66.さらば、盗賊都市
翌朝、俺達は宿を引き払い、王都に戻る事になった。
馬車に荷物を詰め込み、出発の準備をする。
カエデが率いる警備隊の面々も、引き上げる事にしたらしい。
俺達とは別の馬車を用意し、帰り支度をしていた。
「結局、魔女を取り逃がしてしまったか……残念だ」
昨日、騒ぎが治まるのと同時に、ベルリエルは姿を消した。
俺には一応、別れを告げていったが。
「また会おう、魔剣帝の弟子とやら。アロン、と言ったな? その名前、覚えておくぞ」
「おう、またな! 捕まらないよう、盗みはほどほどにしとけよ」
「考えておこう。じゃあな」
フッとクールな笑みを浮かべて去っていったベルリエルを、カエデ率いる警備隊の連中がすごい剣幕で追いかけていった。
「待たんか、魔女め! 貴様を国家反逆罪で逮捕、処刑する! 逃げれば逃亡罪と公務執行妨害も追加だ!」
「フハハハハ、捕まえてみろ、国家の犬どもめ! 我は自由、自由なのだ!」
高笑いを上げ、略奪の魔女はいずこかへ去っていった。
まあ、なんだ。そんなに悪いヤツじゃないみたいだったし、逃がしても問題ないだろ。
なにかやらかしたら、その時は俺が責任を取って対処しよう。
巨大モンスターが暴れ回った事で、街はかなりの被害を受けていた。
都市の西側を中心に、瓦礫の山となってる。数年前に、俺が半壊させたのが都市の東側だったから、これで東西のバランスが取れたのかもな。
早速、壊された建物の撤去作業が行われている。作業は盗賊ギルドの連中が中心になっているようだ。
騒ぎを起こした張本人がギルドマスターなので、その罪滅ぼしってところか。
「また魔剣帝が暴れたらしいぜ。とんでもねえヤツだよな……」
「この街に恨みでもあるのかね? 鬼だな、あの野郎は」
「悪魔や魔女が出たって噂もあるが、どうせ魔剣帝のヤツが呼び寄せたんだろうな」
街の住民がそんな話をしていて、引きつってしまう。
カイルのヤツが魔剣帝に扮して名乗りを上げたからか、その後の騒ぎもすべて、魔剣帝が関わっているのではないかと噂になっているようだ。
そりゃまあ確かに無関係じゃないが……ますますこの街での悪評が広まりそうだな。しばらく近付かないようにしておこう。
「私達も街を出る事にしますよ。皆さん、お元気で」
挨拶に来たのは、カイルのヤツと、僧侶のリリアだった。
カイルはもう仮面をつけていなかった。魔剣帝を名乗るのはやめたのか。
「本物が無事なのが分かったので。偽者はもう必要ないでしょう」
「……そうだな」
去っていく師匠に、弟子であるマヨネラとアーシェは名残惜しそうにしていた。
「先生、もっとゆっくりお話をしたかったですわ。あまりおかしな事ばかりしないでくださいね」
「そうですよ。よりによって魔剣帝様の名を騙るなんて……一応、世間的には同格なんですから、ご自分の名に誇りを持ってください」
「ふ、二人とも、厳しいね。私はそんなにダメかな? これでも友のためによかれと思って……」
「方向性が間違っていると思いますわ。もっとしっかり考えて行動してくださいまし」
「先生に魔剣帝様の真似は無理ですよ。基本的に地味なんですから、もっと自分のキャラを把握してですね……」
「も、もういい、やめてくれ……弟子に駄目出しされるのって辛すぎるよ……」
弟子がいるっていうのも大変みたいだな。やっぱり俺は弟子を取らない主義を貫こう。
隣でニコニコしているリリアを見て、俺は小声でカイルに尋ねてみた。
「あの僧侶の姉ちゃんはなんなんだ? もしかしてお前の嫁さんか?」
「ははは、そんなわけないでしょう。彼女は単なる仕事上のパートナーですよ。私が余計なものを斬ってしまってもすぐに治してくれるので、とても重宝しています」
「そうなのか? お前が女と組むなんて珍しいと思ったからてっきり……特別な関係なのかと」
「違いますから。彼女に失礼ですよ」
そういうもんかね。モテない俺には分からないな。
ちなみにカイルのヤツはやたらとモテる。美形で物腰が柔らかいからだろうな。なぜか弟子には厳しい評価をされているみたいだが。
「しかし、きれいな姉ちゃんだな。そうだ、子供のフリして抱き付いてみるか」
「ははは、やめてください。殴りますよ?」
近いうちにまた会おうと言い残して、カイル達は去っていった。
「早く元に戻るよう努力してください」とも言われたが……俺だって戻りたいよ。子供のまんまじゃ苦戦してばかりだし。
「なんだか大変だったけど、結構楽しかったわね!」
「私は疲れましたわ……盗賊都市なんて、もうこりごりですわ」
「色々勉強になったかも。魔女と渡り合えるように、もっともっと修行を積まないと」
それぞれの感想を口にしながら、馬車に乗り込み、出発する。
俺的には、それなりに収穫はあったかな。
魔剣は取り返せたし、カイルにも会えた。メルティの魔法で一時的に成長する事が可能なのが分かったし、ここに来たのは無駄じゃなかったと思う。
ただ、少しだけ、心残りが……結局、古い知り合いには会えなかったんだよな……。
馬車の窓から、ぼんやりと街並みを眺めていると。
とある建物の天辺に、頭に布を巻いて顔を隠し、余った長い布を首からなびかせている、妙な人物の姿が目に入った。
「!? あいつは……」
そいつは軽く手を挙げ、姿を消した。
「どうしたのアロン。なにかいたの?」
メルティが尋ねてきて、俺は苦笑した。
「ああ。知り合いが見送りに来てくれたらしい」
今のは目の錯覚か? いや、違う。確かにいた。
ダークの爺さん、生きていたのか。ホッとしたぜ。
――あばよ、盗賊王。縁があったら、また会おうぜ。
今回で二章は終了です。
ここまでお読みいただきましてありがとうございました!
三章は未完成なので、いずれ完成させられたら投稿したいと思います。
それではまた。




