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62.真の黒幕

「まずは名乗っておこうか。私の名は、ヌーガジャバー。闇ギルドに属する、魔女……という事になっている」

「闇ギルドにいるヤバそうな魔女っていうのはあんたの事か……!」


 魔女は否定も肯定もせず、上空からぼんやりと俺を見つめ、呟いた。


「この男には悪魔の力を封印した宝珠を与えたのだが、効果はイマイチだったようだな。あんな子供にすら勝てないとは」

「悪かったな、子供で。次はあんたが、子供に負けてみるかい?」

「それは遠慮しておこう。子供と遊ぶ趣味はないのでな」


 上半身だけになった悪魔が、魔女に叫ぶ。


「お、おい、魔女! なんとかしろ! もっと強力なアイテムはないのかよ! 弟子のガキに勝てないんじゃ、魔剣帝に勝てるわけないじゃねえか!」

「当然だろう。貴様ごときが少し力を得たぐらいで、魔剣帝に勝てるはずがあるまい」

「な、なんだと? なら、なんで俺に悪魔の力なんかを……」


 困惑した様子の悪魔に、魔女は眉一つ動かさず、淡々と呟いた。


「私は、人間が争う姿が好きなのでな」

「なっ……」

「貴様に力を与えれば、争い事の火種になるだろうと思った。予想通り、いい感じに争ってくれたようだが、火種としては弱かったか。もっと激しく、醜く、大勢の人間を巻き込んでほしかったのだが……」

「な、なんだ、そりゃ……そんな事をしてなんになるんだ?」

「なんになるって……楽しいだろう? 人間が醜く争う姿は最高だ。しかもその争いを仕組んだのが自分だったら……楽しくてたまらないとは思わないか?」


 ギルマス悪魔は絶句していた。魔女の狙いがそんな事だとは思いもしなかったってところか。


「あいつは、野次馬の魔女ってところか?」

「おい。間抜けな二つ名を勝手に付けるんじゃない。一応、『観劇の魔女』と名乗っている」


 俺の呟きに、魔女がツッコミを入れてきた。

 やっぱり魔女って変人ばっかだな。そしてヤツは、邪悪な部類の魔女ってわけか。


「この程度の争いで終わってしまっては、期待外れもいいところだ。仕方ない、新たな駒を追加してやるか……」


 魔女が長い杖を振りかざし、なにかの呪文を唱え始める。

 新たな駒だと? そいつはもしかして、新手の敵を呼ぶって事か?

 つまり、あれは……召喚魔法か?


「出でよ、破壊の化身、心を持たぬ竜よ……装甲竜、メタルアーマードラゴンを召喚……!」


 空中に馬鹿でかい魔法陣が出現し、そこから巨大な物体が降下してくる。

 そいつは蛇のように細長い体型をした、特大のモンスターだった。

 頭部から尻尾の先まで、全身が鉛色の鎧で覆われている。あれでも一応は竜族なのか。


「メタルアーマードラゴンの攻撃! 街を破壊してしまえ!」

『グォオオオオオオオオオオオオオ!』


 魔女の命令を受け、装甲竜が吠え、巨体を揺るがして動き出した。

 指示の出し方がなにか変だが……召喚したモンスターには、ああいう感じで命令するものなのか?

 ともかく、あんな巨大モンスターが暴れ回ったら大変だ。さっさと倒して……。


「魔剣帝の弟子とやら。貴様には別の相手を用意してやろう……」

「えっ?」

「出でよ、魔界の戦士よ、血も涙もない殺戮者よ……『魔族の騎士』を召喚……!」

「なっ……!」


 先程よりも小さな魔法陣が出現し、新たなモンスターが姿を現す。

 大きさ的には悪魔化したギルマスと同じぐらい。刃のように尖った装甲で構成された、禍々しい形状の全身鎧を装備した、暗黒の騎士。

 全身からどす黒い魔力を放っていて、只者ではないのが分かる。


 ……マズイな、どうも本物っぽいぞ。

 まさか、あの魔女が魔族の騎士を召喚できるとは……コイツは本格的にヤバイ。


 魔族の騎士は、魔族の中でも戦闘に特化した連中だ。

 かつて、魔族と人間との間に大きな戦争が起こった際、魔王直属の精鋭として騎士の称号を与えられた者達がいた。

 その名残りか、今でも騎士の称号を持つ魔族が存在する。

 魔族の騎士、魔騎士と呼ばれる者ども。奴らは例外なく高い戦闘能力を備えている。


 俺は過去に何度か遭遇し、戦った事があるが……かなりの苦戦を強いられた。

 今の俺が戦ったとして、勝てるかどうか。ちょっと苦しいかもしれない。


「私達は、竜を! 行きますよ、アーシェ!」

「はい、お姉さま!」


 マヨネラとアーシェが、装甲竜の方へと向かう。


「では、我は……同業者の相手でもしてやるか!」


 ベルリエルが呟き、上空へ舞い上がり、赤髪の魔女と対峙する。


「貴様、よくも我を巻き込んで好き勝手にしてくれたな! 落とし前を付けてもらおうか!」

「……貴様など知らん。私自身が直接戦うのは面倒だが……やる気なら相手をしてやろう」

「上等だ!」


 メルティは周りを見回してオロオロとうろたえ、どう動くべきか迷っている様子だった。

 俺がメルティに、アーシェ達の援護に向かうように指示を出そうとしたところ、


「どこを見ている。貴様の相手はこの俺だ……!」

「!」


 魔族の騎士が、瞬間移動に近いスピードで俺の眼前に移動し、手にした大剣を横薙ぎに叩き込んでくる。

 俺は加速して後退し、敵の間合いから離れた。


「ほう、今の一撃をかわすとは……どうやらただの子供というわけではなさそうだな……」

「まあな。一応、世界一強い剣士の弟子って事になっているんでね……!」

「面白い。どれほどのものか、見せてもらおう」


 俺の四倍近い背丈に、身長と同じぐらいの長さの大剣、か。

 リーチの差が四倍強っていうのは、結構キツいな。パワーもスピードもありそうだし、子供にされて以降、出会った敵の中では最強かもしれない。

 ブロードザンバーを鞘に収め、腰のベルトに差しておく。

 魔剣をソードウインドに切り替え、構え直す。


「俺は、魔族の騎士、ブラドヘル。小僧、貴様の名は?」

「アロン・エムスだ。よろしくな」

「……アロン・エムスだと? まさか、それが本名なのか?」

「ああ、そうだが。なにか変か?」

「いや……割とよくある名前なのか?」

「かもな」


 俺の名前に聞き覚えでもあるのか。エムス村で育ったアロン君は、この世に俺一人だけだと思うが。

 本当は、魔族に名前を教えるというのは危険なんだが……名前に関連して術をかけたりするヤツがいるからな。

 コイツはそういうタイプではなさそうなので、つい名乗ってしまった。


「俺は、敵として対峙する者は子供だろうが老人だろうが容赦なく倒す事にしている。死にたくなければ、殺される前に降伏しろ」

「そうする。あんたも死にたくなかったら降参しろよ」

「……面白い。俺にそんな軽口を叩いた人間は初めてだ……」


 ブラドヘルは右手に握り締めた大剣を大きく振りかぶり、真正面から踏み込んできた。

 なんの工夫もなく、剣筋も丸分かりの、普通の攻撃だ。

 ただし、剣に込められたパワーが尋常ではない。俺を斬るというより、消し飛ばすつもりで打ち込んできたようだ。


 まともに受ければ、死ぬ。下手にかわせば、すかさず二撃目が叩き込まれるだろう。

 なら、俺が取るべき行動は――。


「でやあ!」

「!?」


 加速して踏み込み、あえて敵の間合いに飛び込む。

 間合いを詰めて斬りかかろうとしていた敵は、攻撃のモーションの途中に割り込まれた形になる。

 そこで俺は魔力剣で斬りつける。敵は俺の攻撃を避けるか受けるかしなければならない。


「ちっ……!」


 魔族の騎士は大剣の軌道を変え、俺の魔力剣を極厚の刃で受け止めてみせた。

 やるな。だが、その動きは俺の読み通りだ。

 剣を受けさせてからその場で回転、懐に潜り込み、風をまとった魔力剣で敵の脇腹を――斬る!


「ぐっ……!」


 真横へ飛び、反撃を受ける前に離れる。

 手応えはあったが、どうだ?


「や、やるな。今の動き、人間業とは思えん……」

「……」


 斬った鎧の脇腹から、黒い霧のようなものがあふれ出ていたが、騎士が手で押さえるとすぐに止まっていた。

 浅かったか。というか、単純に威力が足りていないな。


「俺の攻撃に対し、迷わず懐に飛び込むとは……まるで百戦錬磨の戦士のようだ。魔族の騎士と戦うのにも慣れているような……」

「いや、まぐれだよ、まぐれ。上手くいってホッとしてる」

「なにより、魔族を前にしてまったく恐怖を感じた様子がないな? それなりに腕の立つ剣士でも、魔族と戦う際には強い緊張と恐怖を覚えるものだというのに……本当に人間か、貴様」


 やべえ、またやっちまったか。少しは子供らしく怯えてみせるべきだったか?

 魔族との戦いに慣れているのは確かだが、今の俺はめちゃめちゃ弱くなっている事を忘れないようにしなければ。

 本来の姿の時と同じ気分でいて、まともにやり合ったりすれば、確実に殺されるぞ。


「もしかすると、俺は……とんでもない相手と戦うはめになったのかもしれないな。本気でやらせてもらおう……!」

「い、いや、ほら、俺はまだ子供だし、お手柔らかに……」


 魔力をみなぎらせ、すっかりやる気になった様子の魔騎士に、俺は冷や汗をかいたのだった。

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