014 魔術触媒
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地魔術で生成した素材は決して悪いものではなかった。
それでもフロレアールのブースト状態では耐えられる程の物ではなかった。
一方の白メイスを確かめると凹みはおろか擦り傷一つ見受けられない。
「白メイス君、驚く程に頑丈なんだけど、君ってひょっとして何かしらの魔術やスキルが付与されているマジックアイテムなのかい?」
ふと身近なマジックアイテムであるマジックバックが頭に浮かぶ。
マジックバックには性能に差はあるもののスキルにより制作されたものが存在している。
そうなのである、条件さえ整えばマジックアイテムの作成は可能ということに気付く。
制作品のマジックバックを手に取を確かめてみる。
素材としては丈夫な厚手の生地といった感じで裏地が縫い合わせられている。
使われている生地はフロレアールが着ているローブよりは厚みがあり丈夫な印象を受ける。
それはボロきれと化した元旅装束の生地に近い印象を受ける。
マジックバックはカバンの形を成しているが、出し入れする物品を直接カバンの中に収納する必要は無い。
カバンへと収納出来る大きさだと直接カバンの中に入れる動作を無意識にとっていたが、木や岩など明らかにカバンのサイズを超える物品も収納している。
その際には片手をカバンに添えて対象物には残る手で触れることで行えていた。
物心ついた頃には故郷の人々や旅商人などが使う様を普段から眺めており、当たり前の光景であった。
これはそういうモノと思い込み、子供の頃より幾度となく使っていたが、改めて考えてみるとその様は魔術に酷似している。
フロレアールはマジックバックから拠点横の空きスペースに一本の木を取り出す。
その木の幹に目印となるように地魔術で石礫を撃ち込む。
次いで魔術としてマジックバックの収納の再現を試みる。
先に試すのは時間経過が生じる作成品と同じ収納である。
ダンジョン産と違い収納物の時間経過を停止するといった機能が省かれている。
この差は魔術として行使に要求されるステータス要求値の緩和となることから、ダンジョン産が上級、作成品は下級収納といった感じになるのだろうか。
フロレアールはイメージする。
今迄はマジックバックに触れる事を収納の前提として認識していた。
だが、マジックバック自体は魔術行使の触媒に過ぎず、対象を別の空間に移す魔術を行使していたのだと。
そして今、触媒を介さず己の力のみで収納を魔術として行使するのだと。
すると体からマナが抜け出る感覚が生じると共に、右手で触れていた木の感触が消える。
どうやら対象を収納すことには成功したようである。
だが、マジックバックを用いた時よりもマナの消費が明らかに大きいことを感じる。
一先ず収納に成功したことから、次いで元の場所に戻すことを試みる。
すると幹に覚えのある石礫を撃ち込んだ痕が見受けられる木が現れる。
フロレアールは魔術による再現に成功したことから新たな疑問が生じる。
それは触媒たるマジックバックには、そもそも個たる意味はない。
収納した物品を取り出す際には、収納済みの物品一覧が手に取る様に把握できる。
その中から任意の物品を選択して取り出す事になる。
しかし、先程の魔術で収納した木を取り出そうと試みた時には収納物は木が一つしか認識できなかったのである。
原因を考察し、魔術により収納した物品と無意識にフィルターをかけていたのではないかとの結論に至る。
フロレアールは意識を改める。
収納魔術により作成品のマジックバックを介して収納した物品を取り出そうと試みる。
すると作成品のマジックバックを介して収めた物品を認識することに成功するのであった。
次いでダンジョン産のマジックバックに収納した物品を取り出そうと思い浮かべると該当の品々を認識することにも成功したのであった。
やっぱりマジックバックって収納魔術の行使イメージそのもが付与されている触媒と考えて間違いなさそうである。
そうなると魔術付与のスキルは任意の魔術行使イメージを付与、つまりは行使可能な魔術なら付与が可能と考えるのが妥当と考えられる。
恐らくだが、作成品がダンジョン産より劣るのは作成者のステータス要件やスキルレベルの問題、ひょっとすると思い込みが原因だと考えられる。
魔術付与に対する仮説を組み立て終えたフロレアール。
次に行うことそれはマジックバックの分解である。
分解と言ってもマジックバックの本体ともいえるカバン部分の縫い紐を取り外そうと考えたのである。
表生地と裏生地の間や裏地といった縫い合わさり本来ならば目にすることが無い箇所に触媒として作用する何らかしらのヒントが隠されていると考えたのである。
マジックアイテムとしての価値がそれほど高くないとはいえ、決して安いものでは無いマジックバック。
それをわざわざ失う危険を犯して興味本位で分解する愚か者などはまず居ない。
だがしかし、魔術による再現に成功したフロレアールにとっては足枷となろう筈もない。
フロレアールは、簒奪値が加わった驚異的な器用さと高レベルの裁縫スキルにより、いとも容易く縫い糸を取り外す。
次いでマジックバックを展開、カバンの内側であった部分が顕となり、見えたものは多少の摩耗が見受けられる裏生地だけで特筆するものない。
次いで裏生地を取り外し、本命の裏地を確認する。
表生地と裏生地に挟まれていた裏地は薄いなめし革や羊皮紙に近いモノであった。
そこには普通のカバンでは要さないモノ、収納魔術の行使イメージが記されていたのである。
フロレアールは既視感を覚え、そして気付く。
それは教会で幾度となく読み込み記憶した神聖魔術の魔術書であった。
その魔導書の記述内容にマジックバックの裏地に記さている内容が酷似しているのである。
大きな違いとしては、魔術書には魔術の名称と具体的な魔術効果が書き記されている。
一方のマジックバックには魔術の具体的な行使手順を幼子に丁寧に教えるが如く事細かに記述されている。
そして、その文末には『此願う者が己がマナを捧げ此術式が行使に至れり。』との一文で締めくくられている。
このことから神聖魔術の魔術書は、魔術触媒として動作に必要な機能を排除し、意図的に才ある者を見つけだす道具に格下げしている可能性が高そうである。
そうなるとオリジナルの神聖魔術の魔術書は、触媒として作用する単体魔術が記されたものなのかもしれない。
上級クラスの神聖魔術を詳細に書き記すとなるとなると巻物とかになそうな代物である。
保管や複製の観点から簡素化して纏めた物を魔術書と称し、神殿が各教会に貸与していると考えるのが自然なのかもしれない。
やっぱり神聖魔術周りは闇が深そうです。
こうして作成品のマジックバックを分解したことで、マジックバックが実は魔道具に類する魔術の触媒である事を理解する。
そして改めて神殿と教会の闇の深さを再認識をしたフロレアールは、区切りも良いことから焚き火を消し、ドーム小屋へと移り床に就く。
こうして長かった三日目を終えたのであった。
魔術付与は物品に魔術の発動触媒としての効果を与える行為になります。
付与魔術は物品の触媒化を魔術で行う行為になります。