、頭を深々と下げる彼女の表情を窺い知る者は誰一人として居なかったのである。




