033 信奉
ご愛読ありがとうございます。
拙い文章ですが、面白いと思って頂けましたら“ブックマーク”や“いいね”、“感想”等にて応援頂けると幸いです。
これらの応援は執筆に際しての大変励みなりますので宜しくお願いします。
「しっかり、しっかりしてください。目を覚ましてください。」
揺り動かされると共に右頬を軽く叩かれて意識が戻る。
気付けばカテジナの顔が間近にあり、私の左頬にはカテジナの柔らかい胸が触れ、右頬にはカテジナの左手が触れている。
どうやら私はカテジナに抱き抱えられて介抱を受けていたようである。
「あれ、なんで私カテジナに抱き抱えられてるの?。登録を終えて窓口前に戻って来た筈なのに。」
状況が呑み込めないのでカテジナに尋ねる。
「私めも詳細は分かりかねますが、私は気付けば一人で魔道具前に佇んでおり、そこの受付嬢の“フロレアール様、どうかなさいましたか?”と叫び声が聞こえたので、慌てて駆け付けたところです。」
どうやらカテジナは自力であの状態から再起動を果たし、私に何かあったと察して慌てて駆け付けて介抱してくれていたようである。
カテジナの話を聞いている間に私は何があったのかを思い出す。
「ありがとう、もう大丈夫よ。ちょっと夢やぶれて打ちひしがれていただけだから。貴女は気にしなくていいし、この件は尋ねないでくれると助かるわ。」
「フロレアール様がそう仰るなら伺いませんが、無理はしないと約束して下さいね。」
少し涙目になっているカテジナに覗き込まれるように言われると気恥ずかしくなる。
「分かったわ、気を付けるわ。」
私はそう手短に返してカテジナから離れるのであった。
「良かった、お二人共正気に戻られたのですね。」
心配して窓口から出てきてくれた受付嬢さんが声を掛けてくる。
「ザンネン様は事務室内でブツブツと呟き続けてるし、窓口前ではフロレアール様が目の焦点失って立ち尽くしてしまったので、一時はどうなることかと本気で焦りました。」
「心配してくれてありがとう。迷惑かけたわね。」
「本当ですよ。お二人共僅差でおかしくなられたので、ひょっとしたら呪いの類かと思って私自身も呪われるかと焦りましたし、お二人には下手に触るのも躊躇われたもので。」
あ、この受付嬢さんは以外と逞しいみたい。
「誰が残念さんですか失礼な。私はカテジナとちゃんとした名があります。宿舎での手続きでも偽りなく記していますよ。」
「えっ!?失礼しました。フロレアール様が何度も“ザンネンさん”とお呼びしていたのを耳にしていたもので....」
カテジナに謝罪しつつ、私の方をチラ見して助け舟を求めてくる。
「フロレアール様が私をどう呼称しようが構わないのです。例えメス豚と罵られようと私は甘受致します。何故なら私は身も心も言葉通りに捧げております。そして昨晩は実際に私をお召し上がり頂きましたわ。」
カテジナが嬉し恥ずかしそうに朱に染めた頬に両手を添えてモジモジしだす。
oh......、ザンネンさんがキラーパスぶち込みやがりましたよ。
それを聞いた受付嬢さんは目を見開いて顔を真っ赤にして口に手を当てている。
「カテジナさん、貴女も私の事を御使い様と称することがあります。私は名前で呼ぶようにお願いしてますが、貴女から御使い様と称されても目くじらは立てていませんよ?。貴女も広い心を持ちなさい。」
私は冷や汗を大量に流しつつ、話の流れの修正を試みる。
「分かりました。今後は有象無象の者共から如何様に称されようとも気に留めない事にします。」
ザンネンさんが間違った悟りを得た横で受付嬢さんがペタンと座り込み、流れ出る鼻血を手で止抑えようとしている。
「く、黒百合様と、き、金百合様なの。さっきも愛おしげに抱きしめて介抱していたし。こんな美少女二人が昨晩は寄り添って、夜通しあんなことやこんなことしてたというの!?。」
あれれぇ、おかしいなぁ、綺麗な受付嬢のお姉さんは、そっち方面でポンコツみたいだ。
「ゔぅ、血が止まらない、衰えるどころが勢いが増して...、ヒール。」
おぉ凄い、神聖魔術使えるなんて優秀なのね。
それなのにその使い道が百合趣味の興奮暴走による鼻血止めとは実にポンコツ過ぎて才能が勿体ない。
ザンネンさんがポンコツさんに一歩近付き語りかける。
「そこまで深い興味や願望をお持ちなら、貴女も御使い様に己が身も心も捧げてしまえばよいのです。性別に囚われて己が殻に閉じこもる事も、望まぬ異性に抱かれる恐怖に怯える事も必要無いのです。人として御使い様から慈悲を賜り、真の愛を知れば良いのです。私は昨晩それを知り確信に至りました。私は生涯を通して御使い様に己を捧げると共に、この真理を人々に伝え広めるために生を受けたのです。」
己が煩悩を説法として言い放つカテジナを止めるべく私は叫ぶ。
「カテジナ、何とち狂って変な事口走っているの!!。ちょっと黙りなさい!!。」
ザンネンさんを慌てて止めるも既に時遅く、既に説法を終え、昨晩の行為を思い出し恍惚とした表情を浮かべ、己の身体を抱きしめて悶絶するカテジナ。
その傍らから鼻血に塗れた顔を私に向けて、胸の前で血塗れの両手を握り締めて見つめ訴えくる受付嬢。
「こんな私でも愛して、お救い頂けるのですか?」
混沌する最中、そんな受付嬢をカテジナは自身が鼻血に塗れることも厭わず黙って抱きしめる。
「あぁ、金百合様、いえ、カテジナ様。」
受付嬢がカテジナに抱きつき返す。
「貴女はもう我慢する必要はないのです。これからは私と志を共にして真の愛に生きましょう。そして多くの仲間を救うのです。」
こうしてカテジナは新たな信奉仲間を得たのであった。
他の冒険者が居らず手持ち無沙汰だった他の受付嬢やギルド職員達も最初から最後まで、この騒ぎを垣間見ていた。
後にチェーネの町から端を発して世界へと波及するジェンダーレスの百合信奉が誕生した瞬間であった。
この信奉が世に広まる物語は、また別の御話である。




