63.大乱戦
巨大なモンスター、装甲竜は街の裏通りを這い回り、手当たり次第に建物を壊していた。
蛇のような細長い身体を脈動させ、建物に激突、押し潰す。
さらに口を開いて、ファイヤーブレスを吐き、激しい炎で街を焼き尽くそうとしている。
いきなり街中に出現した巨大モンスターに、住民達は訳も分からず逃げ惑うばかりだった。
中には果敢に挑む者もいたが、まるで歯が立たずに弾き飛ばされていた。
「うわあ、盗品を売りさばいてる俺の店が! 潰されちまった!」
「うちの賭場があ! 旅行者から金を巻き上げてる優良物件が! ひいいい!」
「さらった子供らが逃げちまった! なんてひどい真似をしやがるんだ!」
建物を壊され、絶叫を上げる盗賊ども。
……この街は、一度滅ぼした方がいいのかもしれない。ほんと、ロクでもない連中の吹き溜まりだな。
「たとえ住民が泥棒ばかりだとしても、放ってはおけませんわ! やりますわよ、アーシェ!」
「はい、お姉さま! 気は進まないけどがんばります!」
暴れ回る装甲竜に、マヨネラとアーシェの姉妹弟子二人組が攻撃を仕掛ける。
二人とも魔力をまとい、魔力剣を使って打ち込み、すばやく離れるという、ヒットアンドアウェイに徹しているようだ。
悪くない戦法だ。残念ながら、モンスターには効いていないようだが。
なにしろ鎧を装備した竜だからな。防御力が高すぎるのだ。並みの攻撃ではダメージを与えられないだろう。
「この都市に魔女は二人もいらぬ! 貴様は死んでしまえ!」
「ほざけ。お前こそ消えてなくなれ」
上空では、魔女の二人が攻撃魔法を撃ち合っていた。
互いに、相手が撃った魔法を避けたり、障壁を展開して弾いたりしている。
「くらえ、超爆雷撃!」
「なんの、死の雷!」
二人が放った魔法が街のあちこちに落下、激しい爆発を起こしている。
「うわあ、スリの儲けで建てた俺の家が! 木っ端微塵に!」
「盗品を保管してる倉庫が吹き飛んじまった! 大赤字だ!」
「奴隷がみんな逃げちまったぞ! 魔法の撃ち合いとか、よそでやってくれよぉ!」
うん、やっぱりこの街は滅びた方がよさそうだ。まともな住民はほとんどいないみたいだな。
早いとこ、マヨネラ達か、ベルリエルの加勢に行きたいところだが……。
俺の前に立つ鎧騎士が、それを許してくれそうにない。
「この俺と戦っている最中に、仲間の心配か? ナメられたものだな……」
「いや、別にナメてるわけじゃ……」
膨大な魔力に、暗黒の闘気をみなぎらせた魔族の騎士と対峙し、冷や汗をかく。
先程は運よく一撃を入れられたが、もはやそんな隙はなさそうだ。
俺にとってはありがたくない事実だが……装甲竜や魔女よりも、この魔族の騎士の方が、ワンランク上の強さを備えているのが分かる。
よくこんな強い力を持った魔族を召喚できたものだな。あの魔女は、召喚術のエキスパートか?
「先程は不覚を取った。お返しをさせてもらう」
「遠慮したいなあ」
手にした大剣をブン、と振り、魔族の騎士は構えを取った。
姿勢を低くして、剣を後ろに引き、突きを放つ構えのようだ。
……なんかヤバイぞ。空気がビリビリと震えてやがる。
「行くぞ!」
「!」
大剣を突き出すのと同時に、魔族は突進してきた。
魔力をまとって加速し、地面の上を滑るようにして、猛然と迫ってくる。
すさまじいパワーだ。あんな攻撃を受けるのは無理、避けるしかない。
魔力をまとって加速、突進してきた騎士を避けてやる。
するとヤツはそのまま直進し、建物に激突、吹き飛ばしてしまった。
石造りの建物が薙ぎ倒され、騎士は激突した勢いを殺さずにすぐさま方向を変え、俺に向かって突進してきた。
「うわ、危ねえ!」
加速してどうにかかわしたが、騎士は建物にぶつかると即座に方向転換し、再び襲ってきた。
俺を捉えるまで、休まず突撃し続けるつもりか。単純だが厄介な攻撃方法を……!
「どうした。避けるのが精一杯か?」
「くっ……!」
攻撃を回避した直後、魔力の刃を飛ばしてぶつけてみたが、ヤツがまとっている魔力の壁に阻まれてしまい、効果がなかった。
……やはり駄目か。今の俺の力では、身体能力強化と魔力剣の発動を同時にやると、どうしても魔力剣の威力が落ちてしまう。
魔力剣のみに魔力を集中させれば、魔力の壁を破る事ができると思うが、それでは敵の攻撃を避ける事ができなくなってしまう。
回避から攻撃へ、できるだけすばやく切り替えて、攻撃に魔力を集中させたいところだが……。
「俺の魔力切れを待っているのなら無駄な事だぞ! この状態を維持したままで半日は攻撃を続けていられる!」
だろうな。魔族ってのは人間とは桁違いの魔力を持っているからな。
せめて、あとほんの少し、全力状態を維持できれば、魔族の騎士相手でも互角以上に渡り合えるんだが……。
もう何度目になるのか、魔族の突撃を回避した直後、足元を丸い物体が転がっていくのに気付き、俺はギョッとした。
あれはまさか……いや、間違いない。
物体は魔族の方へ転がっていき、ヤツが方向転換をしようとしたところで、弾けた。
閃光が迸り、轟音と共に激しい爆発が起こり、魔族を飲み込む。
「むおっ、なんだこれは……!」
さしもの魔族の騎士もこれは予想外の事態だったようで、まともに爆発に巻き込まれてしまった模様。
俺が呆気に取られていると、長い髪を後ろでまとめた黒装束の女が、傍らにスタッと着地した。
「うわっ、びっくりした! なんだ、アサシンの姉ちゃんか……」
「アサシンではない、警備隊のカエデだ! それより、なにがどうなっているのだ? えらい騒ぎになっているようだが」
カエデが疑問に思うのも当然か。
盗まれた魔剣を取り返す、という話だったのが、巨大モンスターや魔女、魔族の騎士まで出てきて暴れているんだから、わけが分からないだろうな。
「黒幕は闇ギルド所属の別の魔女で、そいつがモンスターや魔族を召喚して暴れているんだ」
「なるほど……って、それだけではサッパリ分からん! 後で報告書を提出しろ!」
「俺は子供なので報告書とか言われても分かんないな。そうだ、マヨネラさんに書いてもらおう」
「貴様、都合のいい時だけ子供になっていないか?」
カエデは呆れたようにため息をついていた。
「事情は分からんが、モンスターや魔族を放ってはおけまい。我々も加勢するぞ」
カエデが軽く右手を上げて合図すると、黒装束の集団が十名ほど現れた。
この連中は彼女の分身じゃないのか? 一応、人間の気配をしているが。
「我らが力、見せてくれようぞ! 忍法、爆雷波!」
「えっ!?」
カエデと黒装束達が一斉に懐から黒い球体を取り出したのを見て、俺は目を丸くした。
おい、マジか? つかそれ、絶対にまともな忍法じゃないよな?
俺が止める暇もなく、カエデ達は手にした爆弾を次々と投げ、魔族の騎士が立っていたあたりを爆破しまくった。
激しい爆発が何度も起こり、爆風が吹き荒れ、轟音が鳴り響く。
周りの建物はすべて吹き飛び、石畳もめくれて地面が剥き出しになっている。
「……なんの真似だ、人間ども。こんなものが我ら魔族に効くとでも思っているのか?」
爆風が晴れた後には、魔族の騎士が悠然と立っていた。
あれだけ激しい爆発に飲み込まれたというのに、まったくの無傷のようだ。
種族にもよるが、魔族というのは単なる物理的攻撃ではダメージを与える事ができない。
物理的攻撃にプラスして、魔力や闘気などを込めなければならないのだ。
ましてや相手は魔族の騎士だからな。爆弾なんかじゃ傷一つ付けられないだろう。
「むっ、まだ火力が足りないか! 総員、次弾用意! 火力を倍にするぞ!」
カエデが叫び、黒装束達が一斉に新たな爆弾を取り出す。
今度は全員、爆弾を二個ずつ持っている。爆弾の量を二倍にしたわけか。
「忍法、爆雷波二連撃!」
次々と爆弾を放り投げ、魔族の騎士に激しい爆発を食らわせる。
無茶苦茶な攻撃方法だが、威力は相当なものだな。あれならドラゴンでも倒せそうだ。
もっとも、魔族が相手では通用しないだろうが。火力を上げればいいってもんじゃないよな。
「我々が足止めをしているうちに、ヤツを倒す方法を考えろ! なにかあるのだろう?」
「えっ? なぜそう思うんだ?」
「貴様の態度で分かる。実に憎たらしい小僧だが、貴様には底知れぬなにかを感じる。方法があるのなら、さっさと実行しろ!」
「……」
なんだか意外だが、カエデは俺の事をそれなりに評価してくれているらしい。
確かに俺は、あの魔族の騎士を倒す方法を知っている……というか、どの程度の力で挑めば倒せるのか、経験で分かる。
問題なのは、今の俺にはそれだけの力がない、という事だ。
ブロードザンバーにありったけの魔力を込めて、パワー全開で叩き込めば倒せるかもしれないが……それは敵が防御もせずに棒立ちしてくれていた場合だ。
防御されれば攻撃は通らないだろうし、そもそも避けられてしまうだろう。
敵の動きを止めた上で、防御できないようにしなければならない。ハッキリ言って無理だよな。
「アロン!」
「!?」
俺の名を呼んだのは、メルティだった。
戦いには参加せず、オロオロしていたみたいだが、俺の援護をする事にしたのか?
ありがたいが、メルティでもあの魔族の騎士の相手をするのは危険だろう。アーシェ達の援護に向かってくれた方が……。
「私なら、あなたを魔剣帝に……近付ける事ができるわ!」
「魔剣帝に近付ける? それってどういう……」
俺の問い掛けに、メルティはニヤリと笑ってみせたのだった。




