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9.二人の美少女

 昼休み。俺は食堂に来ていた。

 適当な席に着いて昼食をとっていると、テーブルの向かいに一人の少女が立って、声を掛けてきた。


「ここ、いい?」

「むぐ? むぐむぐ……」


 肉を頬張りながらうなずくと、金髪の少女、アーシェは苦笑しながら席に着いた。

 アーシェは日替わり定食をトレイに載せていて、俺の昼食を見て少しばかり驚いた様子だった。

 ちなみに今日の昼食は、肉類を中心に、山盛りの料理を三人前ほどもらってきた。

 昨日は四人前ぐらいだったのでこれでも減らした方なんだが。


「それ、一人で食べるの? すごい量ね……」

「……育ち盛りなので。早く大きくならないと」

「あはは、大きくなりたいからそんなに食べてるの? そういうところは子供ねー?」


 アーシェに笑われ、思わず赤面してしまう。

 大人をからかうんじゃない。今は子供だが。

 順調に育っているアーシェには、ある日突然、子供の身体にされてしまった俺の気持ちは分からないだろうな。

 俺は元の姿に戻るまでの間、この身体で生き抜いていかなければならないんだ。

 それまでになにがあるのか分からないし、少しでも筋肉を付けて、鍛えておかなければ。


「早く大人になりたい、一人前になりたいって気持ちは分からないでもないけど……そんなに急ぐ必要もないんじゃない?」


 俺が無理をして成長しようとしているとでも思ったのか、アーシェが年上のお姉さんみたいな顔をして呟く。

 いやまあ、今は俺が年下で間違いないわけだが……本来は大人である立場からすると、なんだか皮肉を言われているような気分だ。


「……今すぐ大人になりたいわけじゃないよ。俺の年齢で最強の状態になっておきたいだけなんだ」

「ふーん、最強ねえ。なんか男の子、って感じね」

「とりあえずマッチョになりたい」

「う、うーん、それはちょっと……あんまりかわいくないからやめた方がよくない?」


 アーシェは困ったような顔をしていた。

 所詮、女には男の気持ちなんて分からないか。

 背丈が縮んで、筋肉を失った事なんてないだろうしな。あってたまるかって話だが。


 そこへ、トレイを抱えた小柄な少女が近付いてきた。

 椅子を引き、アーシェの隣の席に腰を下ろしたのは、同じクラスのメルティだった。

 メルティは丸くて大きなパンみたいなものをトレイに載せていた。あれが昼食なのか?


「……やっと見つけた」

「なんだ、俺の事を捜してたのか?」

「お昼を奢るという約束だったから。約束は守らないと」


 ああ、そういやそうだったな。すっかり忘れてた。

 しかし、約束を守るためにわざわざ俺を捜していたなんて、意外と律儀なんだな。


「すごい量。それを奢ってあげないといけないのね……」

「いや、別にいいよ。奢ってもらうのはまた今度って事で」

「情けをかけるつもり? 年下のくせに生意気ね」


 メルティにジロッとにらまれ、困ってしまう。

 俺達のやり取りを見ていたアーシェは、なにやらニヤニヤしていた。


「なんかいつの間にか仲良くなってるじゃない? 天才同士で気が合うのかな?」

「別にそんなんじゃ……」


 メルティは横目でアーシェを見て、表情一つ変えずに淡々と呟いた。


「それは皮肉ですか? 学年でトップの天才剣士さん」

「う、ううん、そんなつもりじゃ……たぶんアロン君は私よりも強いと思うし……」

「えっ、この小僧が?」

「お、おい、小僧はねえだろ、小娘」

「うるさい。私の方が年上なのを忘れないでよね」

「勝負は俺が勝ったけどな」

「くっ……!」


 メルティはギリギリと歯噛みし、めちゃくちゃ悔しそうにしていた。

 あー、やっぱり怒ってるのか。それだけ自分の実力に自信を持っていたんだろうな。


「……呪ってやるわ。身長がそれ以上伸びない呪いをかけて……」

「ば、馬鹿野郎、それはやめろ! シャレになんないだろ!」


 思わず叫んでしまった俺に、アーシェとメルティは目を丸くしていた。


「冗談なんだけど。本気にするなんてやはり子供ね……」

「なんだとこの野郎! じゃあ、俺も呪いをかけてやるぜ! メルティの胸が一生ツルペタのまんまになる呪いをな!」

「……誰がツルペタなのかしら。乳歯を全部引っこ抜くわよ、お子様」


 メルティも本気で怒ったようで、ギロッとにらんでくる。

 だが、頭に来たのはこっちも同じだ。よりによって身長が伸びない呪いをかけるだと?

 たとえ冗談でも言ってはいけない事があるだろうが……!


 今にもつかみ合いの喧嘩を始めそうな俺達に、アーシェが告げた。


「はい、そこまで! 食事をする場所で喧嘩なんかやめなさい。どうしてもやるのなら、外に出てやって」

「「……」」


 彼女の言葉に冷静さを取り戻した俺は、居住まいを正した。

 いかんいかん、俺とした事が……子供相手に本気で怒ってどうする。ここは俺が大人にならなきゃな。

 メルティも少しは落ち着いたのか、不愉快そうにしながらも大人しくなった。


「やれやれだわ。人より優秀だとプライドも高いって事かしら? 二人とも意外と短気よね」

「俺は短気じゃないぜ? お子様のくせに年上ぶってる姉ちゃんに嫌味言われてもにっこり笑ってスルーできるぐらい心が広いんだ」

「私だって短気なんかじゃないわ。失礼極まりない年下の小僧が相手でも冷静に対応してあげてるし」

「……誰が年下の小僧なんだ?」

「年上ぶっている姉ちゃんって誰? はっきり言いなさいよ」

「やめなさいって! 似たもの同士なんだから仲良くしたら?」

「似てねえし」

「似てないわ」


 不愉快をあらわにして呟く俺とメルティに、アーシェは苦笑していた。


「……ともかく、約束は守るわ。その大量の肉料理の代金は私が払うから」

「いいって言ってるのに。そうだ、メルティも肉を食え! 発育を促進するかもしれないぞ!」

「やかましいわ! 私は年相応に育ってるし! 発育が足りてないみたいな言い方はやめなさい!」

「えーっ、でも……アーシェに比べるとかなり……」

「この人は同年代でも発育がよすぎる方だし、私より三つも上なんだから差があって当然でしょ! こんなバインバインに育ってるのと比べないで!」


 メルティが叫び、猛抗議してくる。あまりの剣幕に気圧されてしまい、俺は何も言えなくなってしまった。


「私を引き合いに出さないでよ……すごいとばっちりだわ……」


 周囲の注目を集めてしまい、アーシェは真っ赤になって顔を伏せていた。

 発育がよすぎるってのも大変みたいだな。くじけないですくすく育ってほしいものだ。

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