023 化け物:イビルボア
本編に若干の残虐な描写が含まれております。
残虐な描写が苦手な方は該当箇所を読み飛ばすか本編の閲覧は御遠慮下さい。
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認識加速をしているフロレアール。
直接目に映るイビルボアの体躯が近付くにつれて、徐々に徐々にとその大きさを増し続けることに合わせて、己の中の緊張と不安が増大する事を感じていた。
これから対峙する信じ難い巨躯を誇る化け物は、一昨日に仕留めた獲物たちとは明らかに異なっていた。
それはただ単に躰が桁違い大きいといった物理的な単純な話では無く、生物としての格と強さの次元が異なっていた。
身動きひとつ取れずに一方的な鏖殺に至った獲物とは異なり、巨躯を誇る化け物は雄叫びを上げ、自身を迎え撃とうと身構えている。
小さきバケモノは、驚異的な硬さを有する白きメイスに、己が誇る人外の域に至る力と速さを乗せた渾身の一撃。
巨大な化け物は、己が躰で最も堅き頭蓋に、己が誇る最大の武器である重量を乗せた突進による必殺の一撃。
対極と言い表しても過言では無い、小さきバケモノと巨躯を誇る化け物、その双方が選んだ攻撃手段は、奇しくも己が力を相手へと直接叩き付ける実にシンプルなものと似通っていた。
バケモノと化け物を闘いは一瞬であった。
バケモノの一撃(白メイス)と化け物の一撃(頭蓋)が真正面から衝突する。
その結果として、化け物の頭蓋は爆ぜ散り紅き大輪の華を描き、その躰は信じ難い事だが振り抜かれたメイスにより弾き返され宙を舞う。
もう一方のバケモノは、白メイスを両手に握り締めて振り抜いた姿勢で佇んでおり、その足元の大地には僅かなヒビ割れが刻み込まれ、両の足を地面に埋め込ませて佇んでいた。
その左足は渾身の一振を繰り出す際の踏み込みで、その右足は化け物との衝突とメイスを振り抜く際の踏ん張りに起因するものであった。
くぅぅぅ、また手が痺れてる。
これは何かしらの対策をしないとダメね。
柄巻にでも衝撃の緩和か伝達防止でも付与してみようかしら。
メイスを振り抜いた姿勢のまま痺れる両手に苦悩するフロレアール。
少しして痺れが収まってきたのに合わせ、地魔術で地面に埋もれた足を解放した後に顔を上げて立ち上がる。
その瞬間、周囲にから“ハッ!”とした気配が漂うと同時に探知の映像に緑色の点が現れ、赤い点が消え失せる。
フロレアールが顔を上げた事で、その容姿を目の当たりにした周囲の者た傾国の美貌により瞬く間に魅了され従属状態に至ったのであった。
特に馴れ合うつもりの無いフロレアールは自身が仕留めた成果物である首無しの巨大な遺骸へと歩み寄る。
次いでマジックバックを使う演技をしつつ遺骸を収納したところで後ろから声を掛けられる。
それはリーダー(仮)であった。
「すまないが少し待ってもらえるだろうか。イビルボアを仕留めたのは君なのかい?」
「そうですけれど何か御用ですか?私は自分が仕留めたフィアースボアの躰を収めただけですが何か問題でも?」
フロレアールは心の中で面倒くさいなぁと思いつつ塩対応をする事に決める。
「フィアースボア?あぁ、君が仕留めたのは上位種のイビルボアなんだ。それで申し訳無いのだが、我々は緊急討伐依頼を請け負っていてね。大変申し訳ないのだが討伐証拠として後程ギルドでイビルボアの躰を一度取り出して貰えないだろうか?。」
「嫌です。私は討伐隊に加わっていませんからメリットが有りません。討伐と仰いますが、そもそも貴方たちは傷一つ負わせていませんでしたので、偽証に付き合う義理はありません。」
「そう言われると本来なら返す言葉もないところだが、近隣の冒険者ギルドにもこの依頼は出されていて、討伐が確認されないと色々と拙くてね。」
「私には関係ないので謹んで辞退致します。」
「いや、我々がクエスト失敗のペナルティを負うだけの話ならば甘んじて罰を受けるのだが、緊急討伐依頼が終わらない限り対象地域では他の討伐依頼が受け負えなくなることは君も知っているだろ?」
この男、従属状態なのに私の意見に従わない、つまりは自身ではどうにもならない事態との証拠てあり、そうであれば相手の提案に乗る事は自然な流れのように思える。
「だが断わる。」
しかしフロレアールは断わる。
「...、いや、その...、そうだ!!。君の言う討伐の偽証というのにも誤解があって討伐参加者は対象の魔獣やモンスターがどんな経緯であれ討伐された事が確認されれば報酬を得ることができるんだよ。」
「それは良かったですね。私にはメリットが無い事のには変わりがないので。それではごきげんよう。」
相手は折れないと考えたフロレアールは、そう言ってその場から去ろうとする。
「ちょっ!!、待ってくれ。討伐隊全体に支給される報酬の半分を渡す、加えてイビルボアの肉や毛皮などは全て貴方が取得権を有すると約束する。」
「いいでしょう、そうまで頼まれたら断れないわ。」
従属状態の相手からの提案は当初からフロレアールが最大の利を得られる為、己がメリット(お金)が提示されれば断わる理由もない。
かの謳われし天才美少女魔術士もお金は大切だと常々口にしていたと聞き及んでいるからね。
「へっ!?ああ、了解してくれたのなら助かる。ありがとう、俺の名はライジン、今回の討伐隊のまとめ役を」
「特に興味無いから自己紹介は必要無いです。」
塩対応の決定には変化が無いフロレアールであった。
後日、イビルボア討伐戦に参加し、その光景を目の当たりにしていた冒険者達は、まるで口裏を合わせた様に似通ったことを語る。
「ありのまま、あの時起こったことを話すぜ。イビルボアは俺たちを蹂躙し終え、勝利の雄叫びを上げていた。俺たちは死を覚悟し絶望し俯いていた。唐突にドデカい音が鳴ったと思ったら、いつの間にか奴は頭部を失った状態で宙を舞い後ろへと吹き飛んでいた。加えて奴の頭部が爆ぜ描かれたと思しき真っ紅な華まで現れていたんた。何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起きたのか一瞬過ぎてよくわからなかった...。頭がどうにかなりそうだった...。催眠術だとか魔術だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ...。」と。




