018 紅い華
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ブースト状態の全速力で獲物へ迫る。認識加速をしているためフロレアール自身の体感では普通に感じ見られる様になったが、其の実は現代風に例えるなら新幹線の最高速すら軽く凌駕する。
哀れにもバケモノに狙われたイノシシ型魔物のフィアースボア。
昨日から降って湧いた様に突如として現れたドラゴンをも彷彿とさせる凶悪な魔力を発し続けるバケモノが信じられない速さで迫ってくるのを感じる。
反射的にバケモノの方へと頭を向ける。
魂が、そして細胞の一片までもが逃走をと叫び訴えるが、圧倒的な力に威圧された躰は思う様に動かない。
その目が最後に映したもの、それは白い何かが、かつて見たことがない速度で自身に迫り来るものであっり、白き悪魔に恐怖する間もなく意識は途絶えたのであった。
獲物へと駆け出して体感感的には20秒程が経過するとフロレアールへと頭を向ける巨躯のイノシシの姿を捉える。
その様は、まるで待っていたと言わんばかりに見受けられる。
初めて間近で目にする自身よりも遥かに巨大な魔物、その瞳は自分へと向けられているのがハッキリと見て取れる。
「怖い、帰りたい、でも、やらないとっ!!」
フロレアールはそう叫ぶと手の届く距離へと迫ったフィアースボアの頭へと己が右手の白メイスによる全力全開の一撃を振るうのであった。
ドッバーンとの音と共に哀れフィアースボアの頭部は跡形もなく粉砕され、認識加速状態のフロレアールには一瞬真っ紅な丸い華が現れたように見えた。
実際に弾け飛んだフィアースボアの頭部は盛大に飛び散り、大地をキャンバスとして巨大な紅い華を描き、頭部を失った其の巨躯からは勢いよく鮮血が噴き出し、まるで紅い華の茎を表すかの様な一筋の紅い線を描いていた。
流血が収った巨躯の傍らで自身を念入りに浄化するフロレアール。
余りにも呆気ない討伐に、へっ?と一瞬ポカーンと気が抜いてしまい、ブースト状態と認識加速が意図せず解けた事で、噴き出す血か退避すること叶わず頭から血の雨と言うよりも血の放水をモロに浴びてしまったのであった。
「余りに肩透かしだったから拍子抜けした自分が悪いのだけど、ほんと酷い目にあったわ。今後は仕留めて終えたら対象から離れることも忘れずにしないと。」
自身の浄化を終え、次いでフィアースボアにも浄化を施した後に収納を済ませる。
「それにしても凄惨な現場に成り果ててるわね。地魔術で地面掘り返して処理しておかないと衛生的にも自然環境としてもいいことないしね。それに血の臭いに誘われて魔物とかモンスターが寄ってくるのは常識だしね。」
そう言いつつ手早く処理を終わらせる。
一連の作業を終えて改めて探知を眺めていると谷を奥に進んだ位置にフィアースボアが10頭群れている。
「チャーンス。」
ニヤリと悪い顔でほくそ笑む。
大きさとしては、先のものと同程度が二頭、一回り大きいものが一頭、残りは1mなので子なので子連れの群れと思われる。
「とは言え、私も食料に余裕がある訳じゃないから、悪いけど見逃せないかな。子供の方がクセ薄くて柔くて美味しかった筈だし。是非もないよね。」
探知で最も自身と距離が近い一頭を見定め狙いを定める。
普段は特に意識することがない音や風の流れる感覚などが失われるとことを感じつつ目標へと移動を開始する。
距離は500m程だったがフィアースボア達に退路は無い、狭まった山間の谷間おける唯一の退路からバケモノが一直線に迫ってくるのである。
フィアースボア達に迫るフロレアール。
全てのフィアースボアが己に頭を向けていることから、フィアースボアには何らしからの方法で自身が迫ることを感じ取っていたことに気付く。
だが、例え接近に気付いていたとしても為す術がない事は先の一頭で明白であった。
食料危機の最中に突如として現れたイノシシ肉大量確保チャンスの収穫祭が開始された。
「レッツ・パリーリー!!」
手始めの一頭の頭が爆ぜ、次々とフィアースボア達の頭が爆ぜる。
先の教訓として目標を仕留めた後には立ち止まること無く、一撃毎に生み出される紅い華すら避けて次なる獲物を屠って居たが、四頭目を仕留めた頃には紅い華に加えて噴き出す血液が次なる獲物への接近を妨げる。
浄化すれば済むから気にせず突っ込むかと考えたが、決して気持ちの良いものでもないので、それらを風魔術で自身に当たらないように跳ね除け、残る獲物を次々と仕留め続ける。
最初の一頭を屠ってから1分にも満たない僅かな時間、そこには大量の紅い華の中で静かに佇む返り血の一滴すら浴びていないフロレアールの姿があった。
子混じりとはいえ十頭ものフィアースボアの群れの蹂躙をいとも容易く終えたのであった。