019 解体作業と肉祭り
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「大量、大量。これで当面のお肉には困らずに済みそうね。とはいえ、肉以外の食材が乏しいのも精神的にも食事的にも良くないわ。」
フィアースボアの群れにまとめて浄化を掛けた後に収納を進め、地魔術で辺りの惨劇の痕跡を地中に埋めて後始末を終える。
そこで帰り道はブースト状態を使わずに食すことが可能な野草やハーブ類を探しなが戻る事にした。
ブースト状態での移動は、認識加速の影響で体感的には普通に走っても移動するのと変わりは無い。
だが、その一方で体力とお腹が著しく減る為、緊急性が低い場面での移動では無理してまで使うのは避ける事とした。
自身が生まれ育った村からも数日の距離であることから植物の種類などにも大差はない。
歩きながらの散策であれば、村の近隣で行っていた採取行為と大差なく、順調に採取が捗るのであった。
拠点へと向かって歩を進めていると、渓谷の近くとなったので、川魚がいるのか確認ついでに覗いてみることにする。
川幅はさほど広くなく流れは緩やかだが水は澄んでいるおり、肉眼でも魚影を確認することができる。
根こそぎ捉えてしまうのは環境的に宜しくないことは重々承知している。
フロレアールは水魔術で魚の周りの水を固めるようにして魚の動きを封じ自分の方へと徐々に引き寄せ捕獲する。
一地点で五、六匹捉えたら移動して別の群れを見つけたら捕獲することを繰り返しつつ拠点近くまで移動したのであった。
日の高さからして、日が傾くまでは一、二時間といったところであろうか。
認識加速による弊害で体感時間が増加しており、フロレアールの体内時計にズレが生じている。
今日一日の活動時間としては既に夕刻を迎える程度に達している。
「お腹も減ってきたし、今日はフィアースボアの子供の方を頂くとしますかね。」
拠点へと戻ったフロレアールは、ドーム小屋に立ち寄ること無く解体場へと向かいフィアースボアの解体に取り掛かる。
狩りで仕留めた獲物の大まかな処理は次となる。
①放血(血抜き)
②洗浄(体表の泥などね汚れ落とし)
③内蔵除去(胃腸内容物による可食部位の汚染や臭み移りの予防)
④剥革(脚先や尾などの非可食部位を切除し皮を剥ぐ)
⑤分割(ロースなどの部位への切り分けと骨抜き)
放血と洗浄を終えている子供と思しきフィアースボアを一体取り出す。
それでも肩高ですらフロレアールの背丈よりも若干大きく見受けられる。
「村で育てていた豚とは大きさが段違いね。小さいと言っても成体の豚と比べても高さも長も1.5倍はあるのかな。私これ一人で転がせるのかな?」
一抹の不安を抱えつつも一人作業にとりかかる。
代行してくれる店や手助けをしてくれる友も今は居ないボッチなので仕方がない。
本来の解体作業には多くの目的別の包丁やノコギリなどの道具が必要となる。
そんなモノは当然持ち合わせていないのだが、風魔術で済むので問題は全く無いというかぶっちゃけ風魔術の方が楽なのである。
風魔術で内蔵を傷付けぬよう注意しながら腹を切り開き、次いで内蔵を腹から掻き出し、食道と気管や太い血管わ引き抜き、大腸は付け根で切り離したとここで違和感を覚える。
村にいた頃に何度も解体の手伝いをしていたから分かるが、どんなに上手く血抜きをしても解体作業では少なくない血が流れ出すものなのだが、一滴の血すら流れ出てこないである。
それに加えて胃や腸に膨らみが無く内容物がある様には見受けられない。
確認の為、本来の順序と異なるが地魔術で大きなタライを複数作り胃と腸を切り離して夫々を移しに入れる。
内容物を確認しようとするも本来あるべき内容物は一切無いどころか、まるで洗浄を既に終えたが如く見受けられ、ヌメリや臭いも一切感じられない。
「これって浄化の効果で私が不要と思った汚れとして内容物や不要な粘液とかが一切合切消去されたと考えるのが間違いなさそうね。」
うん、浄化は基本的に他人に掛けるのは禁止に決定ね。
下手すると私が邪魔とか消えて居なくなくなればいいのに心の中で密かな願望を抱く相手だと対象者自体を「汚物は消毒だぁ」とばかりに消し去ることもゼロとは言えない。
そういえば対象物を直接消し去る魔術は色々と使えそうな気もするから機会があれば試してみよう。
ともあれ、解体作業で一番苦悩する筈の内蔵処理や臭いに悩まされる事が一切無くなったのは幸いである。
地魔術で樽とも言い表せる壺を複数作成、可食な内蔵を種類毎に個別に壺へ入れ次々に時間経過無しに指定して収納する。
残すは毛皮付きのお肉と骨たちである。
蹄と尾は容赦なく切除、蹄を切り落とした断面から風魔術で皮と皮下脂肪の間で双方を切り離し、脚先から付け根まで施す事を四脚に行う。
次いで胴体部分は腹部から皮を切り離しを進める事で容易に終え、切り離した体毛付きの生皮はそのまま収納する。
ここまで来れば楽なもので風魔術で部位毎に切り分け、骨を切り離し抜き取ることで精肉様の完成に至り、部位毎に壺に入れ収納を終えるのであった。
解体を終えた頃には丁度日も傾き始めてきたので夕餉に取り掛かることにする。
本日は当然、猪肉を堪能すること、つまりは肉祭りである。
大きめの1口大にカットしたヒレ肉に網脂を巻き付け、すり潰した山椒の葉と味噌、味醂を和えたものを塗り付ける。
それを物地魔術製の串に刺して遠火でじっくりと時間を掛けて焼く。
串焼きが出来上がる迄の間は焼肉である。
焼肉は調理と食事を並行して同時進行できる珍しくも理にかなった食事方法である。
肉が炎に直接炙られることでメイラード反応による旨味の増加や滴った油により燻され風味を増しす効果も得られる食いしん坊大満足な食事である。
焼肉には大きく分けて二種、素焼きした肉に塩やタレを後で付けて食す、または生肉に下味を揉み込んだ後に焼き上げ好みによりタレなどを付けて食す方法がある。
今宵の焼肉は下味を揉み込むことにする。
下味に使うのは醤油と少量の蜂蜜、それに野蒜と行者にんにくを細かく刻んだものを和えてタレとする。
一口大でやや薄めにスライスしたバラ肉を作成したタレ揉み込み、それを大量に仕込んで一部を除いて収納する。
焼肉は地魔術製の網を新たに設けた小型の焚き火台に設置する。
さぁ、待ちに待った宴の開始である。
ジューと音と共に食欲をそそる香りが煙と併せて立ち昇る。
ただでさえ腹ペコだったフロレアールの食欲を容赦なく刺激する。
こうしてボッチ焼肉の肉祭りが開始されたのだった。
「う~ん、おいひぃ~。」
次から次にバラ肉を焼いては口に放り込むことを繰り返す。
当初用意した味付けバラ肉が底を突く頃に、ヒレ肉の山椒味噌焼きがいい塩梅に焼き上がる。
ニンニク醤油の焼肉とは違った薄らと焦げた味噌の香ばしさと鼻から抜ける爽やかか山椒の葉の香り、そして柔らかなヒレ肉の食感に巻き付けられた網脂により加えられるジューシーさと旨味。
「こっちも負けず劣らずおいちい。」
そう言い放ちつつ追加の味付けバラ肉を収納から取り出し、肉なる宴は気の済むまで行われるのであった。
焼肉の油煙で燻され、油まみれの顔や髪からは、それだけでご飯が食べれそうな香ばしい香りが放たれているフロレアール。
かつて聖女ともくされれ彼女は現在は立派なフードファイターと成り果ていた。
宴を終えた彼女はいそいそと自身に浄化を施すのであった。
今回解体したフィアースボアは肩高1.7m程、推定重量は500Kg程にもなります。
解体して得られた精肉は220Kg程になります。